53 お別れ
翌日俺は、タリアに辞意を伝えた。
タリアはしばらくの間、下を向いて黙っていたが、やがて顔を上げて俺に言った。
「どうして?」
「旅に出ようと思うんだ」
「旅……?」
「ああ、そうだ。急患も減って店もだいぶ落ち着いてきたし、ピートとルイダがいれば人手は十分だろう」
タリアは、再び下を向いた。涙が一粒、ぽろりと落ちた。
「あなたがいてくれて、私とても心強いのよ」
「うん。すまない。でも、もう決めたんだ。明後日、俺は出て行くよ」
「何かね、そういう気はしてたのよ」タリアは言った。
タリアは涙を拭いて、言った。
「いつかまた、戻ってきてくれる?」
「ああ。いつかね」
「約束してよ」
「うん」
いつかまた、タリアに会えることはあるだろうか。わからない。元の世界に戻ったら、もう二度とアイランドには来れないのかな……? いや、俺はテストプレイヤーだ。アイランドのテストプレイヤーを辞さない限り、俺はまたアイランドに戻ってくる機会があるかもしれない。……いつかはわからないが。
そしてこの日の夜、おれはマケラの屋敷に行き、同じく旅に出ることを伝えた。マケラはとても残念がり、寂しがってくれた。この日もノーラとマケラと三人で食事を摂り、最後に温泉に浸からせてもらってから帰った。
翌日は、午前中に東の詰所のラモンとオルトガに挨拶に行き、次にベアリクの家を訪ねた。そして、午後は借りているタリアの家の離れを片付け、旅の支度をして過ごした。
夕食は、四人姉妹と共に過ごした。ユリアもニキタも、そしてタータも涙を流して別れを惜しんでくれた。
次の日の朝、俺はクイナ村に向けて出発した。
クイナ村には、ノバラシ河の定期便で行くつもりだった。見送りのタリアにそう言うと、船着き場まで見送りに行くという、悪いから、と断ったが、タリアは馬車に一緒に乗り込んできた。
馬車は船着き場に着いた。
定期便は、間もなく出航するようだった。
俺はタリアに最後の別れの挨拶をした。
タリアがまた泣き出した。
「元気でね」涙を拭きながらタリアが言った。
「ああ、タリアも元気でな」俺は言った。
タリアが抱きついてきた。俺とタリアはしばらくの間抱き合っていた。
そして、ノバラシ河を上りクイナ村へ向かう定期便は出航した。
タリアは、船着き場からいつまでも遠ざかる俺を見ていた。
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