38 行方不明のシン




◇『こんばんは。シンとは連絡がとれたかい』


◆『こんばんは。お疲れ様です。……いえ、実はまだ連絡がとれないのです。消息不明です。恐らくですが、スマホの電源を入れていないか、スマホを破壊してしまったか、のどちらかだと考えます。そして、スマホ以外の方法でシンを探知しようとしても、どうしてもうまくいかないのです。彼は、アイランドに入った途端に、行方不明になってしまいました』


◇『変な事を聞くけど、悪の魔法使いに身体を乗っ取られた、という可能性は考えられる?』


◆『悪の魔性使いですか……(汗)そんな可能性は考えられない、と言いたい所ですが、よくわかりません。何せ、アイランドは何の制限もブレーキもかかっていない世界です。我々のコントロールが及ばないNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の出現についても、可能性はゼロとは言い切れない気がしてきました』


◇『なぁ、ハリヤマちゃん。前から聞きたかったんだけど、このアイランドっていうプログラムのことだけど、ゲームデザイナーはどこまで細かく設定しているの? デザイナーは何人いるの? これだけ広大でリアルな世界を、どうやってデザインしたの?』


◆『実際にアイランドで過ごされているタカハシさんから、いつかはその質問がくるのではないかと思っていました。……少しだけお答えします。私共が開発したのは、オープンワールドの枠組みだけです。そして、世界観や細かい造形物、人物、事象などは、個々のプログラマー・デザイナーが細かく作り込んでいったわけではないのです』


◇『どういう意味? じゃあ、誰が作ったの?』


◆『実は、アイランドプログラムで私共が開発したのは、“神”です。つまり“創造主”なのです。創造主を私共が開発し解き放ち、その創造主が具体的な世界を構築しているのです。私共、地球人類研究所IT開発課では、神が造りて神が統べる世界を再現することで、地球人類のモデリングを試みようとしているのです。』


◇『おいおい。なんだそれは。もうちょっと詳しく聞かせてくれよ』


◆『すみません。これ以上は、企業秘密でお話できないのです。申し訳ありません。この話の続きは、タカハシさんが無事にこちらの世界に帰られてから、詳しくすることにいたしましょう』


◇『もったいぶりやがって……。ところで、シンの居場所がわかったら、すぐに俺に教えてほしいんだ』


◆『わかりました。そして、私からも頼みがあるのです。もしもタカハシさんの方で、偶然にもシンさんを見つける事ができたら、やってもらいたい事があるのです』


◇『やってもらいたい事? なんですか?』


◆『シンが見つかり次第、ご迷惑をおかけしますが、再び再起動をかけたいと思っています。シンを発見したら、すぐに知らせてください。タカハシさんとシンが半径二十メートル以内に接近している状態で再起動をかける事で、シンをその後も探知できるようになります』


◇『なるほど。シンと連絡もとれないし居場所もわからないじゃ困るもんね』


◆『はい。シンをアイランドに送るのに、莫大な予算を使っていますので、このまま行方不明では、私の首が飛びます(苦笑)』


◇『わかったよ。じゃあ、シンを見つけたらSMSを送ればいいのかな』


◆『実は、シンを発見した場合に迅速に行動できるように、スマホに新機能をつけました。このSMSが終わったら、スマホの再起動をお願いします。スマホ再起動後に、ホーム画面に“システム再起動”というアプリのアイコンが出現します。このアイコンをタップすると、最終確認画面のタップを経て、こちらでは自動的にシステム再起動のプロセスが開始されます。つまり、次回のシステム再起動のタイミングは、タカハシさんに委ねるということです。タカハシさんがシンを見つけたら、アイコンをタップ、すると、迅速にシステム再起動が始まる、と、こういう流れです』




 ハリヤマと交信を終えた後、俺はスマホを再起動させた。


 再起動後、ホーム画面には、ハリヤマの言う通り、“システム再起動”というアイコンが表示されていた。シンを見つけたら二十メートル以内に接近して、このアイコンをタップだ。




 現在ホーム画面には、時計の他に六つのアイコンが並んでいる。




 『MAP』

 『ISLAND』

 『SMS』

 『マニュアル』

 『魔除けアプリ』

 『>システム再起動<』

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