13 ドゥルーダとの会合




 ベレタの薬の騒動から数日後、俺とマケラは、ドゥルーダと会合するため、ダマスへと旅立った。


 船は予定通り二日後の朝にダマスの港に到着した。俺達は馬車を使い、ドゥルーダ邸へと向かった。


 マケラは事前にドゥルーダに書簡を送っており、ドゥルーダは俺達の訪問を承知していたため、屋敷に着き、門番に名を名乗ると、すぐに応接間まで通された。


 応接間は相変わらず、昼間なのに窓が締め切られ、ひやりとした空気が漂っていた。古い本の匂いがしている。


 前回と同じく、ドゥルーダは窓の前の巨大な机の向こう側にいた。そして、俺達はドゥルーダと差し向いの席についた。


「マケラよ。ひさしぶりじゃのう」


「偉大なる大魔法使いドゥルーダよ。本日もプッピを連れて参りました」


「プッピ、ごきげんよう。お主から譲り受けた治療法の権利金が私のもとに入り始めているよ。ダマスの街の薬草師は皆、お主の治療法に興味があるようだ」


 俺は何と言っていいかわからず、黙って頷いた。


 マケラが口を開いた。


「ドルゥーダよ、今日来たのは他でもない、悪の魔法使いザウロスのことです。先日、私達は、ザウロスと対決し、勝つことができました」


「おお! そうか。良くやったなぁ」


「しかし、ザウロスを倒すことができたものの、杖を燃やす前に、ザウロスは杖もろとも砂となって舞い散ってしまったのです。……お約束を果たすことができませんでした。申し訳ない」


 ドゥルーダは腕組みし、目を閉じて何かを考えている様子だった。


 しばらくして、ドルゥーダは口を開いた。


「やはりそう簡単に奴の息の根を止める事はできんのだな」


「ドルゥーダよ、言われる通りです。そして砂と化したザウロスが舞い散った後には、一枚の護符が残されていました。今日はそれを見ていただくために参上したのです」


 マケラはそう言って、ドゥルーダにザウロスの不気味な護符を見せた。




 ドゥルーダは汚い物を触るときのように護符を指でつまみ、検分した。表面を見終わってから、ひっくり返して裏面も確かめていた。そのうち両手で護符を持ち、顔を近づけて護符を凝視しはじめた。そしてしばらくしてから顔を上げ、俺とマケラを見つめた。




「なぜこの護符を持ち帰ってきたのだ」


 マケラが目配せして俺に返答を促した。俺は答えた。


「ダイケイブの奥深くに、この護符を放置して帰ってくるのは不適切なことではないかと感じたのです。……まずかったですか」


「うーむ……。わからぬ。少なくとも、この護符をお主たちが持ち続けるのは危険だ。これは、わしが預ろう。

 どのように処分すればよいか、考えてみることにするよ。

 今この護符を見てわかるのは、護符にはザウロスの怨念がこめられている、という事だけだ。

 しかしこの護符を抜かりなく処分することができれば、奴の復活を妨げることができるかもしれぬ。いずれにせよ、時間が必要だ。

 わしは今日から聖堂にこもり、この護符の秘密を探ろう。」




 ドゥルーダは立ち上がり、部屋の片隅に歩いて行った。そして、何やら仰々しい縁取りのついた木箱を持ってきて、その中に護符をしまいこんだ。




ドゥルーダは俺に微笑みかけた。


「漁師ウーラの物語を知っとるかな」


「いえ、知りません」


ドゥルーダは再び大儀そうに椅子に座り、背もたれに寄りかかった。そして話し始めた。


「いにしえの時代の言い伝えじゃ。

 ある所に、漁師のウーラという男がいた。

 ある日、ウーラは漁を終え家路につこうと海岸を歩いていた。

 海岸の向こうで、誰かが何者かに襲われているのを発見した。

 襲われているのは若い女だった。

 女に襲い掛かるのは三匹のゴブリンだった。

 ウーラは持っていた銛で、みごと三匹のゴブリンを刺し殺した。


 難を逃れることのできた女は大層喜んだ。

 そして、ウーラは誘われるままに女の繰る小舟に乗った。

 小舟は沖合いの小島に到着した。

 女の案内に従い進んで行くと、立派な宮殿にたどり着いた。

 そして、女の父親である宮殿の主の歓迎を受け、豪華な晩餐に招待された。


 宴は夜を通して行われた。

 翌朝になり、家に帰ろうとするウーラに、宮殿の主は小さな宝箱を持たせた。

 ウーラは小舟に乗り、島を後にし、家路についた。


 家に帰ってから、ウーラは宮殿の主から貰い受けた宝箱を開けた。

 中には毒蛇が潜んでいた。

 毒蛇はウーラの手を噛み、猛毒にやられたウーラは死んだ。」




 ドゥルーダのウーラの話は終わったようだ。どこかで聞いたことがあるような話だ。……浦島太郎の話に似ていないか?


「プッピよ、この話の教訓は何だと考える?」ドゥルーダは俺に聞いた


「さぁ……。わかりません」


「この話には教訓はない。強いて言えばな、貰った土産が良い物だとは限らないということだな」そう言って、ドゥルーダは笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る