Chapter27.同化~一つの存在、二つの想い~

「見つけた。こんなところにいたんだね」



 森の中に隠れて黒翼の回復を待つ間、作戦を練っていた僕たち。

 だけど、それを嘲笑うかのように“黒き救世主ダークメシア”のリーダー……ランはあっさりと僕たちを見つけた。


「くそ……ッ!!」


 イビアが黒翼を庇うように立ち上がり、呪符を握り締める。それに倣うように、僕たちも戦闘体勢を整えた。


「――“生きとし生ける者に告ぐ,虚空に描きし紅き紋,紡ぎし灯りをいざ示さん……。『ブラスト・フレイム』”!!」


 レンが真っ先に詠唱しランへ攻撃を行うが、彼はその炎を難なく避け、笑った。


「あはは、相変わらず攻撃的だねレン!」


 どこか楽しそうなその声に、レンは再び詠唱しようと構えるが。


「遅いよ! ――“悠遠の響き,凌駕せよ! 『雷響』”!!」


 ランの魔法が先に完成し、大きな音を立てながら雷がレンに襲いかかる。


「……ッ!!」


「――“光よ,彼の者を守護する盾となれ! 『レイス』”!!」


 だが、ルーがとっさに詠唱をし雷の魔法から光の盾でレンを守った。


「レンおにいちゃん、大丈夫!?」


「ああ……すまない」


 申し訳なさそうに笑んで、レンはルーの頭を撫でた。


「おのれ……“双騎士ナイト”……ッ!!」


 ランはその子どもを忌々しげに睨み、手を天へ掲げる。


「リツ! セルノア!! 忌まわしい“双騎士”どもを排除しろ!!」


 ランがそう叫ぶと、どこからともなくリツと半獣人ビーストクォーターの女の子……セルノアが現れた。


「はいはい、リーダー!」


「ランさまのご命令……遂行、させます!」


 二人がそれぞれ身構え、僕たちも意識を彼らへと向けた。


「いくぜ! ――“地に溢れる生命よ,彼の者達に裁きを! 『グラウンド・ゼロ』”!!」


「みんな……来て!」


 リツが剣を構えて地属性の呪文を詠唱し、セルノアのその声によって現れた魔物たちが僕たちを襲う。


「ッ!! ――“光り輝く蒼穹よ,静寂を切り裂け! 『レディアントレイ』”!!」


 リツの魔法を飛び上がることで避け、襲い掛かる魔物たちに向かって僕が魔法を放つ。光は刃のように、魔物たちを切り裂いた。


「イビア、アレキ! てめぇらはリウと黒翼を守っとけ!」


「言われなくても!」


「了解!」


 レンの指示にイビアとアレキが頷き、黒翼と寄り添うように彼の傍にいたリウの元へ近付こうとする。


「させるかよ! ――“大地よ,激震せよ! 『ウェーグ』”!!」


「――“『ダークエンド』”」


 リツがそんな二人に向かって魔法を放つ。

 だが、イビアたちとリツの間に立ち塞がった夜が、無詠唱の呪文でその魔法を打ち消した。どうやらそれは、魔法攻撃を無効化にしてしまう魔法らしい。


「な……!?」


「夜! サンキュー!!」


 攻撃を阻まれたリツは驚き、イビアは助けてくれた夜に感謝の言葉を放った。


「リツ……お前の相手は、オレだ」


 闇をその身に纏った彼に、リツが無意識のうちに後退りをした。


「――“夢幻の闇”」


 夜が詠唱を始めながら一歩前へ出た。


「――“終わり無き世界を包む影,我が剣へ宿れ……『テネーブル』”!!」


 剣を構え、リツに向かい走り出した夜。その輝く剣の白を覆い尽くすほどの深い闇を纏わせて。


「――ッ!!」

 

