幻想現実
高梯子 旧弥
第1話終わり
何時からだったのか覚えていない。
何でそうなのかも覚えていない。
ただ一つ確かなのは僕にとって彼はかけがえのない存在であることだ。
高校を卒業して大学に入学した僕はどこにでもいるありふれた大学生だった。特段、秀でているわけでもなく、悪目立ちをするわけでもなく、大学生活を送っていた。大学は高校までとは違い、クラスという概念があってないようなものなので、それが僕に合っていた。極論、友達を作らないでも支障がなかったと思う。
しかし、幸運なことに、僕には小学校からからの幼馴染みの友人がいた。名前はKくんという。
Kくんとは学部は同じだけど学科が違うので、選択する講義も必然変わってくる。なので、一緒の講義のときはいいが、そうでないときは僕は独りぼっちになる。
別にそれで何か問題があるわけでもないけれど、やはり講義の合間は手持無沙汰になってしまう。
それでも時は経つもので、気が付いたら講義が終わっているから不思議だった。
講義が終わったら大体は夕方からアルバイトがある。学費を親に払ってもらっている分、生活費は自分で稼がねばならない。
接客業は僕には向いていなかったけど、一緒に働いている人たちは良い人ばかりで、そこまで苦にならなかった。
アルバイトも終わり、外が暗闇に覆われた頃に大学生になってから始めた一人暮らしの賃貸マンションの四階の一室に帰宅。
こんな生活を四年近く続けるのかと考えると我ながらつまらない人生だなと思う。こんな何も楽しみもなく、生きていることに意味があるのか、時々考えるがいつも答えは出なかった。
しかし、幸か不幸かそんな生活が長く続くことはなかった。
大学一年生を何事もなく過ごしたと思っている僕は、大学生特有の長い春休みが明けた新学期からどうも様子がおかしかったらしい。
僕自身、自覚はなかったのだけれどもKくんから何か心配されている。
「大丈夫か?」
「何かあったらお互い話そう」
そんな言葉を投げかけてくるようになった。だけど僕には何のことだかさっぱりわからず、曖昧な返事しかできなかった。
さらにはアルバイト先に行っても同じようなことを言われるようになった。
「最近元気ないね」
「体調でも悪いの?」等々。
僕としては自覚がなかったけど、心のどこかでこのままアルバイトを続ける無意味さを悟っていたのか、一週間後アルバイトを辞めた。
そんなよくわからない日々を過ごしているうちに気が付けば夏休み。またしても大学生特有の長期休暇が始まる。
夏休みは好きだ。何故かはわからないけど、夏には楽しみにしていたことがある気がする。
何が楽しみなのかが全然思い出せず、頭に靄がかかったようだ。しかし、その靄を払おうとすると、今度は胸がチクリと痛む。原因はわからない。
何か得体の知れないものを感じた僕は、それを払うかのように部屋の掃除を始めた。
部屋の汚れは心の汚れであるかのように隅々まできれいにした。いらないものもどんどん捨てるようにした。痛んできた洋服、使わなくなった参考書等々。必要の無さそうなものは捨てた。それなのにどうしてか前に観たであろう映画のチケットの半券は捨てることができなかった。
夏休みも中盤に差し掛かった頃、Kくんから遊びの誘いを受けた。特に予定もなかったので一緒に出掛けることにした。
Kくんが呼び出したのは僕たちの地元だった。別に一人暮らしを始めた僕でさえまだ地元はすぐ近くなのに、わざわざそこに呼び出すなんてなんだろうと思いながら向かう。
待ち合わせ場所に僕より早く居たKくんと挨拶もそこそこに歩き出した。どうやら目的は散歩らしい。仮にも大学生が地元をただ歩くだけなんて地味な休日の使い方をするものだなと思ったけれど、僕もそれで良かったので付き合った。
散歩コースはどうやら僕たちが通った小・中学校の登下校、並びによく行った遊び場みたいだ。
考えてみると、中学校を卒業してからはこの辺りを通ることはほとんどなかったので懐かしく感じた。背丈はそんなに変わっていないのに同じ風景でも感じることが違うのは感性が変わったからなのか何なのか理由はわからない。
