31 振り出しに戻る
俺は元来た通路を戻り始めた。
先ほど、この通路を歩いた際には、しばらく歩くと突き当りにエレベータの扉があったはずなのに、今度は違った。通路は延々と向こうまで続いていた。先の方は薄暗い照明のせいでよく見えない。
俺は、延々と続く通路を歩いた。
しばらく歩くと、二十メートルほど先の右の壁面に、エレベータがあった。
このエレベータに乗るか? それとも、エレベータを無視して延々と続く通路をさらにまっすぐ進むか……。
どちらにしようか考えていると、ふと、足音が近づいてきていることに気づいた。
規則正しく続く低い足音。通路の向こう側から、誰かがこちらに歩いてきている。
先ほどの顔のない男か? それとも?
さっさとエレベータに乗り込み、近づいてくる何者かとの遭遇を回避するべきだろう。そう思い、エレベータの「△」ボタンを押してエレベータが到着するのを待った。
しかし、エレベータはなかなか到着する様子がなかった。
足音が近づいてくる。
やがて、人影が見えた。俺と同じくらいの背格好の男のようだ。顔のない男ではない。
茶色い革の服を着て、汚いブーツを履いている。腰には剣をぶら下げている。
もう男との距離は数メートルほどしか離れていない。
男はこちらに歩いてくる。
やがて、男は俺の目の前までやって来て、立ち止まった。俺は男と目を合わせた。
男は、俺だった。
俺そのもの。背格好も、顔立ちも、俺そのもの。意外にも恐怖感は感じなかった。まるで、鏡を見ているような、奇妙な感覚。
まさか、シンか?
「シンか?」俺は聞いた。
「タカハシさんですか」シンは俺に聞いた。
「驚いたな……。どうしてこんな所で会うのかな」
「わかりません。ここはアイランドですか?」
「ここがどこだか、俺にもわからないよ。少なくとも、アイランドではないよ。アイランドはこんなに陰気な雰囲気ではない」
「そうなんですね。……針山さんの話では、僕がアイランドに入って、入れ替わりにタカハシさんが元の世界に戻る、と聞いていたのですが、どうしてこんな所で鉢合わせするんでしょう?」
「わからないよ。……もしかしたら、俺を元の世界に戻すことに失敗したんじゃないだろうか」
俺達がそんな話をしていると、「チン」とベルの音がしてエレベータが到着した。
そして扉が開いた。扉が開いた先は、暗闇だった。
「おっと、気をつけろよ。前にもあったんだ。扉が開いたので足を踏み出したら、床がなかった。そのまま落ちたんだ。今回もそのパターンだと思う」俺はシンに教えた。
俺達は、エレベータの扉の向こうの真っ暗闇の空間を覗き込んだ。間違いない。床はない。足を踏み出せば、真っ逆さまに落ちるだろう。
「どうする?」俺はシンに聞いた。
シンはしばらく考えて、言った。
「落ちてみるしかないんじゃないですかね」
「……やっぱりそう思う?」俺は言った。
「お先にどうぞ」シンが言った。
「いやいや、そっちが先にどうぞ」俺が言った。
どちらが先に飛び降りるか、譲り合いになった。
話し合いの結果、二人同時に行くことに決まった。
「じゃあ、行きましょう。いち、にの……」
俺達は同時に暗闇の中にダイブした。
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