ゴーゴーえび天
さも☆りん
第1話 ゴーゴーえび天
燃えるような赤髪のツインテールとピンクのリボンをはためかせ、私は今日も街を駆け抜ける。足にはブースター付きスニーカー、モデルはSMR-252。最高時速は時速140キロの代物だ。昨日新調したばっかりのピッカピカ。色はピンク。いかすでしょ?
今日のミッションはこの街から出ることだ。この街、そう通称、パンクギャングシティ、パンクでギャングな街ってわけ。治安は最悪、超無法地帯。とっととおさらばして、私は帝都を目指さないといけない。
なんで私がこんな卑俗で低俗で最悪な街にいるのかって?それはある目的があったから。でも、目的は達成されたし、一秒でも速くこんな街からおさらばしたい。というわけで、私は郊外へ続く帝道567号をひた走りに走ってるってわけ。時速は80キロってところ。なんで最高時速で走らないかって?あんた馬鹿じゃないの?時速が速ければ速い程、体力ゲージの減りも速くなる。最高時速で走ったら五分で体力がきれちゃうじゃない。
補足すると普通に走ってても体力ゲージは消費されていく、止まればいいじゃないって?少しは脳みそ使ってから話しなさいよ。止まったらどうやって呼吸すればいいわけ?死ぬでしょ?死!
体力ゲージの回復のために、私はえび天を集めながら走らないといけない。そう、えびのてんぷら。えび天は、ランダムでこの世界に自然発生する。え?えび天が自然発生するわけないって?あなたさ、頭どうにかしてるんじゃないの?そんな細かいこと気にしてばっかりいるからつまんないやつって言われるのよ。え?言われてない?でも、思われてるよ。絶対。
えび天には様々な色があって、色によって摂取したときの効果が違う。黄色は体力を少し回復、緑は体力を全て回復、赤を摂取すると速度が上がり、青を摂取すると、特殊な力が使えるようになる。他にもいろいろな色がある。オレンジ、紫、金、銀、全て摂取したときの効果は違うけど、珍しい色のえび天はあんまり手に入らない。
とか言ってる間に、前方150メートル地点に黄色のえび天を発見する。ラッキーだ。えび天を拾い上げ、私は朝ご飯としてそれを摂取する。走り続けていると前方に見覚えのある後姿が見えてきた。
リサとララだ。リサとララは私のフレンドで、時々一緒に敵と戦ったりする。リサは空色の髪をいっつもポニーテールに結んでいる。ララはいっつも三つ編みだ。
リサとララは時速40キロくらいで走りながらおしゃべりしている。私は彼女たちに追いつき、減速する。「やっほー」というと、彼女たちも「やっほー」と返す。
「ルル、一昨日ぶりだね。元気してた?昨日は何してたの?」
リサが明るい声で聞く。
「うん、ちょっとね。」
私は言葉を濁す。昨日の用事は重大な秘密だ。例えフレンドであっても他言はできない。
「ルル!聞いた?ダイヤのえび天の噂」
ララが無邪気に笑いながら質問する。
「知ってるよ。あれでしょ、252億えび天ドルの値打ちがあるっていうダイヤのえび天がこの街のどこかに隠されてるって話。252億ってすごいよね…一生遊んでくらせるじゃん。」
私が答えるとリサが首を横にふる。
「それがさ、ダイヤのえび天はもう誰かが手に入れちゃったって噂なんだよ!」
ララが少し不安そうな表情で言う。
「それでね、街の強盗団が血眼になってダイヤのえび天を手に入れた人物を探してるんだって。」
私もつられて不安そうな顔になってしまう。
「つまり?」
「この街は史上最悪に治安が最悪ってことよ。」
「だからね!はやく街から出ましょうよ!70キロくらいまで速度をあげましょ…」
ララは言葉を言い終わらないうちに後方へ吹っ飛んだ。私とリサは減速して後ろを振り返る。きりきりと回転しながら道路に打ちつけられたララは頭部が無くなっていた。
「しまった!強盗団の襲撃よ!」