それにしても何か不自然だ。元々口数が多いほうではないKくんではあるが今日はいつにもまして少ない気がする。話していても考え事をしているみたいで訊き返してくることが多い。
何か困ったことでもあるのか、しかし、それを訊ねていいのか決めあぐねていると、前から懐かしい人影が見えてきた。
「○○!」と、僕が呼びかける。彼は前に会ったときと変わらない表情で答えた。
○○は中学の友人である。中学時代のほとんどの時間を僕はKくん、または○○と過ごした。○○とは同じ漫画が好きで、ゲームも好きでよくそれらについて語らっていた。中学を卒業してからはお互いあまり自発的に連絡を取るタイプではなかったため、交流を持つ機会が減ったが、毎年夏休みには好きなアニメ映画を一緒に観に行っていた。
そんな○○と偶然、道端で会えたのが嬉しかった。当然○○とも地元は一緒なのだからこういうこともあるだろう。
僕は○○の方へ歩き出そうと足を一歩踏み出したところで後ろから右腕を掴まれた。驚いて振り向くと、戸惑ったような、はたまた焦ったような表情のKくんがそこにはいた。Kくんは酸素を取り込もうとするかのように口をパクパクさせ○○の方を見つめている。その間も僕の腕はしっかりと掴まれ、動けずにいた。
僕が「何? ○○のところに行こうよ」と言っても反応なし。掴まれた手からKくんの体温を感じる。熱い。気温が高いせいなのだろうか、手汗を大量にかいていた。いつものKくんならやる相手によっては失礼に値するようなことをしない。別に僕がこれぐらいで気分を害したわけではなく、ただただ不思議だった。
大体一分間くらいだろうか、三人ともその場から動かずにいたが、痺れを切らした僕はKくんに「いい加減にしてよ。○○のところに行きたくない理由でもあるの? 喧嘩しているとか」と言い放った。しかし返ってきた言葉は予想外のもので、
「お前にはあれが○○に見えるのか」
そんな意味不明なことを口走るKくんに少し怒りを覚えたが、その感情を表には出さないように「当たり前じゃん。どう見たって○○」と言いながら顔を向けると、そこには誰もいなくなっていた。
結局、その日はその場で解散になった。帰り際に「本当にごめん、ちょっと自分の中で整理したい」と言って足早に去っていったKくん。忽然と姿を消した○○。両者とも一体どうしてしまったのか、自分だけ置いてきぼりにされたようで少し悲しかった。
それから数日後にKくんから連絡があった。内容は簡素で「会わないか」の一言。僕はすぐに了承の意を示した。
待ち合わせたのは僕が小さい頃からやっている小さな喫茶店。店内は結構な人数の客が居たが運よく店内奥の窓側が空いていたので、そこに腰を下ろした。コーヒーを注文し、一息ついているとKくんが姿を現した。
お互いの飲み物が届き、少し落ち着いたところで話し始めた。
「……それで話って何?」
僕が訊いてもKくんは顔を伏せて何も言わない。頭頂部から垂れ下がる幾本もの黒髪で顔が隠れて表情を窺うことができない。僕の声が聞こえていないわけではないだろうが、沈黙だけが聞こえてきた。
もう一度、こっちから話したほうがいいのかもしれないが僕は待つことにした。別に時間はあるのでゆっくりと、何より僕が急かしているように見えないように振る舞った。Kくんに変な圧をかけることは避けたい。
コーヒーを飲みながら場繋ぎ的にメニューに目を通す。喫茶店にあるハヤシライスって妙に美味しかったりするなと考えたり、窓の外をぼーっと眺めていた。もう何分くらい経ったのか。体感としては長く感じているけれど、実際はそうでもないのかもしれない。時間を確認しようかと思ったけれど、それでKくんに急いでいると思われるのも居心地が悪いので待った。
ひたすら待った。
どのくらい経ったのかわからないが、ようやく顔を上げ、僕と目を合わせた。その目は少し悲しそうに見えた。
「この間のことなんだけど」
そう言って一度唾を飲み込み続けた。