 リツが剣で彼の攻撃を受け止める。魔力で力が増幅されているとは言え、夜の軽すぎる体重ではいとも簡単に止められてしまうようだ。


「へ……っ。けっこー強くなったじゃん、ひよっこ勇者!」


「…………」


 どこか嬉しそうに笑ったリツから距離をとり、夜はただ黙ってじっと彼を睨む。


「今度はこっちから……!」


「リツ、退いて」


 リツの言葉を遮ったのはセルノアだった。彼女の背後を見ると、大きな翼を持った魔物が夜に攻撃をしようとしていた。


「!? 夜ッ!!」


 その大きな嘴から放たれる炎属性の魔力を込めた攻撃。思わず駆け寄った僕の声に、他の仲間が僕たちの方を向く。


「!! 夜くん、朝くん!!」


「くそっ!! 夜、朝!!」


 深雪が叫んで、ソレイユが魔物に向かって銃を放つ。銃弾は魔物に当たるも既に放たれた攻撃は僕たちに向かっていた。

 もうダメだ、と僕は夜の細い体を抱き寄せる。その瞬間、夜がふっと笑ったのを感じて……僕と夜は、光に包まれた。

 

 ああ、この光は……――


 +++


「……“同化”……!」


 光に包まれた夜と朝を見て、リウが呟く。その光は魔物の攻撃を瞬時にかき消した。


「へえ……すごいね、彼らは」


「ちょ、リーダー笑ってる場合じゃないッス! 合体したあいつらマジ強いんだって!」


 心の底から感心したようにランが微笑むと、焦ったように手をバタバタさせながらリツがランに抗議する。


「それは大変だ。では、この場を魔物たちに任せて逃げてしまおうか」


 くすくすと至極楽しげに笑うラン。リツは怪訝そうな目で彼を見た。


「逃げるんスか?」


「どの道、決戦の地がここというのもね……」


 未だに止まない光の中、それに背を向けて歩き出すラン。


「セルノア、君のお友達によろしく言っておいてね」


「はい、ランさま」


 ランの指示に無表情のまま頷くセルノア。それを見て満足げに笑いながら、ランは呟いた。


「一つの存在に二つのココロ、か……。羨ましいものだね……」


 自分たちも、そうであれたら良かったのに。

 そう独り言ちたランに、リツは不安げな……それでいて彼を心配するような表情を浮かべた。


 +++


 ぴたり、と光が止んだ。そこにいたのは、夜であり夜でなく、僕であり僕でない存在だった。

 ぐるり、と辺りを見回す。……いつの間にかランたちがいなくなっている。


 ――逃げられたみたい、だね。


 脳内に弟の声が響く。それに仕方ない、と軽く頷いてから、目の前にいる有翼の魔物を睨みつけた。


『――“幻想の煌き,闇を纏い解き放て! 《ライトナイト》”!!』


 手にした二対の剣に光と闇の魔法を宿らせ、鳥型の魔物を切り裂く。

 闇が深く抉り、そこに星を模した光が突き刺さっていく。その魔法に、魔物は断末魔を上げて空へと消えていった。

 もう一度辺りを見回すと、他の魔物たちは地上にいたみんなが倒してくれたらしい。手を振る仲間たちに微笑んで、僕たちは地上へ戻り“同化”を解除した。


「夜! 朝!!」


 そんな僕たちに、みんなが一斉に駆け寄ってきた。


「ったく、一時はどうなるかと思ったぜ」


「ご無事でよかったです」


「怪我はない? 大丈夫?」


 ソレイユ、深雪、リウがほっとした声音で話しかけてくれる。他のみんなも安心したような表情だ。


「うん、大丈夫。ごめんね心配かけて」


 そう謝ると、呆れたような瞳のカイゼルに「ホントにな」と頭を小突かれた。


「けど、“同化”ってすごいよな、魔物の攻撃を無効にできるなんてさあ!」


 すごかった、と興奮気味に笑うイビアに、レンが答える。


「“同化”ってのはコイツらの想いの力だからな。今回の場合はさしずめ夜が朝を守ろうとした結果、相手の魔法攻撃を無効にしたんだろ。

 ……それでなくても夜は魔法を無効化にする魔法が使えるみてえだが」


 その説明を聞いて、みんなが一斉に夜を見る。


「……っ! ……だ、だって……オレのせいで……お兄ちゃんが怪我したら、嫌だし……」


 その視線にたじろぎながら、夜はぽつりと呟いた。そんな彼の言葉が嬉しくて、僕は思わず弟を抱きしめる。


「夜、ありがとう!」



 “同化”とか“双騎士”だとかそんなものは関係なく、僕はただ夜のそんな想いが嬉しくて……。

 感謝の言葉に、僕の大切な弟ははにかむように笑ってくれた。



 弟を大事に想う気持ちは、僕も『彼』も変わらないのだと、そっと実感しながら。



 Chapter27.Fin.

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