第70話 ポーション

 例の避妊魔道具が出来てしまった。

 魔道具を作るのはフィオレラとの共同作業になる。

 使用方法などを説明するのがかなり恥ずかしかった。

 男性側が装着する事にして形状はベルト型で水魔法がブリーフの形に展開される。

 極力薄くしたので魔力消費も少ない。

 伸縮性と強度の調整が手間だった。




 恥かきついでにフィオレラにこの世界の避妊事情を聞く。

 避妊の薬とかは無いそうだ。

 避妊魔法も無い。

 これはひょっとしたらヒット商品になるのかも。

 性病防止にもなるし。

 少し恥ずかしいが使用データを取ってから改良して商業ギルドに持っていくとしよう。

 さてと薬師ギルドで薬草取り指南の依頼を出すとするか。




 薬師ギルドは少し草臥れた外観で薬草と瓶の図柄の看板が掛かっている。

 どのギルドでもお馴染みの受付があった。

 前掛けをした薬師であろう人物がひっきりなしに訪れている。




 空いていた受付で色々話を聞いていたら変な女が割り込んで来た。

 どこが変かと言うとぼさぼさの頭だ。

 それはまあ良い。

 髪を七色に染めている。

 もの凄く派手だ。

 エプロンには緑の染みが到る所にあり薬品の様な何とも言えない複雑な匂いを放っている。




 喧嘩腰で女が話す。


「あんたさっきから後ろで聞いていたけど馬鹿なんじゃ」


 なんか上から目線だな。


「ええとどこら辺が」

「全部よ! 全部!」

「具体的にどういう事ですか」


 女は講義をする教師の口調で話す。


「頭の悪そうなあなたに特別に説明してあげる。いい、薬師は薬草の生えている場所を秘密にするわ」

「それで」

「まだ分からないの。鈍いのね。あなたの依頼なんて誰も受けないわ」

「でもハンターは薬草採取の護衛しますよ。場所が分かってしまうのでは」

「だから最初はばれても問題ない場所に護衛してもらって、その後信用できるパーティには指名依頼を出すわ」


 困ったな薬草採取の護衛して伝手を作るのが遠回りのようで近道かも。




「依頼は諦めます」


 女はほくそ笑みながら、提案してきた。


「そんなあなたに朗報があるわ。無料で薬草採取の護衛をしてくれれば薬草の採りかたを教えてあげる」


 うん悪く無い提案だな。


「その話に乗ります」

「じゃあ私に銅貨一枚で指名依頼を出して。アリーチャよ」

「Aランクハンターのシロクです」

「あなた、なかなかやるのね」


 俺の事を見直したようだ。尊敬の感情が視線に篭ったように思えた。


「それほどでも」




 パーティメンバーとレシールさんを薬師ギルドに集める。


「みんな紹介する薬師のアリーチャさんだ」


 フィオレラはアリーチャさんを見て何か勝った様な顔をする。

 皆は奇抜な髪を興味深げに見ている。。

 挨拶を交わし簡単な自己紹介をしてオークの領域に繰り出す。




 いかにも珍妙な物を見たという態度でアリーチャさんは話す。


「ところでその変な筒は何かしら?」


 これがあるから他の人をパーティに入れたくないんだよな。


「武器ですよ。詳細は秘密です。魔導金属で出来ているという事だけは言っておきます」

「そうなの。まあどうでもいいけど」




 立ち止まる事なくアリーチャさんはオークの領域を案内して薬草の群生地に着いた。

 何千本はあろうかと思う程草が生えている。


「凄いこれ全部が薬草ですか?」

「馬鹿ね。それだったら薬師は大金持ちよ。この中の十株程が薬草よ」

「どうやって見分けるのですか?」

「葉の色や茎の色で見分けるわ。後は勘ね」


 勘と言った彼女は誇らしげだ。習得に苦労したのだな。




 アリーチャさんは辺りをグルリと見回すと無造作に一本の草を摘んだ。


「これが薬草よ」

「分からねじゃ」


 レシールさんが先が長いのを知って愕然としている。

 がんばれ薬師見習い。




 俺も試しに探してみる。

 いくら見ても周りの草と見分けがつかない薬草は葉の色が若干薄いような気もするがどうだろう。

 ふと気になって分析でアリーチャさんの持っている薬草を見てみるとなんと魔力を持っている。

 それもかなり高い魔力だ人間並みにある。




 そしてこの魔力何かおかしい。

 イメージが付随している。

 魔法が発動している感覚に近い。

 魔力探知に引っかからない訳はこれなのだろう。

 魔法や魔術は魔力探知では調べられない。

 でもそうと分かれば話は簡単だ。

 分析で魔力を持っている草を探す。




 あったぞ。

 その草を摘んでアリーチャさんに見せる。


