職業《遊び人》
モブオブザモブ
第1話召喚
突如として白い光に包まれる電車内。
その光を最後に、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うう、頭いてぇ……」
目が覚めた瞬間、何故か酷い頭痛がする。
あと、吐き気と謎の浮遊感も。
何となく体が重い感じもある。
何なんだよ一体……
そう思って無理矢理瞼を持ち上げたが、その直後、僕は目の前の光景に度肝を抜いてしまった。
「は?」
視界に飛び込んできたのは、見知らぬ光景。
「一体、何が起きたんだ……?」
理解不能。ただその一言が僕の脳内を占領する。
いや、しかしだからこそまずは冷静に周りを観察しよう。
今僕がいるのは、何らかの儀式に使う建物の中のようだ。
規則的に並んだ柱、それに支えられた不思議な幾何学模様が描いてあるドーム状の高い天井。床にも天井の模様と似た模様が刻印されている。奥に祭壇のようなものまである。
壁はなく、建物の中から外の風景が一望できるが、その風景が異常だ。
ヨーロッパ風の城に、これまた中世のヨーロッパのような街並み。
そして空には太陽と、月が……ふたつ?
まるで絵画の中の世界のようだ。
一体ここはどこだろうか?
僕はさっきまで下校中だったはず。たまたま部活が休みだった
いきなり目の前が真っ白になったことは覚えているが、その後の記憶が全くない。
服装も学生服のままだ。しかし、なぜか通学鞄だけ消えている。
どう考えてもおかしい。
周りにはざっと数えて20人程の人が僕と同じように横たわっている。みんな先程の電車乗っていた人たちのようだ。
体を起こして混乱した様子で周囲を見回している。
そうだ、藍斗は?
焦って探すと、藍斗はすぐ横で眠っているのに気がついた。安らかな寝顔だ。
僕が状況を理解できなくて混乱しているというのに、この野郎……。
ビンタしてやる。
「おい、起きろよアイト」(パシーン!)
「いっでぇ!? ……なんだよヒロキ、もう終点か?」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだ。周りを見てみろ」
「はぁ? ……はぁ!? どこだよここ!?」
「だから言ってるだろ、寝ぼけてる場合じゃねえってさ。目が覚めたら突然場所が変わってたんだ」
「まじかよ……一体何が起こってるんだ?」
こっちが聞きたいくらいだよ。
いつのまにか先程まで寝ていた人たちも目覚めていた。
ざわめきが拡散していく。
「え? ここどこ?」
「なんかめっちゃ光って、それからどうなったんだ?」
「何よこれ、私早く帰りたいんだけど!」
「すげえセットだな。なんかの撮影か?」
「ちょ、マジ訳わかんねえんだけど。なんなんだよこれ?」
誰もこの状況を理解できていないようだ。
本当に何が起こっているんだ?
よーし、落ち着け僕。
一旦整理して考えよう。
僕の最期の記憶、眩い白い光。あれは、天井の蛍光灯ではなく足元から発生しているようだった。あんな光が突然発生するはずはなく、明らかに不自然な現象だ。何らかの外的要因により引き起こされたものと考えるのが妥当だろう。
しかも目覚めたら全く知らない場所にいる。
肌で感じる風と空気が、これが人工的なセットでなく現実であることを物語っている。
更に、月が二つあるということは、ここは地球ですらないだろう。
この展開、もしかして……
「異世界転移、とか?」
「……いや、その結論は流石にこじらせすぎだろ。現実にそんなのある訳ねえよ」
「いや、でもそれ以外考えられないだろ。だって気づいたら全く知らない、地球かどうかもよく分からない場所にいるんだぜ?」
「たしかにそうだけど……。何にしろよく分からない状況であることに変わりはないよな」
「突然の事態に混乱しているだろうが、私の話を聞いてほしい」
僕らが相談し合っていると、低いがよく響く威厳のある声が祭壇の方から響いてきた。
目を向けると、そこには昔の王族のような豪華な服と冠を身につけた、初老の男が立っていた。
両脇にはいかつい鎧と兜を被り槍を持った兵士らしき人物が立っている。
やけに物々しい雰囲気だ。
しかし、目が覚めて初めて状況が変化したのだ。
彼らはこの異常事態に関係する人物に違いない。
「私の名前はエルディオ・タルス・コラスル。此処コラスル王国の国王であり、そなたらを異世界より呼び寄せさせた張本人だ」
国王と名乗ったその男は、堂々とした様子で僕たちを見渡していた。
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