第8話 人殺しのこれから

 町中がすっかり寝静まった頃、私は寝室で私と妻に挟まれた琥太郎の寝顔を眺めていた。


 もし私が妻と結婚しなければ、琥太郎は存在すらしなかったのだ。

 琥太郎がいない世界なんて考えられない、でも沙也加が生まれた世界ではきっと私は同じことを沙也加に思っているのだろう。


 私は何人も人を殺している。出会いを殺している、でもそれはみんな同じ。

 無数にある可能性から、たった一つ選ぶ事になったこの選択、出会いそして人生。

 そう考えると、この呼吸一つがとても愛おしく思えた。


「ねえ、あなた。次はどっちがいい?」

「どっちって?」

「男の子もいいけど、女の子も欲しいって言ってたわよね? 名前は、確か沙也加、だったよね?」

「うーん、そんなこと言ったっけ? 沙也加、もいいけど……別の名前も考えようかな」


 へえ、変なの、そう言って妻は首を傾げた。


 眠りの世界で、突然琥太郎が喋り出した。


……ぼくの納豆返して、ムニャムャ……


 大丈夫、我が家で納豆食べるのは琥太郎だけだ、誰も取りやしないよ、そう微笑みかけてから私は琥太郎の頭を撫でた。


(了)

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