織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す

20時18分

序章 世界の真実

プロローグ


 西暦2121年、世界に国境という概念はなくなっていた。




 世界はひとつになり、全ての人や文化は等しく尊ばれ、かつて戦争にピリオドを打ち均衡を保つため保有されていた核兵器はひとつ残らず処分され、研究も禁止されていた。各国の思想の違いから起こる紛争も全て鎮圧され、小さな所では学校や会社というコミュニティにおける「いじめ」すらも駆逐されていた。




 世界には、完全なる平和が実現されていた。




 一見、世界は紛れもなくユートピアが体現されている。しかし、その実はかつて日本と呼ばれた国による支配が生み出すディストピアであった。2100年、自他共に認める後進国となってもなお核を保有せず、他国に怯えるばかりであった弱小国家日本が、22世紀を迎えるまでの約1年間で世界を敵に回し戦争を初め、勝利を収めた。




 世界は恐怖した。




 先述の核兵器処分、正確には全てが日本国領土へ撃ち込まれたが故にこの世からひとつ残らずなくなったのだ。それでも日本はその国の形を微塵も変えることなく、瞬く間に世界を制圧した。能動的対外戦力を保持していなかったはずの日本が行使した力は、人間にはあまりにも早すぎる禁断の力であった。


 人間に稀に開花する異能。日本はこれを「超能力」として、数十年の研究を行った末に実戦投入を果たしたのだ。世界を征服し得るという彼らの見込みは正しく、新たな脅威として日本のみが保有する兵器として世界に知らしめた。




 世界は強く批難した。




 倫理に反した人体実験、人を兵器として扱い、当時の国際法に抵触するような所業を見せる超能力の数多。世界各国で死体の山を築き、血は大地を染め上げ、人々は狂気に陥る他なかった。人類史上最悪の戦略兵器に成す術のない諸国が打てる反撃は、もはや言論のみとなっていたのだ。


 かくして、戦争は終結を迎える。日本は各国と停戦協定を結んだが、それは名ばかりのもので実質の植民地化が行われた。国境を無くし、物資も情報も何もかもが垣根なく行き渡る環境が世界へと押し付けられる。




 そして、この凄惨な戦争は史実から取り除かれ、世界全体が忘却した。




 これはそんな歪んだ世界を静かに生きる少女の、激動の物語である。

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