第22話 道場

 ハンターは通常連続して狩りに出ない。

 俺達もそれに習い、今日は休みにした。


「今から道場へ行くんだ。フィオレラも一緒にどうだ」

「はい、ご一緒させて下さい」


 フィオレラは嬉しそうに顔をほころばせている。

 ローレッタもどこか連れて行かないと拗ねるかな。




 道場は西門の近くにあり赤茶けた土間に屋根が付いてる一風変わった建物だった。

 ぱっと見たところ中では数人の門弟が木刀などを振っている。

 硬い地面の上で怪我をしないのかな。

 畳が無理なのは分かっているけれどせめて板間なら良かったのに。


「こんにちは、ハンターギルドで紹介してもらい来ました」

「こんにちは、はじめまして」

「おうなんだ。入門者か。師範のバイロンだ」


 バイロンさんはムキムキのマッチョで髪の毛は剃っているのか無い。

 とても武術家らしい風貌をしている。


「ゴーレム使いのシロクです。入門者というか初心者なので見学などやらせてもらいたいです」

「ゴーレム使いで弟子のフィオレラです」

「ゴーレム使いが武術ねぇ。まぁ、誰にやってもらっても構わないんだが」


「実は今ハンターをやってまして。武器の扱いも鍛えようと思いまして」

「で得物は何を」

「今は槍を使ってます」

「私は盾を使ってます」


「ハンターやってるなら月謝は日払いでいいな。今日は見学と言う事で無料だ。ただ見るだけだと暇だろうから基本の型を教えてやる」


 バイロンさんが木槍を使って型を八種類披露する。


「やってみろ」

「はい」


 教えられた型を一通りやってみる。以外に難しい。


「おまえさんは才能がない。才能がある奴は型の動作一つ一つの意味を読み取る。だから上達も早い」


 武術の才能はないと思っていたのでショックはない。


「やっても無駄と言う事ですか?」

「その通りだ。型の素振り三年。模擬戦を七年ぐらいやればチンピラ相手なら無双できる」


 筋力強化スキル主体の目は完全に無くなった。

 強くなるにはゴーレムの強化とそれを補助するスキルを鍛えた方がよさそうだ。


「ほどほどに頑張ります」


「さて嬢ちゃんの方はどうかな」


 フィオレラの方を見ると同じように型をならって駄目出しされていた。




 門弟が何人か素振りをしている。

 気をつけて見ると振りのスピードが速い。

 近くに寄ると風切り音が聞こえる。

 このくらい素早く振れるようにならなくちゃだめなんだ。

 素人ながら感心した。


 模擬戦をやっている所を見る。

 見ていて気づいた。

 木剣などが鎧の厚い場所をワザと打っている。

 なるほど、いくら練習でも剥き出しの所は攻撃しないか。

 暗黙の了解事項なのだろう。




「今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」


「また暇を見つけてきます」

「おう入門者は何時でも大歓迎だ」


 才能はなくても手札の一つくらいにはなるだろう。

 道場には又来るとしよう。




 その日はスキルの練習などをして終わり。

 次の休みの日。

 ローレッタもどこかに連れて行かないと。


「ローレッタ習い事なら何が良い」

「お菓子作りがしてみて」


 お菓子作りか店に習いに行くのは駄目だ。

 雑務ギルドに依頼を出してみるか。




 雑務ギルドは大通りの目立つ場所にある。

 中を覗くと女性の姿が圧倒的に多い。

 建築ギルドとは正反対の理由で入りづらい。

 度胸を決めて中に入り受付で用件を告げる。

 すると、雑務ギルドがやっている料理教室があると教えられ。

 何故か俺も参加させられる事に。




 作るのは簡単なクッキーで言われた通りに材料を混ぜ型抜きし、オーブンで焼く。

 出来たクッキーは少し硬かったが、焼きたてと言う事もあり美味しかった。


「ローレッタどうだった」

「楽しがっただ。けれど材料の砂糖が高けと思う」


 今日は楽しめたようだ。

 嬉しげなローレッタを見て連れて来て良かったと思う。


「そうか」


 家にオーブンは無いからクッキーを作るのは難しい。

 金に余裕が出来たら、オーブン作ろう。


「これよろしば」


 はにかみながら自分の作ったクッキーを差し出してくる。


「おう、あ、ありがとう」


 なんかどもってしまった。

 家庭科の実習の後に料理貰うようなものと思っておく。




 狩りの日々は続く。

 強敵は現れずフラッシュバンとカプセルのコンボ。

 それが、通じない時はストーンゴーレムによる蹂躙で危なげなく片付けられた。




 狩りの日と休みを十回程繰り返したある夕方。

 いつものスキル練習の時についにやってしまった。


「ローレッタ、魔力を流すぞ」


「あっなんか分かる気がす。心臓の辺りに何かある」

「それが魔力だ。駄目元でやってみたが、本当に分析してしまうとは」


 この技術はやばい。覚悟を持ってやった事だ。

 しかし、どんどん深みに嵌っていくような気がする。

 とりあえずローレッタに口止めだな。

 それと稀人であるのを明かす時が来たと思う。


「ローレッタよく聞いてくれ。俺は稀人なんだ。それで今やった魔力を分析する技術は相当やばい。悪人にばれたら、命に危険が及ぶ。この事は絶対秘密な」

「秘密にす。シロクさんは稀人だったか。鉄条網やフラッシュバンなどえぱだだ事おべでらのば不審に思ったった」


 うすうす感づかれていたか。

 だからよそのパーティには入れないんだ。


「この技術は分析と名づける。それで今後の事だが分析に慣れたら、アビリティの筋力強化を覚えてもらう」

「アビリティってなんです?」

「スキルみたいな事ができる技術だ。練習するとスキルが覚えられる。分析はその第一歩だ」

「暇な時に練習けっぱる」


 普通の人が分析を覚えられたと言う事は昔は在った技術かもしれない。

 神話によればスキルは神から与えられたと書いてあった。

 じゃあスキルの無かった頃はどうしてたんだ。

 魔力が与えられたとは神話にも書いてない。

 という事はアビリティは昔は普通に使われていたのではないだろうか。

 魔力疲労があるから分析の訓練を嫌がって廃れたのかも。

 スキルは何もしなくても覚えられるから楽な方に流れたのかもしれない。

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