19 学会




 俺は今、再びダマス行の船に乗っている。タータと一緒だ。


 先日、ダマスの街の薬草師協会から手紙を受け取ったのだ。ダマスの学会に出席し、ジャンの針を使った縫合術のプレゼンをしてほしい、と招待依頼を受けたのだった。


 タータは、どうしても一緒に行きたい、というので連れてきた。というのも、縫合術のプレゼンで、再び子豚を準備してもらう予定となっており、その子豚を眠らせる魔法使いが必要な事もあってだ。


 出かける前にタリアから、「旅行中にタータに手を出したら承知しないわよ」と釘を刺された。もちろん、俺はそんな気はない。タータの方はと言えば男の俺と二人で旅をする事について、まったく意に介していない。それよりも、トンビ村を離れて旅が出来ることに夢中の様子だ。




 船は、予定どおり二日かけてダマスの街に到着した。タータは初めてみるダマスの街の喧噪に圧倒されていた。タータの腕を引っ張り、まずは今日の宿の予約に向かった。


 俺達は学会の開催が予定されている建物にほど近い宿をとることができた。部屋はもちろんタータとは別、二部屋を予約した。


 次に、近くの食堂に行き、昼食を摂った。食堂のメニューは豊富で、どれも美味そうだったが、俺はトカゲのソテーを注文し、タータは鶏のシチューを頼んだ。味付けに塩以外のスパイスも使っているようで、トンビ村の食堂よりも、味は断然に良かった。


 満腹になった俺達は、学会が始まる時間までダマスの街を散策して歩いた。昼食を摂ったばかりにもかかわらず、タータは、露店で売っている食べ物を買い食いした。この娘、とても美味そうに物を食べる。




 そうこうしているうちに学会が開催される時間になった。


 本日の学会は、国中から出席者が集まる大々的なものだった。参加者のうち一番多いのは薬草師だが、他にも祈祷師や魔法使いも多数来ていた。


 まず俺は、薬草師協会の会長に挨拶に行った。


「やあプッピ、ひさしぶりだね。今日はありがとう。君の縫合術の手さばきを今日は拝見できるので、楽しみにしていたんだ」会長は言った。


 俺達は、会長の隣の特等席に座らせてもらえた。学会の催しの一番目は、大魔法使いドゥルーダの演説だった。ドゥルーダは、昨今の魔法の発展について最初に述べ、次に、今後は魔法使いと祈祷師と、そして薬草師が、協力し合っていく時代となっていくだろう、と述べた。観衆から大きな拍手を受け、ドゥルーダの演説は終わった。


 ドゥルーダは席に戻る前に俺に近づいてきた。「やあプッピ、ひさしぶりじゃな」俺達は握手を交わした。そしてドゥルーダが顔を寄せ、「先日の護符の件で話があるのだ。もし良ければ、今晩、我が家に来てくれぬか」と小声で俺に囁いた。俺は頷き、「わかりました。夜に伺います」と返答した。




 次の演説は薬草師協会の会長だった。今後の薬草師の展望についての長く退屈な話だった。やっと演説が終わると、次は俺のプレゼンの番だった。




「よし、俺達の番だ。タータ、頼むぞ」


「任せてよ」


 俺達は壇上に上がり、一礼した。満場の拍手で迎えられた。


 俺は、以前ダマスの街に来て薬草師協会長相手にプレゼンをした時と同じように、ジャンの針を使った縫合術について、観衆に向けて説明した。


 そして、一匹の可愛い子豚が壇上に上げられた。俺は子豚を寝台の上に載せ、タータに合図を送った。タータは眠りの呪文を子豚にかけた。


 子豚が眠ったのを確認して、俺は子豚の腹を裂き、裂いた腹をジャンの針を使って縫合してみせた。会場はどよめいた。


 縫合が終わり、タータに再び合図をした。タータは眠りを解く呪文を唱えた。あの後、タータはサチメラから眠りの呪文を解除する呪文もしっかり教わったのだ。呪文が上手くかかり、子豚は目を覚まして、何事もなかったかのように動き出した。


 どよめいていた観衆が、歓声をあげた。大きな拍手をもらった。


 俺達は、観衆に向けて一礼して、無事プレゼンを終えた。




「タータのおかげで上手くいったよ。ありがとう」


「今日は子豚がちゃんと目を覚まして良かったわ。大成功よ」




 学会が終了した後、薬草師協会の会長が声をかけてきた。


「いやいや、素晴らしかったよ。ありがとう。今後は国中の薬草師がジャンの針を購入して、縫合術を実践する事だろう」


「それは良かったです。無事終わって、私も一安心です」


「ところでプッピくん、今晩は予定があるかな? もし良ければ、私の家で一緒に夕食でも……」


「あっ、すみません。今日の夜は私の方はあいにく予定がありまして……。タータはどうする?」


「プッピは今晩は用事があるのね。私は……もし良かったら御馳走になりに行こうかしら」


「いいとも。大歓迎だよ。あなたのような美しい女性を招くことが出来て光栄です。私の娘もあなたと丁度同い年くらいだよ」会長は微笑みタータを歓迎してくれた。


 こうしてその夜は、俺はドルゥーダの屋敷へ、タータは会長の家へ、それぞれ夕食の招待を受けることになった。


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