第34話 豆知識マナちゃんマジ勘弁して
「おっと先輩、マナちゃんのご機嫌をとる前にコーハイちゃんの問題を解いてもらいましょうか。魚の呼吸器官にサッカーの」
「うるせーな、ギルガメッシュ叙事詩だろ! 魚の呼吸器官ってエラだろエラ。鰓は英語でギルだし、サッカー選手はメッシだろ。どうせならメッシュにしろよ! 残りは女児だな。ギルにメッシに女児でギルガメッシュ叙事詩ってこういうのは最初のもっと余裕のあるときにやるべきやり取りであって、こんな終盤にぶっ込むような内容じゃないの」
「つまりもっと前戯してからブッ込めと」
「いつからそんな下ネタ大好きキャラになった?」
「いやあ、手っ取り早くキャラ付けするなら極端に走るのが一番かと。マナちゃんは健康的なエロ、コーハイちゃんは官能的なエロということで」
「お前は官能的を履き違えている」
「でもマナちゃんの小麦色……もといクラフト紙のような色の肌は?」
「大好き!」
しまった、用紙で例えられるとつい本音が出てしまう。
「だってさ、マナちゃん」
「じゃあ許すッス」
「許された」
よくわかんないけど助かった。
「えっと、何の話でしたっけ」
「冷やし中華は」
「断じて食い物ではないッ!」
「あれ、結構戻っちゃったよ。違うって、ギルガメッシュ叙事詩がこの部屋の何処かにあるって話だろ」
「おっと、そうでした。どこかに積んであるんですかね~」
各々で部屋の中を探し回る。
「こういうの積ん読って言うんスね。積んでおくことで満足して読んだ気になっちゃうやつ」
「積んで置くってのと掛けてるわけか、なるほどな」
「ちなみにこのやり取り、伏線も何も隠されてないッス!」
「はぁ……」
「あれ、マナちゃんの豆知識コーナーはお気に召さなかったッスか」
「コーナーって、初めてだろそれ。さも今までもやってました風に言わないの」
「じゃあそのため息は何なんッスか?」
「ギルガメッシュ叙事詩かぁって。ギルガメッシュって英雄王と言われているけど、とにかく怖くて人々からも恐れられていたって言われているし、どんな暴君なんだろうって」
「ハバネロより暴君ッスか」
「きっとね」
「深夜番組みたいな名前の癖に生意気ッス」
いちいちこの子は年齢層が高いなぁ。
「……よし、さっさと探そうか」
黙々と作業すること数分間、ソファーの裏に隠された目的の書物を見つける。
「コースター代わりにされてるッス。コーヒーまみれッスね」
「まあ犯人探しをする気はないが、この中にコーヒー好きは一人しか居ないからな」
「そうなんスねー。誰の仕業ッスかねー」
「おっとお二人さん、コーハイちゃんを犯人に仕立て上げようと完璧な印象操作がなされてますが、この中の三人ともコーヒー飲んでますからね。コーハイちゃんはただのコーヒー好きってだけですからね」
なんだろうこの謎の責任のなすり付け。
ちなみにこのギルガメッシュ叙事詩、表紙はもちろんのこと結構中身もシミが付いている。
「大丈夫かなこれ……引っ付いて破れたりしなきゃ良いけど」
「これはどう見てもアレですね。雨ざらしにされた雑誌みたいですよね」
「えっ……う、うん」
河川敷のエロ本みたいくらい言うのかと思った。
「付録の遊戯王カードが無いか探してみんな同じページばかり開くから、開き跡が付いちゃってるんですよ」
「何そのリアルな感じ。いやそういうの良いから。早く開いてくれ」
「わっかりましたー。いつもの厳かな儀式は省略しますね」
「汝のあるべき姿に戻れってヤツか? 省略できるんならもう毎回省略してくれよ」
「いやでも開封の儀は必要じゃないですか」
「あれにそんな名前が!?」
そもそもお前は泥派だろ。泥派であれ。
「はいはい、それじゃ机に集まってください。せーの、よっと」
お土産のお菓子を開けるくらいの軽い雰囲気で本を開く。
すると一陣の風が通り抜け、虹色の光の渦が本の上で漂っている。
ノアの神話に入る時と同じ光景だった。
「よし、行くよマナちゃん!」
「もう残りページも少ないし、最後の一仕事ッスね!」
「うん、普段ならたしなめるところだけど、流石に自分でもそれをひしひしと感じてるからあえてスルーするよ」
「がーんばってくーださい」
コーハイの呑気な応援とともに、わたし達は再び物語の舞台へと旅立つ。
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