第3話 ハンターになる為の準備

 先の事を考えねばとあせりながら居心地のいいブレンドン親方の所で働いた。

 仕事は整地作業から基礎工事に。

 それが終わると家の建築がはじまり。

 一ヶ月あまりで家が完成した。




 操作するゴーレムも泥ゴーレムから、ウッドゴーレムに変わり。

 アイアンゴーレムなども試しに触らせてもらう事に。

 ゴーレムの話も色々聞けていい経験になった。


 フィオレラの仕事も掃除から書類仕事にシフトしている。

 なんでも十才から十五才まで教会長の書類仕事を手伝っていたらしい。

 教会長はフィオレラを神官にしようと考えていたみたいだ。

 スキルが獲得できないので諦めたとフィオレラが言っていた。

 教会の中には根強い差別があるみたいだ。




 雨で仕事が休みの時はハンターギルドや建築ギルドの資料室でスキルについて調べた。

 獲得に関する有力な情報はまだ無い。




「ここ一ヶ月間、建築ギルドの仕事をしたわけだ。しかし、そろそろ別の事もしたいと思う」


 フィオレラには申し訳ないが本当の事を言う。


 隠してもいずればれる。二人で問題を検討して答えを出したい。


「私は建築ギルドの仕事に不満は無いけど」

「まず、次の現場の親方が雑用をやらせてくれるのか分からない」


「色々な現場を試してみたら、どうです。きっと良い現場があるはず」

「それも確かに考えた。しかし、今の建築ギルドランクが最低のF。一年ぐらいしないとEに上がれない。それを待てない」


 ギルドのランクFから始まりE、D、C、B、A、Sと上がっていく。


「そんなに焦らなくても」

「焦る理由ならあるんだ。冷静に聞いて欲しい。現場で何回かあの娘はギルドに登録してないのかと聞かれた」


 フィオレラがなんとも言えず悲しそうな顔をする。


「その時は。掃除や書類仕事は雑務ギルドの管轄になるだろ。雑務ギルドは他人の家に入る関係で登録の審査が難しいから、ギルドには入ってないと誤魔化したけど」

「ううっ」


「もし差別による迫害が起こるって考えたら、跳ね返す力が欲しいと思ったんだ」

「そうですか」




 半分諦めた感じだ。

 諦めてもらっては困るよ。

 主任に聞いた話によると、一人で出来る事は多寡が知れている。


 大手のマンパワーには圧倒される数は力だ。

 それと資金力も大事になる。

 二つとも俺には無いが、千里の道も一歩からと言うし、二人で頑張るその為には。


「人間関係で迷惑を掛けにくいハンターの仕事がしたい。それにハンターならランクに縛られずに好きな獲物を狩れ。大物を仕留めればランクアップも早い」

「わかりました。でも命を奪うことがどうしてもできないので、攻撃しないでいい仕事を下さい」




 人間適材適所だと会社の先輩は言っていた。

 出来ない事はある。

 挑戦するのも大事だが、得意な事を伸ばすのもいい。

 その受け売りの言葉に従うとするか。




「周囲の警戒やできれば、解体をやってもらいたい」

「解体はできます。孤児院で差し入れのホーンラビットとかよく処理しました」


 解体はできるのかてっきり血を見るのが駄目なのかと思った。

 なんか複雑な理由がありそうだ。

 今はそっとしておこう。


「俺は解体ができないのでありがたい」


 フィオレラは解体を任せるとわかったら、出来る仕事があるのが嬉しいのか一瞬柔らかい顔になった。

 まだ、表情が普通と違う。

 よし、気分転換でもするか。




「今から買い物にいくぞ。装備なんかも見たい」


 フィオレラは久しぶりの休みに機嫌が少しよくなる。

 女の子は買い物好きが多いけど、彼女もそうなのか。




「なあ、魔力で動かす不思議な道具とか無いのか。物を沢山運べる奴とか」

「魔力を使った道具ならあります。まずゴーレムがそうじゃないですか物を沢山運べます。武器だと魔導金属で作った剣なんかが炎を出したり出来るそうですよ。薬ならポーションがそうですね」


 アイテムボックス的な道具は無いのか。

 スキルもギルドの資料室で調べた限りでは空間魔法みたいなのは無いんだよ。

 夢の無い異世界だ。

 はぱっと冒険して最強の力で倒して成り上がるみたいな話にならないかな。

 どうもにも世知辛い。




 俺の唯一の利点ゴーレムは確かに便利だよ。

 現場ではユンボ、クレーン、ロードローラーの役割をして、更に作業ロボット代わり特にウッドゴーレムにとび職をやらせたのはなるほどと思った。

 ゴーレムに痛覚は無いから落ちても問題無いし、ゴーレム使いが高級取りなのは解る気がする。




「炎を出す剣か。ロマンだ。高い?」


 炎を出す剣。

 どんな仕組みだろうか、魔法陣書いたりするのかな。

 理系の人間としては目新しい物には興味を引かれる。

 特に機械的な物は大好物だ。


「ええ最低でもミスリル貨一枚からと聞いています」


 ミスリル貨は大金貨十枚だ。

 日本円換算で三千万。

 聞いた話ではミスリルの他に貴重な金属が使ってあるらしい。

 当分そんな物は買えない。


「そういえば、エルフも獣人もドワーフも見たことない。フィオレラそういう人間意外の人種はいないのか?」

「昔は人間以外の国とも交流があったそうです。今は敵国で入国するとスパイの疑いをかけられるので交流はありません」




 フィオレラの案内で服飾店に着いた。

 フィオレラが買い物をする間外で待つ。

 服を選ぶ恋人を待つ男に見えるのだろう。

 通行人が羨望の眼差しやら、お前も大変だなと納得する顔を向けてくる者など色々いて、人間観察も楽しい物だと思う。




 しばらくすると新しい服に着替えたフィオレラが出てきた。

 新しい服を着た彼女ははにかみながら、クルッと一回転して見せる。


「どうです。お師匠様。似合ってます」

「ああ、可愛いよ。よく似合っている」


 月並みな感想しか言えない自分が悲しい。

 フィオレラはかなり嬉しそうだ。

 機嫌が直ったようで良かった。


「おさがりでない服をきるのが夢だったんです」


 俺もこの世界来てから下着は何枚か買ったが服はまだ買ってない。

 宿屋の女将さんが洗浄のスキルを使える。

 三日に一回ぐらい綺麗にしてもらっているから汚くはない。

 ついでに俺も素早く服を買う。


「これからはバンバン稼いで沢山服を買えるといいな。次は雑貨店だ」




 いつも利用している雑貨店は棚が幾つもあり雑多に品物が収納されている。

 現場で色々指導してくれたクレイグさんによれば、ハンターギルドより品質は劣るが安いという話だ。


「「こんにちは」」


 前掛けエプロンを掛けた中年の女性が店番をしている。


「いらっしゃい」


「フィオレラは生活に必要な物の買出しをしてくれ」

「はい」


「あの、打ち身に効くポーションってあります?」

「それぐらいだと最下級のポーションになります」


 ポーションかどんな味だろう。


「剥ぎ取り用のナイフも二本欲しい。後、ウルフ撃退用の手投げ玉も二つ下さい。背負い鞄も二つ下さい」


「お師匠様、買いたい物持ってきました」


「まいどあり。全部で銀貨八枚におまけしとくよ」




「防具を買いに行くぞ」


 例によってクレイグさん情報では防具店はここだ。

 ハンターになる為には防具は大事だけど、コスプレみたいで嫌なんだよ。

 予算的に格好いいのは望めないのが更に気分を重くする。


「「こんにちは」」


 やさしそうな目をした犬を思わせる禿げた中年のおじさんが店番をしていた。


「ケイシー防具店にようこそ。新人さんかな」

「ええ、二人分のゴブリン狩に使える皮鎧と鎧下を下さい」

「それだと少し調整すれば既製品がつかえるよ」

「それをおねがいします」




 鎧の調整をしてもらっているフィオレラを見て思う。

 やっぱりコスプレだ。全然しっくりきてない。

 人からみたら、俺もああいう感じに見えるのだろうか。

 ハンター続ければ似合うのかな。


 鎧の付け方や整備などを教わる。

 整備の為の油や布も一緒に買い外に出た。

 もろもろひっくるめて防具店の買い物の代金は大銀貨六枚とちょっとになった。

 日本円で十八万。

 貯蓄の半分がなくなった悲しい。




「皮鎧の整備もできるとはフィオレラはなんでもできるな」


 フィオレラ本当に万能。

 青い狸並みだ。


「ハンター見習いの孤児に整備を押し付けられたりしましたから」

「魔木工々房に行くぞ」




 クレイグさんに教わった工房に着いた。

 フィオレラを待たせ一人で工房に入る。


「すいませーん」


 若い男の職人が出てくる。

 職人は面倒な客が来たという顔をした。


「なにか。注文だったら、家具屋に言ってくれ。うちは作るだけなんだ」


 魔木は値段が高い。

 だから、クレイグさんに教わった裏技で魔木を調達する。


「魔木の端切れを買いにきました」


 小遣い稼ぎになって嬉しいのか態度をコロリと変える。


「おう、そうか。うちはゴミを捨てる手間がなくて助かるからいいが悪いね」


 裏のゴミ捨て場に案内される。

 積み木ぐらいな大きさの色々な形をした木片があった。


「この一山で大銅貨五枚でどうです?」


 戦闘用ゴーレムの材料が千五百円、破格の値段だ。

 クレイグさんには感謝してもしきれない。


「いいよ、それで」

「では貰います。【ゴーレム作成】【ゴーレム操作】」




 継ぎ接ぎ模様の小学生高学年ぐらいなウッドゴーレムが出来上がった。

 軽く動かしてみる少し妙な癖がある。

 仕方ない安いもんな。


 ゴーレムを見たフィオレラは何か言いたそう。

 なんだ言ってみろと言うと。

 可愛いのは良いのです。

 継ぎ接ぎなのはいかにも貧乏が滲み出ていますと。




 ゴーレムに山盛りの荷物を持たせた。

 子供を酷使しているみたいで気が引ける。

 しかし、ゴーレム使いだからゴーレム使って当たり前と思う事にした。




「さて明日からハンター稼業だ。クレイグさんによると南の草原でホーンラビットをまず狩って、ゴーレムの操作に慣れるといいらしい。フィオレラには血抜きと周囲の警戒を頼む」

「まかせてください。がんばります」


「それに慣れたら、西の森の外側でハグレゴブリン狩をする。しかし、その後が問題だ。ゴーレム一体だけだとゴブリンが三匹出てくると対処できないそうだ。普通はここでゴーレム使いは挫折する。そして、ハンターの仕事をやめるか、お金を貯めて性能の良いゴーレムを作ると聞いた。何か打開策のアイデアを考えたい」


 フィオレラは腕組みをして、ウンウン唸っている。

 なんだかんだ言ってもフィオレラはいつも一生懸命だ。

 こういう所は好感が持てる。


「あの、どっかのパーティに入れてもらうのはどうですか」

「ゴーレムは戦力になる。操作している時は歩くぐらいしかできないから、ゴーレム使いはお荷物だ。新人のパーティだと特に敬遠されると聞いた」


 せっかく出た意見を否定するのは良くないが、後輩に接する気持ちで厳しくいく。


「そうなんですか。ゴーレムを複数操るのはどうでしょう」


 真面目だなフィオレラは前向きな所が素晴らしい。


「複数同時は試してみたけど、同じ動作をさせるなら簡単だ。バラバラの動作は無理だな」


「もうアイデアは浮かびそうにないです。役に立たなくてすいませんお師匠様」

「めげるな、フィオレラ都合の良い話なんて中々ないものだよ。俺もいい策はないし。とりあえず一ヶ月ぐらいやってみよう」


 俺はアイデアを出せなかった。師匠失格だ。こんな事もあるさ。新米師匠だもんな。


「もう今日は飯食って休もう。あしたからハンターだ」

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