「すごいじゃない! もう分かる様になったの! 何か特別なコツがあるのなら教えなさい!」


 凄い勢いで詰め寄ってくるアリーチャさん。


「えっとお……申し訳ない教えられません」

「そうよね。あたり前よね。興奮して悪かったわ」

「レシールさん必死に探さなくてもいいぞ。当分は俺が薬草を採ってくるから」

「すまね」




 薬草の群生地をいくつか回ったが取り立てて変わった事がなかった。

 魔獣には出会わない。

 今日はついているかも。

 薬草は種類が違うと付随している魔力のイメージが異なる。

 色々な疑問が湧いてきたが後で考えよう。




 アリーチャさんとは少し打ち解けて薬師の話などを沢山聞いた。

 教本は薬師ギルドで下級ポーションまでなら売っているらしい。

 見習いは最初、薬草を見分けるコツなどは教えて貰えないとの事。

 技を見て盗むのが普通だと言っていた。

 完全に職人の世界だな。




 何でこんな依頼を受けてくれたか聞くと。

 高いポーションの材料を買い込みすぎてお金が無くなったそうだ。

 とりあえず下級ポーションを作って糊口をしのぐ為に俺達を利用したとなるほど。




 帰りに薬師ギルドでレシールさんを登録する。

 教本や道具や瓶などついでに買った。

 家でポーションを作りに挑戦だ。




 今日とってきた薬草を潰し濾してレシールさんが教本の通りにスキルを掛ける。

 分析するとポーションも魔力を持っているのが分かる。

 元の薬草の付随しているイメージが葉を修復するというのをポーションでは傷を治すにイメージが変わっている。




 なんとなく魔力変質のスキルが分かった。

 魔力に付随するイメージを変えるのだな。

 便利そうなスキルだ。分析してアビリティを覚える。

 これ相手が火魔法を撃って来た時に無害な水魔法に変えられないだろうか。




 フィオレラに協力してもらい土魔法を水魔法に変えてみる。

 結果は出来たが使い物にならない。

 まず魔力消費が大きいのが問題。

 それと変換に時間がかかる。

 戦闘では使えないが、何か役立ちそうだ。

 魔力消費だが似たイメージに変えるのなら少なくて済むというのを発見した。




 そうだ魔石に魔力変質かけたらどうなるんだろう。

 手ごろな魔石を持ってきて魔力をフィオレラに充填してもらう。

 魔力変質のアビリティで傷を治すイメージに変えた。




 おや魔力変質を掛ける時に魔力が足らないと思ったが足りた。

 白紙状態から魔力変質をすると魔力が少なくて済むのか。

 さてここからポーションにするにはどうするか粉にするか。

 粉にするにも小さいほうが良い。

 精錬スキルを掛けてもらう。

 粉にしても水には溶けないよな。




 そうだ混合スキルだ。

 水と魔石を混合してもらう上手くいった。

 ところでこのポーションらしき赤い水に効果は有るのか。

 調べるのはめんどくさいな。

 そうだ薬師ギルドに丸投げしよう。




 薬師ギルドで重大な発見をしたから、偉い人を出してくれと受付で言ってみた。

 受付嬢は胡散臭げな視線をよこしたが、偶々後ろにいた男性職員が俺の顔を見て氷結の大魔法使いとつぶやいて急いで奥に駆けこんだ。

 受付嬢はそういう用件は受け付けませんと言って俺と押し問答になった。




 しばらくして男性職員が帰ってきてギルドマスターがお会いになりますと。

 男性職員に案内されギルドマスターの執務室に入る。

 通された部屋には老婆がいて執務をしていた。

 ギルドマスターは忌々しげに声を掛けてきた。


「何の用だい? Sランク候補」

「えっとゴーレム使いのシロクです。今日は新しいポーションが出来たので持って来ました」

「そうかい。配合をちょっと弄くったなんて抜かすんじゃないだろうね」


 ギルドマスターは皮肉っぽい口調だ。




「ええっと魔石に魔力変質を掛けましてそれから精錬を掛けてから水と混合させました」


 ポーションの説明をしている内にギルドマスターの顔が驚きに変わる。


「魔石からポーションを作ったって」




「新しい発見ですか?」

「これは画期的だよ。採取が難しい薬草の代わりにこの方法でポーションができれば……こういう割り込み仕事なら大歓迎さ」

「それで効果や副作用を調べて欲しいと思いまして」

「効果が分かったらレシピ登録すると良い。わたしゃアデラだよ長い付き合いになるかもしれないね」

「よろしくお願いします」


 上手くいったな。駄目元だったけど。

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