第81話 ファスナーを売る

 実家に稼業と関係ない注文を出してしまった。

 次元門に通るおもちゃみたいなミシンだ。

 それからノートパソコンの小さい奴と小さいプリンター。

 兄貴は電話で面倒だと言いながら対応してくれた。

 金のインゴットは蔵の床下にあったと誤魔化して売ったらしい。




 店長にも注文を出した。

 ピーラーをダンボール一箱だ。

 最近はテレビの効果でスーパーの売り上げが凄いらしい。

 お金も後払いで良くなった。




 ミシンとパソコンの電源は借りている部屋から取る。

 インターネットは部屋に端子があったのでそこに繋ぐ。

 型紙はパソコンで打ち出した。

 A4の紙に合わせて分割するのは大変だが、なんとかパソコン上で分割した。




 フィオレラにミシンを踏んでもらって、雑務ギルドに出すサンプルの服を作る。

 ミシンに慣れるまでフィオレラは悪戦苦闘。

 二時間ぐらいでスキルが切れるので、十分ぐらいの休みを入れながら作業する。

 魔力疲労にならない魔石からの吸収は本当に役に立つ。




 なんとか、ファスナーの付いたジャンパーと面ファスナーを使った財布。

 それと、ゴム紐を使ったスボンが出来た。




 ご褒美でフィオレラに前のスマホに有った画像データを見せる。

 俺の子供の頃の写真を見て可愛いを連発していた。

 前のスマホをねだられあげる事に。

 使ってないから良いけど。

 他のメンバーにはスマホを見せないように念を押した。




 商業ギルドに行く。


「クリフォードさん、今日は新しい仕事の話をもって来ました」

「ほう、どんな聞かせて下さい」

「えっと、新しい商材で服と小物を作りました。」


 テーブルに服と財布を置く。

 クリフォードさんはそれを手に取るとチェックし始めた。

 引っ張ったり眺めたり忙しく動く。

 ファスナー、面ファスナー、ゴム紐の説明をする。




「すばらしいですな。商品はギルドにどれぐらい納入できるのですか」

「直接は納入しません。お針子に売って服を町の外に売るようにしたいと思います」


 なぜそうしたかと言うと、侯爵に有用性を見せる為だ。

 産業が活性化すれば、税収は上がる。

 時間が経たないと効果は出ないかもしれないが、コツコツとやるのが良いと思う。




「うーん、少数で良いのでなんとかなりませんか」

「仕方ないですね。じゃあ少しだけ」


 クリフォードさんにはお針子の相談に乗ってもらいたい。

 必要経費と割り切ろう。




「それと、これを持ってきました」


 ピーラーを差し出す。

 クリフォードさんは何に使う道具か分からないようだ。

 盛んに首を捻って、ブツブツと呟く。


「野菜の皮を剥く道具です。芋を持って来たのでやってみます」


 シャッシャッと芋を剥く。


「やってみても」

「ええ、どうぞ」


 クリフォードさんはピーラーを持つと芋の皮を剥き始めた。




「こんなに簡単に出来るとは凄い。ネックは真似される事ですね」

「まあ権利料が少しでも入ればいいので」

「それなら三パーセントでどうでしょう」

「それで良いですよ」




 雑務ギルドでは空いてるお針子に雑務ギルドの会議室に来てもらうように依頼を出した。

 翌日、集まった十人ぐらいのお針子を前に説明会を開く。

 集まったお針子は全て女性だ年配の人が多い。


「本日はお集まり頂き有難うございます。これから説明をするシロクです」

「何を教えてくれるのさ。まあお金貰っているから損じゃないからいいけど」


 同様の声が幾つも上がる。




「これからサンプルを配りますので、気に入った方は注文して下さい」


 サンプルを配ると目付きが変わる人が何人かいる。

 特に面ファスナーの食いつきが良い。




「手前共が作った服の見本もあります。前にありますので、ご自由に手にとって下さい」


 お針子達は我先にと服をチェックに掛かる。




「あのー、これもの凄く縫い目が気になるんですけど」


 ああ、ミシン使ったからな。そりゃ手縫いとは違うよ。


「ええっと、そうですね秘伝です」

「これ人間技だと思えないのですが。もしかしてスキルなのかな」

「秘伝です」


 威圧を込めて強引に断ち切る。


「このファスナーだっけ、どうやって作ってるの」

「秘伝です」


「この面ファスナーどうしてくっ付くのかしら」

「ある植物の種が衣服に付くのを見て思いついたそうです。それの原理を使ってます」


「ズボンのゴム紐どれぐらい使えるのかい」

「半年ぐらい持つと思います。洗濯の頻度で変わると思いますが」


「この服欲しいわね。譲ってくださらない」

「見本ですので」


「始めて注文を頂いた方にはこの皮むき器をプレゼントします」


 ピーラーで芋を剥いて見せる。

 ピーラーは景品だ。

 安いからな。




 説明会は無難に終わる。

 同様の説明会を幾日も開く。

 何回も出席する常連さんも出来た。

 大量注文もぼちぼち入り始めたので説明会はやめにする。




 ファスナーなどの受注と在庫管理はレシールさんに任す。

 仕事を与えられたレシールさんは不満そうだったが、工房の利益にするからと言ったら二つ返事で承諾した。

 どうも不安だったので、補佐に雑務ギルドから人員を派遣してもらう事に。




 商売も一段落した頃、なんとフィオレラに弟子入りしたい者が現れた。

 あの見本を作った人と会わせてくれ頼まれ、付き纏われて根負けしてしまう。

 フィオレラに会わせるとその場で弟子入りを志願した。




 しょうがないので、あの縫い目は秘伝の機械で縫ったと明かす。

 それでも弟子入りしたいらしい。

 現代のデザインもインターネットで調べられるから、それを勉強させると言う事でフィオレラが弟子にした。




 彼女の名前はジェルリアで今年十三才。

 自分の店を持つのが将来の目標らしい。

 秘伝の機械を使わせろとうるさいので、足踏みミシンの設計図を手に入れ渡す。

 ちなみに設計図はどこで手に入れたかというと、戦前から続くミシン屋にあった。

 実家の伝手は非常に頼りになる。




 金を彼女に出させるのはあんまりなので、援助する事にした。

 工房に仕事を頼んだらどこも無理だと断られたみたいだ。

 駄目元で良いからと言ったら、なんとかやってみる工房があったらしい。

 あんまり金ばかり使って成果がでないようなら、やめにするけど。

 とりあえず大金貨一枚を研究費として出す。




 工房から悲鳴が上がり。

 ネジを切る道具や物の寸法を正確に測る道具などを地球で調達することに。

 こんな簡単な道具だけでは作れないだろう。

 気長に待つか。




 この世界の単位が地球と同じなのは調べたら、稀人が伝えたという事が分かった。

 なんでも商業ギルドの生みの親だそうで、不思議な事に名前は伝わっていない。

 たぶん現地の人には発音できなかったのだろうな。複数の呼び名が残っている。

 ただ、疑問はある。

 五百年も前の話だそうで、なぜメートル法を知っていたのか。

 時空の歪みは時間も歪ませるのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る