「この間会ったお前が○○だって言ってたやつ、本当に○○だったか」
喉に物が詰まったように苦しそうに吐き出された言葉を僕は理解できなかった。
「? 当たり前じゃん。確かに最近会う機会が減ってはいたけど○○は見た目も昔から変わってなかったし、間違えないよ」
Kくんは驚いたように一瞬大きく目を見開いたあと、何か納得いたかのように小さく頷いた。
「そうか、やっぱりそうだったんだな」
「やっぱりって?」
言おうか言わまいか悩んだ様子のKくん。さっきから何をそんなに言いあぐねているのかわからない僕としては相手の言葉を待つしかない。
「いや、どう言っていいのかわからないんだけど、何ていうかその、俺には○○だとは思えなかったんだよ」
「じゃあ全然関係ない他人だったってこと?」
「そうじゃなくて……俺にはそもそも人間にすら見えなかった」
いよいよもってKくんの言っていることが理解できなかった。あれが○○でないというならまだしも、人間にすら見えないというのはどういうことだろう。
「え、それはどういう意味? 幽霊でも見たってこと?」
僕は困惑しながらも訊くとKくんは「幽霊か」と呟いた。
「いや、そうじゃなくて、形は人のそれではあったけど人間っぽくなかったって意味で、幽霊ともまた違う……気がする」
何とも歯切れの悪い言い方になっているが、どうにか僕に伝えようとしているのは伝わった。けれどもやはり僕は意味を理解することができずにいた。人間でもなく幽霊でもないけれど人の形をした何かに見えたということだろうが、その何かがわからなければ何もわかっていないのと同じである。
「……つまり、僕たちは偶然にも同じ幻覚を見たってことでいいのかな」
少し暗くなっていた空気を明るくしようと冗談めかして言ってみたけれど、Kくんの表情は暗い、というより険しいままだった。
「幻覚、確かにそれが一番近いかもな」
僕が深く意味も考えずに発した言葉をそんな真面目に解釈されてもと思ったが、これで会話が進むのなら良しとする。
「そうだとしても何で○○の幻覚なんて見たんだろうね。確かに最近会ってなかったけど、そんなに○○が恋しい、みたいな感じには思ってないのに」
やはりいくら僕が明るく努めてもKくんの表情に変化は見られない。どうしたものか考えている中で、不意に僕が口に出した言葉を聞いたKくんの表情が変わった。
一瞬、驚いたいような顔をしたが、すぐにどこか納得するようにして頷いた。その表情は憐れんでいるように見えたのは気のせいだろうか。
僕は「また会いたいな」そう言っただけなのに何がそんなにおかしいのだろう。
結局その日も前回と同様、「ごめん、また今度話そう」と言って、僕に自分の分の代金を渡してその場を去ってしまったKくん。
この短期間で二度も同じ人から同じようなことをされるとは思わなかったので、唖然としてしまった。Kくんはどうしてしまったのだろう。Kくんは僕のことを不審に思っているみたいだけど、僕からすればKくんのほうがおかしく見えた。何かあったらお互い話そうと言ったのはKくんなのに。
店内で一人きりになってから周りの雑音が耳に入り込んでくるようになったので、あまり長居しても疲れそうだなと思い、椅子から腰を上げようとして止まった。臀部を椅子から離し、中腰になったところで向かいのKくんが居た所に人の気配を感じた。おもむろに顔を向けると、そこには○○が座っていた。
「○○! いつの間に居たんだよ」
驚きと興奮が入り混じって声が大きくなってしまった。周りの客から怪訝な視線を感じるので声の大きさを絞って言う。
「この間といい今日といい、急に消えたり現れたりするのな」
「ごめん、ちょっと訳があってね。それより」
一回言葉を区切り、一拍おいてから、
「Kくんとは仲良くしなよ」
そう言うのだった。これまた唐突のことだったし、久しぶりに会って話す話題がそれなのかとも思った。
「何だよいきなり。別に仲良くやってるよ」
「そう? この前も今日もKくんがあんな顔をするところ初めて見たからちょっと気になって」
