第32話 シュタインズ・ゲソ
書斎の扉が内向きに開かれ、道に吐かれたガムのように無残に丸め込まれたような状態でわたし達は戻ってきた。そして扉は勝手に閉まる。
どこに繋がっているのかわからない扉は、ありとあらゆる物語からの帰路として機能している。
「あら、お帰りなさ~い。ご飯にする? オカズがいい? それならた・わ・わ?」
「それがティンカー探しに奔走してきた者に対するねぎらいの言葉か」
「ねぎらい」
「やめろ、同人誌を渡そうとするな! くそっ、本当になんでもあるなこの本棚は!」
ボロボロになった体を起こして立ち上がる。ああもう、マナちゃんまでひどい格好だ……いや、この子は露出の高い服のままだからか。
「って、あれ。修道服じゃなくなったんだな」
コーハイの格好がいつの間にか変わっていた。
水色のオーバーオールに白衣をまとい、インテリ風な伊達メガネを身につけている。これが彼女の普段着なのだが、いつもマナちゃんに「可愛くないッス」と一刀両断され着せ替えられている。
「まあいつもの服装の方が動きやすいですし。それにほら、白衣にメガネでインテリ度もアップして見えるでしょう?」
「メガネにオーバーオールって某ロボット娘しか出てこないんだが」
「そこはほら、天才発明家の方でお願いしますよ」
「え、千兵衛の方ッスか」
「ほよよ~!? いやいや、そりゃ確かに白衣だけど」
「案外的を射てるな。スケベなところもそっくりだ」
「何言ってるんですか。センパイのむっつりスケベには敵いませんよ」
「こら、勝手に人を変なキャラ付けするな」
「え、違うんスか?」
「違うよ!?」
断じて否。
「どちらかと言うと狂気のマッドサイエンティストと呼んでください。おーほっほっほっ……ああ、疲れた」
そのままゴロンとソファーに寝転ぶ。
「おいこら、登場して早速寝るな。お前の場合はそのマッドは狂気じゃなくて泥だな」
ぐでたまみたいにソファーと同化している。
「あれれ~、でもそのノアの方舟神話、差し止め判が取れてないですよ。もしかしてこの世界線は失敗だったんですかぁ」
「これタイムリープものじゃないから。運命は収束しないから。そんなことを言ってる場合じゃないんだよ、ねえマナちゃんってうわわあぁぁ」
「へ!? な、なんスか」
「マナちゃんも普段着になっている……滅多に見られない貴重な日常シーンじゃないか! これは拝まなきゃ」
「なむなむ」
「え、そうッスか? もう着替えようかと思ってたところッスよ」
マナちゃんは薄い水色がかったワンピースを身に着けていた。本人曰くこれが普段着とのことだが、書斎では基本コスプレ衣装な彼女にとって、恐らく結構レアな光景なのだ。
「その格好自体がコスプレっぽいというのは言いっこなしで」
「とぅっとぅるー」
マナしぃ爆誕。
髪の長さといい、色といい、何もしなくてもコスプレ感がある。
「先輩こそ話の腰を折ってるじゃないですかぁ。それで、結局どうなったんです?」
「おっとそうだった。コーハイ、今すぐ書架から探してほしい本がある」
「なんですかなんですか~? ノアの女体化エロ画像でも探すんですかぁ」
「それは犯罪ッス」
「ああ、犯罪だな」
「え? 何その反応……まあいいや。えっと、何をお探しで?」
ソファーと乖離してコーハイが起き上がる。
白衣を翻し、本棚の前に立つ。
「さぁ! 『インデックス』の名のもとに、ありとあらゆる書物は我が手中に!」
「いや、すでにそれ関係ない服装になっちゃってるじゃん」
「おっとそうでした。マナちゃん、もう一度修道服を! 色は白で!」
「りょーかいッス!」
「いや、もういいから。良いからさっさと調べろ」
これ以上このネタ広がらないし。
「やれやれ、この衣装がお気に入りならそう仰れば良いものを。先輩は素直じゃないんだから。いや、むしろコーハイちゃんが狂気のマッドサイエンティストならば先輩はツンデレ助手ということになりますが」
「なりますが、じゃねぇよ。良いから調べろ」
「はいはい」
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