第69話 ローレッタの帰郷

 馬車の御者台にフィオレラと座り草原の道をのんびりと行く。

 偶に兎が出てくるぐらいで平和なもんだ。


「後どれくらいで着きそう」


 馬車の中に居るローレッタに声を掛ける。


「もうわんつかしたら別れ道に出るんでそこば左に行って二時間程だ」


 ローレッタの指示通り別れ道を左に行く。

 景色は草原から荒野の境目といった感じになる。




 遠くから獣の唸り声と怒声が聞こえてきた。


「だれか襲われているぞ。フィオレラ急いでくれ」


 馬ゴーレムを走らせ現場に到着すると村が狼の魔獣に襲われていた。

 まずは状況を把握しよう。

 村には丸太で柵が組んであり魔獣の侵入を防いでいた。

 村人はくわすきで応戦している。

 怪我人は何人か出ているけど重傷者は居ないみたいだ。




 魔獣の特徴をローレッタから聞き出す。

 遠距離攻撃は持ってないみたいなので水魔法の粘着を展開する。

 三十匹ほどいる魔獣全て動けなくなったようだ。

 ビオンダさんだとオーバーキルになるのでローレッタと一緒に銃で仕留める。

 動かない的は楽勝だ。

 あっと言う間に片付ける事ができた。




 魔獣を倒して一息入れていると柵の向こうから農具を持った人が訝しげに話しかけてくる。


「助かった。ところでおめ何処の人?」


 通りすがりのハンターですと言おうと思ったら隣から声が上がる。


「やだなローレッタだば」


 村人は驚愕した様子で話す。


「確かにローレッタだ。垢抜けで分からねがった」


 ローレッタは都会に馴染んだのが認められたのが嬉しい素振りだ。

 このままだと脱線する一方になりそうなので断ち切る。


「魔獣の死骸をどうしましょう」


 村人は感謝しながら答える。


「倒して貰ったのに権利は主張できね」

「魔石を貰えればいいので毛皮とかは村の人の好きにして下さい」

「そった事でいのか悪いな兄ちゃん」


 村人は恐縮しながら他の村人に伝える為に駆けて行った。




 村人が沢山魔獣に群がってきた。

 どうやら、村人総出で魔獣を解体するみたい。

 毛皮を剥いだ後は肥料にするらしい。

 畑に放っとけばスライムが肥料に変えてくれるのだとか。




 この襲われた村がローレッタの故郷だった。

 フェリライト村にようこそとローレッタに言われる。

 馬車を村の中央の広場の隅に止め。

 村には宿泊施設が無いとの事でテントを馬車の隣に張る。




 ローレッタの家は木と泥壁で出来ておりこの付近では一般的な住宅の様だ。

 部屋数は四つしかなく住んでいる人数に比べ圧倒的に少ない。

 とりあえずお土産の果物を渡しローレッタを弟子にした許可を改めて求めた。

 両親は気さくな人で笑いながらそんなに堅苦しくしなくてもと言ってくれる。




 テントに帰り皆でワイワイやっていたらローレッタとよく似た女の子が尋ねてきた。


「レシールねえどしたの」


 あれローレッタは長女だったはず。幼馴染という奴だろうか。


「レッタ、わばハンターにしてけね」


 ハンター志望かどうしたもんだろう。

 たぶん理由はローレッタと同じだと思うお金稼ぎだ。




「ローレッタ紹介してくれ」


 手の平を返し女の子を指し示すローレッタ。


「こちらは従姉妹のローレシールだ」

「ローレシールさん、パーティリーダーのシロクです」


 少し緊張した面持ちでローレシールさんは言う。


「ローレシールですよろしぐ願う。レシールど呼んでけ」




「レシールさんはハンターになりたいのだよね。どんなことが出来る」


 得意げにレシールさんが話す。


「ゴブリンだったら棍棒でやっつけだ事がある」


 ゴブリンをやれるのは女の子としては凄いが前衛は要らないんだよな。




「スキルは何を?」


 ちょっとためらってレシールさんが答える。


「魔力変質、種火、強打だ」


 魔力変質は聞いた事の無いスキルだ。


「魔力変質のスキルでは何ができるの?」


「ポーションば作る時に使うとしか聞いでねだ」


 ふむポーションか興味を少し惹かれるな。




「薬師の弟子にはなれないのかな?」

「伝手が無ぐてどこも断らいだ」

「ローレッタは確か薬師ギルドで副業やってたよな。なんとかならないか?」

「手紙貰っていろった人に声は掛けだばって駄目だったおん」


 もうローレッタは色々動いたのかそれでも駄目となると。

 俺は薬師ギルドに伝手はない。さてどうするか。

 そうだ投資だと思って雇うという方法があるな。

 魔道具を使ってポーションの大量生産が出来たら、夢が広がる気がする。


「レシールさんポーション作りを独学でやる気はあるか?」

「出来ねぐても責任ば負わねぐていのなら」

「もちろん駄目元だ。教材や道具や材料は支給する。給料も出すどうだ」


 少し考えた後レシールさんは決意したようだ。


「やる! やらせでけ!」

「よし決まりだな」




 レシールさんの親にも挨拶に行った頃には日が落ちかかって少し暗くなっていた。

 お土産が無かったのでローレッタに何かないかと聞いたら干し肉をもっていきましょうと言われる。

 果物より干し肉の方が評価が高いみたいだ。

 森まで行けば果物は沢山取れるらしい。

 挨拶は無難に済み干し肉は本当にありがたがられた。




 ローレッタは実家に泊まると言って出て行く。

 俺たちはテントの前で干し肉のスープを作り携帯食とで腹を満たした。




 翌朝ローレッタが現れたのでこの辺りの情報を聞く。

 少し離れた森にゴブリンが大量発生したらしい。

 それを来た時に撃退した狼の魔獣パックウルフというらしいがゴブリンを食い漁って大量発生。

 大きな群れが幾つも出来ているみたいだ。




 ローレッタの故郷が滅ぶのを見過ごすのも目覚めが悪い。

 パックウルフを狩る事にした。

 水魔法の粘着そして銃で撃つコンボは強力で午前中だけで粗方この辺りのパックウルフは退治した。




 しかし討伐を行っている最中に新たな問題が発覚した。

 なんとローレッタが分析を使えなくなった。

 原因は実家で兄弟と話しをした時に魔力の話になって魔力は絶対感じられないと言われ。

 ふと疑問が生じたらしい。

 その時は気づかなかったが討伐の最中に発覚。

 幸いアビリティは使えるので戦力低下にはならなかったのがよかった。

 今後ローレッタは新しいアビリティは覚えられないだろう。

 不安定だとは聞いていたが、仕方ない済んだ事だ。




 村人は大量の毛皮に皆一様に喜色満面の笑顔になった。

 子供からはキラキラした目で見られ。大人達は会う人皆お礼を言ってくる。

 少し気恥ずかしかったのでレシールさんを一行に加え早々に村を出た。




 帰り道でポーション工房を立ち上げるに当たって何が必要か考えてみる。

 まず材料の薬草がなければ始まらない。

 これは薬草取りの名人なんかに依頼を出してレクチャーして貰うとするか。

 器材は買えばいいから問題ないとして。

 ポーションの作り方の教本とか探さないといけない。

 工房はどこか適当な所を借りよう。

 こんなところか。




 脇腹をフィオレラにツンツンされ例の魔道具を催促された。

 こうなったら覚悟を決めて作るとするか。

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