荒波
@mamoru0324
第1話
覚悟を決めたのは1時間ほど前だった。時計の針が12時を少し過ぎた頃、鈴芽はやっとの思いで体をお越した。ベットのなかであれこれ考えたがもうこれしかない。鈴芽はようやく決心した。
最後くらい美味しいもの食べたいなと思ったが、家にはカップ麺しかなく、しかたなしにお湯を沸かした。最後の食事なのにこんなに簡素なものでいいのかと、少しばかり考えたが、料理をする気力も、外に出て食べに行く体力もなかった。あるのはカップ麺だけ。
蓋をあけ、お湯を注ぎ、また蓋を閉じる。単調な動作一つ一つがもうできなくなると思うと、なにか虚しいような、悲しいようなそんな気分だった。
三分がたち、ふたを開けると醤油の香ばしい臭いを含んだ煙が鈴芽の顔にかかる。箸をとって、麺をすすった。ずるっと麺をすする音がいやみたらしく耳に響いた。小さい頃から馴染みのある醤油の味が舌に触れる。いつも何気なく食べていたカップ麺。ようやく味と言うものを意識して食べるとやっぱりおいしかった。
カップ麺を食べ終わり箸をおくとそそくさとベランダに向かった。
アパートの三階に位置する鈴芽の部屋は、普段洗濯物を干すときには感じないのになかなかの高さだと思った。ベランダの腰の位置ほどしかない柵をよじ登り、ギリギリの縁のところに足をかけた。風が優しく鈴芽のほほを撫でる。今までさんざん鈴芽を苦しめた世界。今になってやっと優しくされてもなと思う。
下を向くとやはり覚悟を決めたにも関わらず、怖かった。三階という高さはリアルで、足がすくみ、柵をもつ手に力が入る。頭では死のう死のうと考えていても体は全力で拒否していた。
ふとみると、下には誰が植えたかもわからないパンジーが咲いていた。鈴芽の好きな花だ。花壇に寂しげに咲くその花を鈴芽はもっと近くでみたいと思った。
鈴芽は飛んだ。
荒波 @mamoru0324
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。荒波の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます