第2話


図書館までの15分程の道のり、春先の少し暖かいくらいの気温の中、歩道から見える公園の桜はいつ見ても綺麗だ。

「ねぇ!さっきから、なにぼーっとしてるの?」彼女の顔がいつの間にか僕の顔の前にあった。

「いや、桜が綺麗だなと…」咄嗟に言葉が出て少しほっとした。

「たけるくん、よくみてるねぇー。確かに桜の季節だねー」

その時、後ろから

「また、一緒に放課後遊ぶのかー?仲良しだね。」圭人だった。

「またって?」奈々がきょとんとした顔で聞く。

「昨日二人で校門を出たのがたまたま見えたんだよ。」

「なーんだ。違うよ。今日は、図書館に勉強しに行くんだよ!」

高木さんは誇らしげに言った。

「じゃぁ、俺もいい?分からないとこあるんだよねー」満面の笑みだ。

「僕はいいけど、高木さんは?」

返事がない。

「ん?」

「あっ、ごめん桜に見とれちゃってた」彼女の瞳には涙が光っていた。

「泣いてるの?」

「んー、全然泣いてないよ!」

嘘だ。僕には涙が見えた。

「で、なんだっけ?」彼女は目を擦りながら聞いた。

「あのー、俺も図書館で勉強に参加したいなぁと」申し訳なさそうに圭人が言った。

「同じクラスの森本くんだよね!いいよ!いこー!」いつもより元気に振舞っているようだ。

あっ、昔に同じようなことあった。

幼稚園くらいの頃、僕には桜が好きな幼なじみがいた。その子は何故か、1度桜を見て泣いた、それを見て僕は子供ながらに愛おしいに近い感情を抱いた。その子が初恋の女の子。その子は、小学校に上がる時に転校してしまった。そう言えば、彼女のお父さんが亡くなったとかで…

「…くん?たけるくん?」

「あっ、はい!」

「何してるの?置いて行っちゃうよー!」

「どうかしたの?」圭人が心配そうな顔で尋ねてきた。

「大丈夫、大丈夫、ちょっと昔のこと思い出しててね」久しぶりに彼女のことを思い出した。昔はよく夢にまで出てきたけど最近は、ほとんどない。悲しいけど少しづつ思い出は消えていくのかな…

図書館は、人が少なく閑散としていた。

「高木さん、ここ分かる?」

「あ、ここはこうやって…」

頭に入ってこない。昔の幼なじみ…そんなに経ってないはずなのに、はっきりとは思い出せない。

「たけるくん、学んでるかい?」笑顔で覗き込みながら尋ねてきた。

「え、まぁ。」笑顔で返す。

図書館では、昔の幼馴染が頭から離れずあまり集中なかった。

なんか、今日疲れたな。そう思いベットに倒れこむ。

ベットの上で、昔の幼なじみについて考えてるといつもの間にか眠っていた。

翌朝、アラームが鳴る。目を開けるといつも以上に眩しい朝の太陽の光がカーテンから溢れだしている。いつもより深く眠れた気がする。

朝食のトーストを食べ、制服に着替える。

雲ひとつない青空の下、僕は学校に向かうそして、教室に着くと彼女はいつものように僕の元へ走って来た。

「おはよ!たけるくん!昨日、楽しくなさそうだったけど…大丈夫?」

「違うよ。ちょっと、昔の幼なじみを思い出して考えていたんだ」

「ふーん、私にも幼なじみいたなぁー」

「おはよ!」圭人だ。

「あ、そうだ!二人とも仲良いけどクラス同じになる前からの友達?」

「そ…」

「ななちゃーん!」クラスの女子の声が被った。

「はーい!ちょっと、行ってくるね」

「行っちゃったね。で、どうなの?」

「違うよ。今年クラスが同じになってから何故かいきなり話しかけるようになって…」けどなんで、僕だったんだろ。まぁ、彼女のおかげで最近は、まだ学校に来る理由ができたけど…

「たけるくんと、付き合ってるのか友達に聞かれちゃったよー」

「つい、うんって言っちゃった」

「え?なんでよ!」飲みかけていたお茶を吐き出しそうになり、彼女の発言にいつも以上に反応してしまった。

「冗談じゃんかー、もー」

「二人ともお似合いと思うけどなー」けいとが、からかいながら言った。

もちろん僕はそうは思わない。

「あ、そろそろ授業だよ!次は、ホームルームだね」高木さんが席に戻っていく。

言ったそばから先生が来た。

「授業始めるぞー、今日は志望大学について考えてもらう。」

そこからの50分間、最近の僕の生活の変化を考えた。この3年生が始まってからの2ヶ月間良く考えれば高木さんがずっと一緒にいる気がする。けど、なんで高木さんは僕と仲良くしてくれるのだろう。

「たけるくん!」

「はっ、はい!」

「そう言えば連絡先交換してなかったね!交換しようよ」

僕は、一瞬驚いた。連絡先交換を彼女に言われると思っていなかった。

いつも誘われる時は学校で突然にだった。

この日を境に夜に彼女からメールが来るようになった。

その夜、久々に携帯が鳴った。

"やぁ、たけるくん勉強頑張ってるかい?そう言えば志望校同じだったよね!

あ、あと明日も図書館に勉強しに行くよ!"

彼女からのメールだった。

"高木さん登録しといたよ。勉強は…してなかったかな。どうして僕の志望校知ってるの?図書館また行くの?いいけど。"

彼女との2回目の図書館だ。1回目は少し面倒だったけど、2回目はそんなことは無かった。むしろ、少し楽しみだった。

"返ってきたー!えっとー、ちょっと君の志望校を提出した紙から盗み見しちゃった。ごめんねー"

今日のホームルームで提出した志望校に関するプリントのことだ。

"いや、大丈夫だけど、高木さんの志望校はどこなの?"

"同じだよたけるくんと。今日はもう寝るね!また明日学校でねー"

彼女はいつも自由だ。でも、それが彼女だ。

それが、彼女のいい所だと僕は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る