「いや、あれは、Kくんがよくわからないことを言うから……でも喧嘩してたとかじゃないから」
「そうなんだ。なら良かった」
安心したように微笑む○○。なぜかその笑顔を見たとき心臓が大きく跳ねた。
「俺はね、心配してたんだよ。二人が変わらず仲良くやっていけるかを」
「そんな心配だなんて大げさな。別に僕らは変わらず仲良くやってるよ」
「いや、変わってくね。少なからず変わっていくし、もう既に変わりつつあるかもよ。俺とは違って、ね」
そう断言したときの○○の言葉にはなぜかものすごい説得力があった。変わる……言葉にすると簡単だけれども、いざ現実にするとなると中々難しい。人はそう簡単には変われない。何か大きな契機があれば別だが。
「何でそう思うの?」
「お前らと何年の付き合いだと思ってんだよ。それくらいわかるよ」
笑いながら自信満々に答える様はあまりにも堂々としていて、何か風格のようなものまで感じる気さえした。
「まー、何にしたってこれからお前らは死ぬまで友達でい続けるんだからこんなくだらないことで揉めるなよ」
「死ぬまでってちょっと極端な気がするけど、そうだね。あんまりよくわからないことで気まずい雰囲気で一緒にいても仕方ないしね」
僕のその言葉を聞いて満足したのか○○は軽くはにかんでから言った。
「その通り。だからちゃんと話し合うことだ。話し合って、今を見ていこう」
確かに○○の言う通りかもしれない。今はお互いの歯車が噛み合っていないだけで、話し合うことでまた歯車を合わせればいい。Kくんとなら難しい話ではないはずだ。
そんな簡単なことに気づけなかったなんて我ながらどうかしていると思うが、それはそれとして、○○に礼を述べなければ。
しかしそれは叶わなかった。特段、余所を向いたわけでもないのに○○の姿はすっかり消えていた。
それから夏休みの間、Kくんとは会うことがなかった。僕は○○に言われた通り話をしようと思っていたのだけれど、どうにも気が進まなかった。別に夏休みが終われば学校で会えるのだし、無理に急がなくてもいいと思ったというのもあるだろう。
その反面、○○と会うことは多かった。外を歩いていると偶然出会ったりした。ある日は立ち話をした。またある日は毎年恒例の映画を観に行き、またある日は僕の家に招いてお喋りをした。中学のときは○○の家に遊びに行くことが多かったから、また行きたいなと思ったけど、誘われることがなかったので行くことはなかった。
久しぶりに○○と休みを楽しめて嬉しかった。はずなのに、いつも○○と会った日は心が苦しく感じた。
夏休みも終わり、学校が再開すると、案の定、すぐにKくんと会うこととなった。あの日以来なので、気まずい雰囲気になるかと思ったけれど、Kくんはいつも通りに振る舞ってきた。
何事もなかったような、いつものKくんだった。その姿にほっとし、僕の変な緊張も和らいでいった。○○に言われたような話し合いをするまでもなく、今まで通りの関係に戻れたようで安心した。僕の口も軽くなってどんどん言葉が出てくる。そんな長い時間が経っていたわけではないけれど、最近あまり話せていなかったので休み時間の間、話題が尽きることはなかった。だけど、僕があのことについて話したとき、今まで和やかだった時間が不意に終わりを告げた。
そのときの反応はここ最近で何度も見たものだった。
Kくんが「ちょっと話そう」と言い、席を立った。僕が「講義は?」と訊くと「そんなのはいい」と言う。講義をサボることに若干の抵抗があったが、それよりもKくんとちゃんと話がしたいという気持ちのほうが上回った。僕たちは教室を出て、ひとけの少ない中庭へ向かった。
「さっきのはどういうことだ」
いきなり切り出してきたので、一瞬何のことかわからなくなりそうだったが、すぐにわかった。
「○○と会ったこと?」
「ああ」
「別に何も変なこと言ってないじゃんか。ただ夏休みに○○と映画観に行ったりしただけって」
「だからそれがどういうことだって言ってるんだよ!」
