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〇20:00すぎ
分娩室は、明るくて、ピンク色できれいで、助産師さんが3~4人出たり入ったり慌ただしかった。ちょうど重なったとかで……
担当の助産師さんは、東さんというベテランで優しいおばさん、分娩衣に着がえ、点滴の注射を打っている時に大きな波が来た。
「まだまって!!」と言われ呼吸でのがすが、めちゃくちゃ痛い。
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分娩台で必死に陣痛に耐える妻を、いまだ見守るしかないのであったが、破水とのことで妻の側まで呼ばれる。破水した、と聞くも、何がどうなってどうすればいいのか分からない久我であった。
手を当てて思い切り押してください、と助産師さんに言われるがまま、おむつのような紙の下着を穿いた妻の股間を、掌底のように押し上げるのであった。もっと強く、と指示が出て、手首が痺れるほど強く押し続ける。
自分も少しは役立っている、と少し立ち会って良かったと思うが、ふと見上げた妻の顔は、苦痛からか思い切りしかめられ、大袈裟なほど目はぎゅっとつぶられ、口は突き出され歯は食いしばられ、今まで見たことも無い表情を呈していたのであった。
笑ってはいけない、と、顔を伏し、口の内側を噛みくわえつつ、悲しかった事を必死で思い出そうと記憶をさらう久我だったが、おととし亡くなった祖母は病床にあっても死んだふりなど家族を欺き続けた上で、皆の困惑を嘲笑うかのように、あっさりと眠るようにして逝ってしまったので、こういう時にはさっぱり役には立たないのであった。
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