ギルドの情報漏えいにはお気をつけてください

ちびまるフォイ

誰よりも冒険者によりそった運営

冒険者ギルドに「魔導タブレット」が導入されたのはここ最近だった。


「おお、これからは出先で依頼達成報告ができるんだな」


「これまでのようにいちいちギルド掲示板を見る必要ないのか」


「依頼の進捗もリアルタイムに確認できてコレは便利だ!」


忙しい冒険者たちはこれは便利とばかりに、

冒険者三種の神器のひとつとして「魔導タブレット」は浸透した。


情報漏えいが起きたのはそれからしばらくしてだった。


「ギルド長! いったいどうなっているんだ!」


「どうしたんですか、そんなに血相を変えて」


「俺のクエスト受注履歴が

 どういうわけか他の冒険者にだだ漏れなんだよ!!」


「えっ」


「このギルドで最多達成者として憧れられていたのに、

 達成した大半の依頼が「納品系」の依頼ばっかりだったのがバレて

 カミさんにも逃げられて、浮気相手にも愛想をつかされたんだ!!」


「あなたが奥さんと別れたのは別の理由の気がしますが……。

 いえ、これは大事件ですね。すぐに調査します」


「おお、頼もしい!」

「私は誰よりも冒険者目線のギルド長ですから」


ギルド長はすぐさまこの問題を隠さずにあえて公開した。


「みなさん、先日たいへん悲しい出来事が起きました。

 実はこのギルドにおけるみなさんの個人情報が漏えいしています!」


冒険者たちはざわついた。


「好みの異性がいる村からの依頼ばかり受注していたり、

 受注した後で替え玉に依頼達成されたりといった

 不名誉なことまでがたくさんの人に公開されています!!」


冒険者たちはムンクの叫びをもしのぐ阿鼻叫喚の表情になった。


「しかし、私はギルドの長でありつつも、冒険者です。

 みなさんの気持ちに寄り添えるように今でも冒険者としても活動しています。

 だから、みなさんの不安な気持ちはよくわかります」


「いったいこれからどうする気だ!」


「安心してください。セキュリティをがっちり固めます。

 不正な魔術アクセスがあった場合にはすぐさま消し炭にしてやります!」


ギルド長はこのあとも徹底した具体的な対応を丁寧に説明した。

その真摯な態度に冒険者たちはしだいに信頼を寄せ、

終わり際には鳴り止まぬスタンディングオベーションが行われた。


「ありがとう、みんなありがとう」


ギルドが情報強化の対策を行ってから数日後、事件はふたたび起きた。


「ギルド長! どうなっているんだ!」


「どうしたんですか?」


「見に覚えのない依頼が勝手に舞い込んできてるんだ!

 受注していないのに、勝手に受注されて、違約金まで要求されてる!」


「そんな……」


「俺の冒険者情報がまだ漏えいしているとしか思えない! どうなってるんだ!」


魔術セキュリティも万全だった。

ギルドに怪しい人が出入りしないようにチェックも徹底した。


それでもなお、冒険者たちの情報は悪者の手に渡っていた。


「私は今でも冒険者。みなさんと気持ちは一緒です。

 勝手に依頼を受注された不安を解消するため、うみを出し切ってみせます」


「ギルド長……!」


ギルド長はギルドの職員を全員呼ぶと、口を開いた。


「これだけセキュリティを厳しくしても冒険者の個人情報が

 多くの悪者の手に渡っている。私はこれを重く受け止めた」


「今度は何をするんですか?」


「この中に、内通者がいるとしか思えない」


ギルド長は自分以外の職員を解雇した。


それは同時にギルドの激務すべてを引き受けるという自殺行為だったが

それでもギルド長は冒険者が安心できるならと決断した。


「みなさん安心してください! もうギルドは安全です!」


「ギルド長! ギルド長!!」


冒険者からのギルド長コール。

その舌の根も乾かないうちに、次の事件は起きた。


「ギルド長! ダメだ! 俺が素材納品の依頼先に行ったら

 魔物たちが待ち構えていたんだ!」


「なななな、なんだって!?」


「あんなふうに魔物が待ち構えているなんてありえない!

 まだギルドの情報が漏えいしているとしか!!」


「ぐっ……!!」


職員全員を解雇してもなおギルドの情報漏えいは止まらない。


「まさか、これが原因か……!?」


ギルド長は魔導タブレットをハンマーで砕いた。


「きっと、この魔導タブレットの魔術ネットに

 誰かしら悪いやつが干渉して情報を盗み取っていたんだ!!」


「いいのかギルド長、高かったんだろ!?」


「冒険者の安心に比べれば安い代償です!

 私は冒険者として今でも活動しているから気持ちがわかるんです!」


「ギルド長……あんた、どこまでも俺たちの味方なんだな……!」


身を切るギルド長に冒険者たちは血の涙を流した。

魔導タブレットがすべて粉々に砕かれ、ギルドは昔の手書き方式へと戻った。


「不便ですが、これなら魔術干渉してきてももう大丈夫。

 このギルドにおいて、みなさんの情報は守られますよ」


ギルド長は冒険者の個人情報リストを守るための金庫まで購入。

誰にも開けられないように厳重に魔法結界を張り巡らせた。


そして――。


「ギルド長……」


沈んだ顔で冒険者がやってきた。


「ま、まさか……」


「ああ、また冒険者情報が漏えいしているみたいだ。

 卵の納品依頼を受けようとしたら俺の経歴を調べて拒否された」


「そんな馬鹿な!?」


ギルド長は悔しくて地面に手をついた。


「冒険者の個人情報はしっかり守っていた!

 私以外に出入りできない! 出入りした形跡もない!!

 それなのにどうして! いったい誰がいつ入ったんだ!!」


「ギルド長……これからどうするんだ?」


「これ以上、ギルドを続けても冒険者のみなさんに迷惑がかかる。

 この件をきっかけにギルドは解散します」


「いいのかよ。あんた、このギルドは大切な父親の形見じゃなかったのか」


「私はギルド長であると同時に冒険者なんです。

 冒険者を守るためなら、ギルド長の肩書なんていらないですよ」


「ギルド長……!! 兄貴と呼ばせてくれ!!」


そのギルド長の男気ある決断に冒険者たちは全員ひざまづいた。

ギルド長の背中からは後光が差し込む。


「では、私は仕事にいってきます」


「ギルド長はもう辞めたんだろ? まだなにか仕事があるのか?」





「あ、これから冒険者として

 更新された個人情報の納品を報告しに行くんですよ」

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