第27章
迎賓館周辺は真っ白い豪華な装飾の鉄柵で囲われてる。まさに中にヨーロッパのお城があるって感じ。東京よりイギリスとかフランスあたりにありそうなんだよね。
その柵のゲート部分が内側に向かって吹っ飛んだ。ミサイルかなんか使いやがったな。
かと思ったら、いきなり門の近くの路肩の、赤いコーンで囲まれてた場所に、でかいトレーラーが姿を現した。
げげげ。やっぱ消えることできるのは、あのロボだけじゃなかったんだ! てか、あのコーンは他の車が入り込まないようにするためのカバーか。いったいいつからそこで待機してたんだか。
「45から37。トレーラー出現。繰り返す。何もないところにトレーラー出た!」
『ぐあ!』
せっちゃんが悲鳴だかなんだかわかんない声を上げるのがイヤホンから聞こえてきた。オヤジくさいです、せんせー。
とか思いつつ、立ち上がりながら横倒しにした自転車を起こしてると、トレーラー後部がばらばらっと前後左右に開いて、中が完全にむき出しになった。ロックミュージシャンの巡業用トレーラーのギミックみたい。って、本物見たことなかったけど。中には昨日の夜見た完全武装の特殊部隊っぽい連中が一ダースほどと、あのロボが一、二、三、四……四機も載っかってるよ!
あっけにとられて見てると、ロボもミリタリー野郎たちもそろってトレーラーから飛び出し、吹っ飛んだゲートを通って迎賓館へと侵攻を始めた。なんだこの展開。現実感全然ねー!
「こちら45! 敵は兵士二個分隊とロボ四機。繰り返す! 兵士二個分隊とロボ四機!」
『はあ!? 37から45! メガネかけて、メガネ! こっちは本部通しで関係各所に情報送る!』
「45、了解!」
メガネというのは、うちで使ってる双方向情報端末のこと。見た目は普通のメガネなんだけど、つるのところに超小型カメラと無線機が内蔵されてるし、メガネの部分には情報が投影されるようになってるとゆー、本格的な双方向情報端末機なのだ。グーグルグラスなんて目じゃないぜ。
もちろん、市販品じゃなくて、ウチの頭のおかしなメカおたく「09」が開発したお手製。ちなみに09の口癖は「ゼロキューじゃなくてキューと呼べ」。そんなもん、映画おたくにしか通じないつうの。
つか、まさかほんとに職務中に情報端末を使う日が来ようとは。マジで現代市街戦だよー。
ポケットから取り出したメガネをかけると、とたんに左上にマップが映し出された。
『衛星から画像取って処理したヤツ送るから、ちょっと待って』
ゲートの向こう側から銃を連射する音が聞こえてきた。一方、迎賓館前の道路にずらっと並んでいた渋滞中の車の列からは、乗ってた人たちが続々と飛び出してきて、迎賓館と反対方向に逃げ出していた。こういうとき、映画と違って人は悲鳴とかあげないよねー。みんな無言で走ってる。でもって、さすがに写真撮りに迎賓館に近づこうってバカはいないみたい。つか、おかげで、誰も乗ってない車の列が車道塞いじゃって、いよいよ誰も車じゃ事件現場に近づけなくなっちゃったよ。
「後追いでよろしく! とにかく突っ込む!」
『死ぬ気かー?!』
「冗談! 死にたくないから急いでんの!」
あたしはそう言うと、勢いよく自転車のペダルを踏み込み、壊れたゲートに向かった。ここは時間との勝負なのだ。
敵は何よりもまず迎賓館内を包囲、その次に突入したいはず。そうじゃないと標的に逃げられちゃう。てことは、今はとにかく一気に迎賓館の建物目指して突っ走るのが正解。一旦、包囲が完成したら、突入班と包囲班に分かれて、包囲班は外からくる救援に対応しようとするはず。少なくともあたしならそうする。
つまり、あたしの勝機は、何よりもまずあいつらが包囲を完成させる前に、後ろから仕掛けて第一撃で倒せるだけ倒すことにかかってる。だからせっちゃんには悪いけど、急いで後追いかけてるわけよ。
ゲートの残骸をくぐって敷地内に入ると、真正面に迎賓館前のだだっ広い前庭が見えた。なんでも、イギリスのバッキンガム宮殿やフランスのヴェルサイユ宮殿も参考にしたとかいうこの建物、前庭もこれまたその手の宮殿みたいにやたらと広いうえに、ほとんど何にもない空間が広がってるのだ。
敵は、ロボ四機を先頭にして、それを盾にしながら全員駆け足で本館を目指して進んでいた。ロボは兵隊たちの駆け足に速度合わせてるんで、進みは遅い。おかげでこっちとの距離がみるみる縮まっていく。よっしゃ、読み通り!
予想してなかったのは、すでに犠牲者が出てたこと。本館前に停車していた送迎用の高級車数台が銃弾でぼこぼこに穴を開けられていた。そして、本館の正門前には、背広姿の男数人が血を流して倒れていた。たぶん、爆発音を聞いて様子を見に出てきたSPたちだろう。さっきの銃撃音はこれだったのか。これ以上は絶対やらせない!
あたしは全速力でペダルをこいだまま、右手をハンドルから離した。そのまま左のショルダーホルスターからFNファイブセブンを引き抜き、人差し指でセーフティを解除。もちろん、さっき身につけるときに、薬室に一発銃弾を装填済み。
先手必勝! あたしはそのまま、こちらに背を向けて走ってる連中めがけて、引き金を引き始めた。次から次へと。
マズルフラッシュが光り、けっこう大きい音が耳元に響く。
まだまだ距離はあるし、自転車こぎながらだから狙いは不正確だけど、とにかく何人でもいいから行動不能にして、相手の足を止めちゃえばそれでいい。一応の狙いはロボ以外で一番デカい的、つまり特殊部隊の連中の背中。
最初の二人は後ろから思いきり不意をつかれ、背中に弾を食らって前に倒れ込んだ。卑怯? 命のやりとりしてる時にそんなこと言ってられっか!
そして、昨夜と違って、今日は撃たれた連中が立ち上がってきたりはしない。今回は銃弾が防弾ベストだかボディアーマーだかを貫通してるからだ。
あたしが今使ってるFNファイブセブンは、ベルギーのFN社が同社の自動小銃(アサルトライフル)P90の補助兵器(サイドアーム)として開発した自動拳銃(オートマティックピストル)だ。
P90と同じ5.7ミリ弾を使用するところが最大の特徴で、一種類の弾丸をライフルとピストルで併用することができるうえに、ピストルとしては強烈な威力を発揮できる。
なんせこの弾、ほかの拳銃弾と比べても初速が速いもんで貫通力も桁違いなのだ。五〇~一〇〇メートルくらいの距離なら、たいていの防弾ベストを貫通する、というのが売り文句。
昨日みたいに「当たって痛かったけど一応無傷」なんてわけにはいかない。急所には当たってたら即死、そうでなくても手当てが遅れたら失血死は間違いない。
三人目と四人目は、こっちに気づいて振り向いたところをそれぞれ胸に数発ぶち込んだ。
なんと、あとの連中は後ろから攻撃されてるってのに、脇目もふらずに迎賓館めがけて進み続けた。何が何でも目標に取りつくのが最優先だってか? どこの戦争映画の上陸作戦ですか? ここはノルマンディーか? オマハビーチかっての!
さらに二人、あたしの弾に仲間が倒され、半数になっちゃったところで、さすがにヤバいと思ったのか、敵は前進をやめた、ロボたちはその場で反転を始め、兵士たちはそのロボの向こう側に隠れようとした。
遅い!
あたしはすでに連中に追いついていた。
すれ違いざま、さらに一人、胸に弾をぶち込む。そしてそのまま一気に駆け抜け、穴だらけにされた自動車の前に突っ込むと、自転車から飛び降りて、車の向こう側に着地した。
一拍遅れて、銃撃音と共に自動車の車体が揺れた。遅い遅いマジ遅い。どれだけ車に弾撃ち込んでも、こっちはビクともしないっての。
あたしは弾倉内の弾二〇発を撃ち尽くしたファイブセブンをホルスターに戻すと、背中に背負ってたバレットM82アンチマテリアルライフルを自動車のボンネットにドンと置いた。
次はロボ狩りだ。覚悟しろ!
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