第20話 のうそん
「あら、お久しぶりです――なんだかお疲れですね」
「ちょっと、まあ……」
村を訪れ、カベルネの元を訪れたわたし達を見て開口一番、彼女が口にした台詞だった。
「ウーウァちゃんからのお届け物ッス」
「へえ、また苗かしら――あら、これは?」
「活力剤だとさ。成長促進のために、こないだの苗に与えてやったら良いってさ」
「わざわざありがとうございます。またおもてなしできたら良かったんですが、今日は準備が全然できてなくて……メルローも忙しくてしばらく戻ってこないでしょうし」
「そんな、いつもいつも悪いよ。ただ届け物に来ただけだから」
そう言ってひょうたんを渡す。
マナちゃんが若干こちらをジト目で見ている気がするのだけれど見ないフリ。
「ところであちらに人影が見えますが」
「えっ」
言われて振り返ると、建物の影に小さな影が伸びているのを見つける。
じっと見ていると、やがてこちらの視線に気づいた影は慌てふためき、自らの影を引っ込め隠した。
「……」
無言で一歩近づく。
ズザザザサッという風を切る音ともにその姿は遠のいた。
「また逃げられたか……」
「相変わらずの逃げ足ッスね~」
「?」
カベルネは何が起きているのかさっぱりという顔をしている。
「今日はもう疲れたし、帰ろうか」
「そうッスね」
「よくわかりませんが、ありがとうございました。またお礼に伺おうと思いますが、ええっとどの辺りにお住まいですか?」
「しばらくはハム夫妻のところで厄介になってるから、もしも何かあればそこに」
「ああ、そうだったんですか。わかりました~」
嬉しそうにひょうたんの紐を持ち、フラフラとぶら下げながら眺めている。それを見ているわたしを見つめるマナちゃんの無言の圧力が苦しいので、足早にその場を後にする。
それから数日後。
動物たちと戯れながら日々を過ごしていた。
「さらっと嘘を吐いたッス。ヤギにまたがることすらままならない日々ッス」
「残念だったな、昨日ようやく乗れるようになったのさ。まずは乗る前に髭の手入れをしてご機嫌を取って……いや、そんな話はいいんだ」
ハム邸からは村が見える。いや、正確には見えていた。
数日前まで村だった場所は蔓草が伸びるが如く木々が覆い尽くし、あっという間にジャングルのように急成長していた。もはや入り口すら見当たらず、ウーウァの植物園状態だった。
原因は一体なんだろう。
まるで見当がつかない。
「また流れるように嘘を吐いたッス。シショーのことをサショーと呼ぶ日が来るかもしれないッス」
それは止めてくれ。
間違いなく、原因はウーウァの活力剤だろう。
あの必殺技効き目抜群だな。
しかし、我々にできることは何もない。ただこうして手をこまねいて彼らの行く末を見守ることしか、できないのだ。
メルローの叫び声が聞こえた気もしたが、きっと気のせいだ。
なんてことを言っていたら思ったより早く村人達は順応したらしく、すぐに剪定作業と収穫作業が開始され、村の周辺から溢れ出る果実の香りがここまで漂ってきた。
取れすぎた果実はハムの下にもおすそ分けとして届けられた。
運んできたメルローが般若のような顔で静かにこちらを睨んでいるような気がするので、再び全力で逃げた。
死に物狂いで走った後の果実の味をわたしは決して忘れないだろう。
空腹は最高のスパイスというやつである。
嫌がらせのように何度となく果実は届けられ、本当に飽きるまで食した。
とはいえ保存食のような固いパンの食事とどちらが良いかと問われたら悩ましい。
もはや動物集めなど、ここに居残るための口実でしか無いほどに無為な毎日であった。
「ダイジェストで流すには思ったより酷い内容ッスね」
そんな発言にツッコむこともなく、さらに日々は過ぎていった。
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