福本翔太郎エッセイ集

福本翔太郎

明るい未来

先日バスに乗っているときのこと

子供二人を連れたお母さんが乗ってきた。

何をするにもジェスチャーで、最初は何かと思ったが、

子供の方をみると耳に補聴器というのだろうか。

見慣れない機械が付いていた。

おそらくだが子供二人は多少は音が聞こえるようだが、

言葉を発することが出来ないみたいだった。

きっと周りの人は難聴者がこんなにも近くにいるとは

思わないだろう。

僕自身そう気付いてからも特に何をするでもなく、

ただ、大きな音を突然出さないように心がけていた。

少しの間、耳をふさいでみた。

少しは音が聞こえてしまう。

しかし、騒々しいバスの中では感じられない心地よさがそこにはあった。

これは、僕が音を今まで聞いていたからだ。

今まで聞いていた音が小さくなったので心地がよいのだ。

まったく音を聞いたことがない人にとっては

心地がよいどころかその存在がないのだ。

おそらくだが僕の前に座っていたおばあちゃんは

その姉妹をかわいそうだと思ったのだろう。

なにせ、目がうるうるしているのだから。

しかし、僕は「可哀想」は持つべき感情ではないと思う。

霊感のある人に僕たちが「霊感がなくて可哀想」といわれても

余計なお世話だ。

それと同じだと僕は思った。

喋ることができなくても自分の感情は伝えられる。

相手の言っていることはほぼ口の動きで分かる。

僕はその考えを姉妹の満面の笑顔を見ることで

考えることができた。

きっとこんなにも素敵に笑えるのだから、

彼女たちには素敵な未来が待っているのだろう。

そう信じて疑わなかった。

彼女たち親子がバスを降りるとき気付いたことだが

母親もまた難聴者だったのだ。

手話をやっても運転手さんに伝わるのは五割り程度だろうか

ただそこで運転手さんはしっかりおかあさんの目を見て

言いたことが分かったようだ。

人間味あふれるとてもよい運転手さんの運転は最高に心地がよかった。

きっとあのおかあさんと結婚した旦那さんも素敵な人なのだろうと

そう思えた。



福本翔太郎

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