第10話
「保の友達?」
友也さんの紹介に、怪訝そうに依羅さんが眉を寄せた。
「友也。友達という表現は、厳密には正しくないようだよ。友達になるであろうって感じかな。なぁ、保?」
さらりと言ってのけた依羅さんに、松岡が「その通り」と頷く。更に驚いて見上げる俺に、依羅さんが目を細めた。
「ああ、さっきのお客がすぐ帰ると判った理由だったか。簡単だよ。あのカップル、彼女の方は話に夢中になっているようだったが、彼氏の方は表面は彼女の話に合わせて笑っていたけれど、時間を気にしている感じだった。話の合間に腕時計を覗いていたからね。その後視線を外に向けた様子から、すぐにでも出たいと思っているのが判ったんだよ」
「へぇぇ」
あの、店を見回した一瞬で、そこまで見ていたなんて。
「そして保をレジに立たせる事によって、席から立ちやすくしたんだ」
感心する俺に、松岡がハハッと笑った。
「ビックリしただろ? こんなモンじゃねぇんだぜ、依羅さんの凄さは」
「そんな事よりも保。今日はちゃんと学校に行ったんだろうね」
友也さんの妹の前に可愛らしい花柄のカップを置きながら言った依羅さんに、松岡が驚いたようにビクリと肩を震わせた。
「………行ったよ」
その答えに目を閉じた依羅さんが、フンと鼻を鳴らす。
「もう一度だけ訊くよ。ちゃんと行ったんだな?」
低くなった声に、松岡が「シマッタ」と顔を顰めた。その松岡の顔を、依羅さんがチロリと見下ろす。
「学校はサボらないという私との約束を忘れた訳ではないだろうね。――その両足首の擦り傷は、いったい何なんだい?」
それを聞いて、俺と友也さんの妹が松岡の足を覗き込んだ。ズボンから覗いた両足首には、たくさんの擦り傷が出来ている。
「おっ前! 二階の窓から飛び降りたりするから!」
「痛そー……」
松岡はパンッと音のなる程勢いよく両手を合わせて、依羅さんに頭を下げた。
「すいません! ちょっとだけ嘘言いました」
「保、二階の窓から飛び降りたのか?」
少し驚いた声を出した友也さんが、松岡を見下ろす。
「前からやってやろうと思ってたんだ。あの茂みの上に降りりゃ、大した衝撃じゃねーと思って」
「今度やる時は、ブーツでも履いてやるんだな」
グラスを拭きながらのんびりと言った依羅さんに、松岡はハハッと楽しげに笑った。
「そーする」
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