第二話 笑いのツボ
パチパチ という音と、伝わる熱の温もりで 音の正体がわかった。
近くで火が燃えているのだ。
なんで、わたしは火の側にいるのだろう……。
火の側にいることと、わたしが横になって寝ていることに違和感を覚える。
少しずつ、思い出してきた。わたしは山に入った、結局何も採れないまま日暮れになって、それから どうしたんだっけ、 寝返りを打ち 反対の方を向く。
ここは山の中のようで、葉が少ない木々が周りを取り囲むように生えている。
すっかり夜が更けているようだった。
しかし 側で焚き火をしている人がいたため その火がわたし達の周りの輪郭を示している。
焚き火をしているのはボサボサの長い茶髪に 身分が高そうな服を着ている——
わたしはハッとして身体を起こす。
こちらの様子に気付いたのか、その“人”は振り向いた。
わたしは逃げようとした。しかし 右足に痛みがはしり、声が出た。立ち上がれず 痛みの原因であろう右の足首に手をやる。
早く逃げなければ、そんな思いとは裏腹に 鬼は距離を縮めてきた。
立ち上がらなければ 死ぬのに、右足は言うことをきかない。
死が目前に迫っているんだ。このままでは死ぬんだ、逃げないと——
自分の身体に言い聞かせるが、痛みから 動くこともできない。
とうとう 鬼は半歩もない距離まで近づいたことに、わたしは逃げられないことを悟る。
わたしは、せめてもの抵抗として涙で滲んだ視界を鬼に向けて、出来る限り睨んでやろうと顔に力を込めた。
力を入れた途端 涙が溢れたことが 惨めで仕方なくて、嗚咽が出そうになるのを抑えようと必死に口を結ぶ。
鬼は、わたしと同じくらいの目線に合わせ座り、ゆっくりと両手を伸ばしてきた。
喰われる。
恐怖から目を閉じた。
と同時に頬に手が当たり、わたしは次に来るであろう強烈な痛みを覚悟した。
しかし、その痛みがなかなか訪れない……。
わたしが感じるのは 両頬をぐい ぐいと手が行ったり来たりするような動きのみだ。
爪のような硬いものが当たる感覚は 全く、ない。親指の付け根あたりでわたしの頬を触っているのかもしれない。
恐る恐るわたしは薄眼を開ける。
すると紅い鬼の顔が眼前にあり、驚いて変な声を出してしまった。
と同時に鬼の手がビク と震えたのだ。
まるで、わたしの声に驚いたような動きだった。
すぐに目を閉じたわたしだったが、鬼に異変が生じたことに気づく。
鬼の手が震えはじめたと思えば、鬼の手がわたしの頬から離れたのだ。
変だと思い、わたしはゆっくり瞼を開ける。そうして眼に入ってきたのは、
鬼が眼を瞑り口元を手で覆いながら くつくつと 笑っているものだった。
声は発していないが、様子はまさにそれだった。
何がおかしいのだろうか、まさか、さっきの変な声がよほど笑いのツボに はまった?
でも、鬼にそんなことで笑うような、そんな感情があるのか……。
などとわたしが考え込んでいる隙に、鬼は素早く 縮こまっていたわたしの右足を掴んで、引き寄せる。
あまりに突然のことで、抵抗すらできなかった。掴まれたことで足首から痛みがはしる。
鬼は、わたしの足に顔を近づけていく。
足首を舐められて、身体にぞわりと鳥肌が立つ。
右足から 喰われるっ
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