滲み

@shinonomehumiori

薄暗い



生まれ持った才能なんてない。天才、逸材、何十年に一度の天才だなんてテレビで聞くと虫唾が走る。みんな努力しているんだ。表舞台に出る前に積み重ねてきた努力を見ようともせず天才というレッテルを貼られ、天才が一人歩きする。一人歩きして何処かへ消えていく。“そういえば最近あの人見ないよね”。玄関前のお母様方が興味無さげに話す。そうやって一人でどこかへ。


「相変わらず暗いのばっか撮るね。よく見えないよ。」

半ば呆れたような口調で加奈子は言った。加奈子はうちの写真部の部長だ。わざとらしい丸い黒縁メガネをかけて肘辺りまである長くて艶のある髪は頭のてっぺんで結ばれている。

「色んなジャンルの写真を撮らないと上達しないわよ。ほら、最近セーラー服の女の子が被写体だと結構反応いいみたい。ポカリのcmみたいな感じ。私着てあげよっか?」

「いいよ、アオハルみたいな写真は嫌いなんだ、知ってるだろ」

確かに彼女の言う通りだ。写真は数をこなしてなんぼの世界。自分の完璧な世界観を作るにはそれなりに冒険する必要がある。


“0RT 2いいね”


有名になったもん勝ちだよな。鈍くオレンジ色に光る夕陽が冷蔵庫に反射している写真を見る。

「ねえ、今日クーポンでサーティーワン一個無料らしいよ。あとでついてきてよ」

加奈子の足は踊っている。今にもこの狭く薄暗い部室から逃げ出したいかのように。

「トイレ行くから昇降口で待っといて。」

私は加奈子の撮る写真が嫌いだ。

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