珍しく、いや、初めてKくんが声を荒げるところを見たかもしれない。驚いて言葉が出ない。そんな僕を見て、やってしまったみたいな顔をするKくん。軽く咳払いをして落ち着いてから言葉を繋いだ。
「○○と映画に行ったっていうのは本当なのか?」
僕は頷く。
「家に来たってのも?」
頷く。
Kくんが下唇を噛む。怒っているわけではないみたいだが、身体に力が入っているのか、小刻みに震えている。
「……それはありえないよ」
「え?」
「それはありえないんだって! だってあいつは」
なかなか続きを言おうとしない。それに何か僕というよりも僕の後ろの方を見ているような。気になった僕はおもむろに振り向いた。そこには○○が立っていた。
「よおKくん、久しぶり」
しかしKくんは答えずに「ありえない」「何で」と呟いていた。
「まだ話していないのか。Kくんも口下手だな」
なおもKくんは答えない。というよりは動揺してうまく答えられないように見えた。
「しょうがないな。俺から言おうか」
そう○○が言ったとき、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「××、実はね」
僕の名前を呼んだであろう○○の声がすごく遠くに聞こえる。
「俺はもう」
その先を聞きたくない。特に○○の口からは絶対に聞きたくない。咄嗟に耳を塞ごうとするも手遅れで、
「この世にはいないんだ」
聞こえてしまった。聞きたくなかった。知りたくなかった。気づきたくなかった。理解したくなかった。その言葉を聞いた瞬間、世界が暗転した。
中庭で倒れた僕は救急車に運ばれた。病院で検査してもらった結果は過度なストレスによるものだろうと言われ、数種類の薬を渡され、翌日には退院となった。
家に帰った僕は、Kくんにお礼の電話をした。電話越しの声はとても心配そうで元気がなかった。僕はお礼と共に元気だせよと、エールを送ったら、少し調子を取り戻した声で「お前がな」と言われ、二人で笑った。その後も少し世間話をし、最後に大学はしばらく休学する旨を伝えて通話を終えた。
僕のことをこんなに心配してくれる友人を持てた僕は幸せ者だろう。友達が多いほうではないけれど、こんな良い奴が一人いる、それだけで充分だった。だからこそ申し訳ない気持ちになった。
それから一か月くらい経っただろうか。まだ学校には行けず、必要最低限でしか家から出ない生活を送っている。
ほとんどをベッドの上で過ごしていた。そこで色々なことを考える。○○のこと。Kくんのこと。そして、これからどうするか。
この一か月の間、一度だけKくんが遊びに来たことがある。
Kくんは僕の家に来るなり、「あれ、お前んちってこんな殺風景だったっけ?」と不思議そうにしていた。僕が家にあるものは生活に必要なもの以外は片づけてしまったからだろう。前は逆に物がたくさんあったくらいだからその変化は確かに大きいかもしれない。
そのときに○○について話した。Kくんが言葉を選びながら慎重に話してくれたおかげもあって冷静に聞くことができた。
それにあのときに見た○○みたいな人影はもしかしたら僕のイマジナリーフレンドではないかと言う。なんか心理学だか哲学の講義で話題に上がり、それが僕の体験した現象に似ているそうだ。僕が○○の死という現実から逃れるための空想上の人間。それを○○だと思い込んでいたのではないか。Kくんも与太話だと笑い飛ばしていいと笑っていたが、少しピンと来るような話でもあった。
その後、Kくんとは会ってもいないし、話してもいない。
最後に話そうと思ったけど、それでは余計にKくんを苦しませることになる気がした。なので、何も言わず、厳かに粛々と実行する。恐怖はなかった。それ以上の感情が身体を支配してしまっていたから。もしかしたらイマジナリーフレンドとなって現れた○○はこれを止めようとしてくれていたのかもしれない。でももう無理だ。
さよならKくん。
よろしく○○。
僕はベランダから身を投げ出した。
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