リサと私はスニーカーのブースト機能を最大にして裏路地へ逃げ込んだ。狭い路地を高速で移動するのはなかなかスリルがある。リサも私も時には壁を走り、時にはジャンプし、障害物を避けながらじめじめした暗い通路をびゅんびゅんと駆け抜ける。
私は、青いえび天をポーチからとりだすと口から摂取した。えび天の効果で10秒間だけ索敵能力を使用できる。つまり、敵がどこに、何人いるか、すぐにわかるってこと。
敵は後方700メートルに5人いた。つまり、5対2だ。数の上では分が悪い。ここは逃げるにしかずってやつね。私は背負っていたカラシニコフ銃を左手に持つと、安全装置をはずす。
前方を走っていたリサがチラッと私の方を見てから口を開く。
「戦う気??」
リサが背負っていた九九式短小銃を小脇に抱え、銃弾を装填する。かちり。かちり。
「一応よ、一応。もしかしたら追いつかれるかもしれないでしょ。」
そんなことを言いながら迫って来たT字路を左に曲がった瞬間、左肩に衝撃が走った。視界が暗転し、身体が回転しているのが感じられる。道に置いてあったガラクタたちを派手に吹っ飛ばしながら私の身体は宙を舞い、ビルの外壁にしたたかに打ちつけられた。体力ゲージが大幅に減っている。肩を撃たれたんだ。畜生!息ができない。すぐに態勢を立て直す。右足、左足、右足。ふらふらになりながら走り出した私は顔を上げた。リサが九九式短小銃の銃口をこちらに向けているのが眼に入る。
「あれれー?ヘッドショット失敗しちゃいましたー。てへぺろー。」
なんで…。じゃない!畜生!裏切りやがったな!一瞬で全てを理解した私は、スニーカーのブースト機能を最大にし、ビルの外壁を駆け上った。
70メートルのビルを駆け上った私は、ビルの屋上を伝って逃走する。体力ゲージはもう残り僅かだ。このままだとやばい。死ぬ。
それにしても、リサが裏切って、私を攻撃するなんて。絶対許せない。私の愛用カラシニコフ銃のカラちゃんの錆びにしてくれる。なんて、思っていると背後からタタタタタという小気味いい銃声が聞こえてきた。私はくるりと回転すると後ろ向きに走りながらカラシニコフ銃を撃ちまくった。
パパパパパパパパパパパパパパ!
蜂の巣になる屈強な男たち5人!哀れ!この私に銃口をむけるからさ!お馬鹿さん!
でも、お馬鹿さんは私だった。だって、撃たれた5人の中にリサはいなかったのだから。私が、リサの不在に気付くのと、両足が撃ち抜かれるのはほぼ同時だった。
「いいいいいいいい!」
言葉にならないほどの激痛に私の身体は崩れ落ちる。ぼやぼやした視界の中でリサが減速しながらこっちへ近づいてくるのが見えた。
「貴女がダイヤのえび天を持ってる事はわかってるの。残念ね。私の情報収集能力をなめちゃ駄目ね。」
そんなことを言いながら、リサは私からポーチを取り上げると中を調べ始めた。何秒かポーチをまさぐると、満面の笑みをこちらへ向けた。
「あったわ。」
まぶしい程にキラキラ輝くえび天がポーチの中から取りだされる。ああ、せっかく苦労して手に入れた私の252億が...というか、私死ぬのかな、息もできないし、体力ゲージももう限界だし…。最後にリサへ唾でも吐きかけてやるかと思って口をへの字に曲げていると、リサが銃口をこちらへ向けた。
「じゃぁ、ばいびー」
パンッ
気が付くと故郷の街を時速10キロで走っていた。スニーカーは弱小ブースター付きモデルUSA-001。紛争村で買ったカラシニコフ銃も、百貨街で買ったブランドもののポーチも、サイエンスシティで新調したスニーカーSMRも、全部無くなっていた。まぁ、しょうがないよね。死んだんだし。
時速10キロじゃぁツインテールもなびかない。悲しいけどまたこつこつ頑張っていくしかないみたい。色とりどりのえび天を摂取しながら、私はまた帝都を目指す旅へ出る。
ゴーゴーえび天 さも☆りん @samorin28
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