俯瞰する
一枚の大きな絵を少しずつ見せてゆき、ある時点で突然全体の意味が分かる、というようなタイプの作品があります。意味が分かった瞬間、作品全体を俯瞰しているような気分になるため「俯瞰する」という名称にしてみました。が、実際にはストーリーの「面白さ」を何も持っていない作品をここに分類するために作ったカテゴリです。
ストーリーの「面白さ」の定義は「人(に類するもの)が困難なことをする」です。これが明確に見つからないものが「俯瞰する」に分類される作品となります。決してつまらない作品のことを指しているわけではありません。むしろストーリーの「面白さ」で享受者を引っ張れない分、キャラのセリフ・哲学やシチュエーションの面白さを磨く必要があります。
「俯瞰する」をメインとする作品によく見られる特徴は以下の通りです。
・主人公のやりたいことがはっきりしない・迷っている
・主人公がアクのあるキャラや特殊な状況に振り回される
・仕事・家事など、主人公にとってそれほど困難を伴わないことをやり続ける
・因果関係のはっきりしないイベントの羅列
もちろん最初から最後まで上記の状態のまま、なんの変化もないなら、単なる失敗作です。どこかで制作者の伝えたいことをきちんと示す必要があります。そしてそれは享受者をあっと言わせるようなものでなくてはなりません。それが何であるか、またどうやって伝えているかについて考察したいと思います(新しい方法が見つかり次第、随時追記してゆく予定です)。
1. 視点・記憶に関する謎。主人公が見ている・把握している現実は虚構かもしれない。では真実は何か、ということを主題にする方法です。叙述トリックはこのためにあるようなものです。主人公に対する他のキャラのリアクションにわずかな違和感を仕込んで、何か変だな、と思わせるテクニックがよく使われます。違和感を隠すならもっと大きな違和感の中へ、ということで、サブキャラや状況の設定を現実から大きくかけ離れたものにするといいでしょう。例えば精神異常者、犯罪組織、オカルトなど。使用例としては「シックスセンス」や「ファイトクラブ」(こちらは終盤「敵を倒す」に変化します)などが挙げられます。
2. 大きな対立軸。コントロールできないような大きな思惑や陰謀などが主人公の周囲に渦巻いていて、それに否応なしに巻き込まれてゆく、という趣向です。対立軸全体がはっきりと見えたとき、はじめて主人公は自らの立場を決めることができ、自分の行動を自らの意志で決定できるようになります。宗教的・倫理的な対立など、どちらがより正しいか、簡単に決めることができないものを使えば、享受者を深く考えさせることができるでしょう。「機械仕掛けのオレンジ」(映画)などがこれに当てはまります。
3. 別々の物語が一つのイベントに収束する。いろいろな境遇の人の物語が、ある一つの出来事に収束すると、なぜか俯瞰するような感覚になります。例えば米国の同時多発テロや日本の東日本大震災を扱ったドキュメンタリー。四日後に迫った令和への改元もそんなイベントの一つになり得るでしょう。使用例としては「マグノリア」などがあります。
全編にわたって「俯瞰する」のみの作品は多くありません。どうしても一発ネタっぽい印象を与えがちなので、謎や主人公の立ち位置がはっきりした後は、別の「面白さ」に移行すべきです。
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