異世界転生を狩る者を狩る者
牧野 麻也
ハーレムを作る者
自壊していく石造りのドームの屋根。
その下にあった温泉と噴水、美しい花々が咲き誇った花壇とベルベットが敷き詰められただだっ広いベッドが、無残にも瓦礫に押し潰されていく。
逃げ惑う美女の群れの中に、黒髪にブレザーという、場違いな制服姿の少年が一人立ち尽くし、崩れたドームの上を愕然と見上げていた。
「誰だっ……俺のハーレムを壊すのはっ……」
崩れたドームの端に足を掛け、これまた場違いなほど大きく、表現するなら『鋼鉄の板』を担いだ、二十歳前後の青年が佇んでいた。
ニヒルな笑みを口元に浮かべるその顔は、まだ幼さの残した未完成さを醸している。
青年は、炎のように鮮やかな紅い髪をかきあげて、驚きの表情で見上げる少年を見下げていた。
「お前だな。この世界の
この俺が、幼女から熟女年齢問わず獣人から人魚まで種族構わず構築された、ハーレムだからチーレムだか分からんモノをぶっ壊す!!」
赤毛の青年が屋根から飛ぶ。
その勢いに乗じて、鉄板のような剣を振り下ろした。
黒髪制服の少年は、腕をクロスし防御の体勢を取る。すると、少年の前には複雑な文様の浮かんだ薄い膜のような半球体が出現した。
薄い膜と鉄板がぶつかり合うと、その見た目とは反して激しいショート音が発生する。
ついでに辺りに電流のようなプラズマと衝撃波が巻き起こり、周りにいた美女や崩れた石を吹き飛ばした。
半球体ごと床に若干めり込んだ黒髪制服少年に隙を与えないようにと、二撃三撃と鉄板を振り下ろす赤毛の青年。
「異世界転生してチート能力手にしたからって好き勝手しやがって!」
半ば八つ当たりのような感情を黒髪制服少年に、斬撃と一緒に叩きつけていた。
半球体にヒビが入る。
「やめて!」
しどけなく倒れ込んで心配げに見つめていた、真っ青な長い髪の美少女が悲鳴をあげる。
黒髪制服少年は、その様子を一瞥する余裕もない。
あともう一撃──
「お前は異物! この世界から、お前たちのような異世界転生者を排除するのが俺の仕事だ!」
赤毛の青年がトドメだと鉄板を振り上げた瞬間だった。
「待ちなさい! そうは問屋が卸さなかったり卸したりするわよ!」
微妙に酒灼けしたかのようなハスキーな女の声がこだまする。
「いや、そこは『卸さない』でいいだろ! ……って、誰だ! 俺にくだらないツッコミさせるのは!」
鉄板を振り上げた手を止めそう叫んだ赤毛の青年は、声の主を探して首を巡らせた。
「私はここよ」
赤毛の青年は、すぐそばからしたハスキーボイスに、弾かれたようにそちらへと顔を向ける。
いつの間にか、赤毛の青年と黒髪制服少年の間に、一人の女が佇んでいた。
女がスルリと手で赤毛青年の胸の辺りを撫でる。
しかし、そのモーションと相反する勢いで、赤毛青年の身体が後ろへ弾き飛ばされた。
「ぐっ?!」
赤毛青年は、鉄板剣を床に突き立て、吹き飛ばされた勢いを相殺する。
なんとか壁にめり込まずにすんだものの、胸に痛みを感じて膝をついた。
赤毛青年の攻撃から解放された少年は、薄い膜を消してヨロける。その体を、飛び出してきた青い髪の美少女が抱きとめた。
「あ……アンタは……」
少年のその声に、輝かんばかりの笑顔で女は振り返った。
「私は! 異世界からの転生者を狩る者──俗にいうハンターを、更にハントする者!!
別名ハンター×◯ンター!
一部著作権とか色んな大人の事情で伏せ文字使われるだろうけどハン◯ー×ハンター!!
アニメなら間違いなく『ピー』って音が入るだろうけど文字だから何度でも叫ぶわ!
私はハンター×ハン◯ー!!
ちなみに20年も連載しないからご安心を!!」
そんな女の言葉に、赤毛の青年も黒髪制服少年も、目を丸くしてキョトンと見上げる事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます