未練

ゆにろく

未練

私は今葬式場いました。 そこでは母親、父親は勿論、友人、恋人と思われる人達もとても悲しんでいます。亡くなられた方は生前、とても人徳があったのでしょう。

故人の友人達は皆若く私と同い年ほどで、大学生のように見えます。 亡くなられたこの人も若かったのでしょう。


私は亡くなってしまったこの人を羨ましく思いました。


人の死は突然で、その葬式にでるというのは案外難しいものです。 予定が元々あればそれを蹴らなくてはならないし、予定がない休日であれば、それはそれで外へ出るのは億劫になります。 そんな中ここを訪れているのですから、ここにいるのは故人の死を本当に悲しみ、最後の挨拶を済ませようと心から思っている人だけです。 当たり前だと思いがちですがそれは素晴らしいことではないでしょうか。 もう動かず、喋りもしない自分に予定を蹴ってまで会いに来てくれる。 こんなに喜ばしいことはありません。 しかし、それに気づくのは死んだあとなのでしょう。 そうして、私は葬式場を後にしました。


私はもう死んでいます。


21歳と7ヶ月を生き、ある日事故に遭いそのまま身体は動かなくなりました。 そこからもう7日は経ったでしょうか、空腹や喉の乾きはありません。 ただ、さ迷っているのです。今の私は他人に見えないようですから幽霊なのでしょう。 所謂成仏ができずにいます。 私には未練がありました。 事故死というのが受け入れられなかったというのが最初の未練です。 自分の葬式に出ればそれは解決するのではないかと思い足を運びました。

私は21歳でしたが、資産家だった祖父の遺産を相続していて、一生働かずに生きれるほどのお金を持っていました。 そんな私が死ぬのですから、親戚はそれを目当てに私の葬式に足を運びました。 それを見て私はなおのこと未練が生まれてしまいました。

死とはこんなちっぽけなものなのか。

事故死したのもそうですが、自分の利益を考えて死んだ私の葬式へ出る人達をみてもそう思いました。

その未練をどうにか無くそうとふらふらさ迷い今に至ります。


私はとぼとぼと道路を歩き続けました。 だんだん太陽が沈み、空は赤く染まり始めます。 今日もまた無駄な1日を過ごしてしまったと思い、ため息がでました。 ……いえ、死んでいるのですから無駄ということはないかもしれません。

ふと、後ろの方からバンッという破裂音のようなものが聞こえ、 トラックが私の横を通りすぎていきました。 そのトラックが1秒ほど前に走っていたであろう道に何か落ちています。


それは、羽が折れ、血だらけになった鳥でした。


先程の破裂音のような何かはトラックが鳥をはねた音だったのです。 私はその鳥の近くへ行きその場にしゃがみました。 鳥は僅かに動きましたが、もう虫の息といった感じです。

可哀想に。

この鳥は突然命を奪われ、誰も知らぬまま死んでいくのです。 自分と同じように。


そこで私は自分の傲慢さに気づきました。 私は自分の死に、死んだあと見た冷めた人間の対応にしんそこうんざりし、腹を立てていましたが、死は決して人の物ではありません。 この地球上の動物にも平等の死があるのです。 この唐突に命を奪われ、仲間に看取られないまま死んでいく鳥を見てそう思いました。 自分は贅沢な悩みをしていたなぁと。 死というのは気づかないだけで、すぐ近くに転がっています。 そこへ目もくれない人間がいるだけです。 身近なペットが死んだ時は、それを悲しく思いますが、殺人事件が起きて見知らぬ人が死んでもなんとも思わない。 そんなものなのです。

そう考えると自然と身体が軽くなるのを感じました。

「鳥さん気づかせてくれてありがとう」

そう言い、鳥を看取りました。 それでも誰にも知られず死ぬのは悲しいものですから。 とはいえ、死人に看取られる死というのも何か変な感じがしますがね。


「行きましょうか」


私はその鳥と供に紅に染まる空へ飛び立ちました。


─完─

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未練 ゆにろく @shunshun415

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