受け入れる
受け入れがたいことを受け入れることです。
●コンセプト
異質な社会を受け入れる(平成狸合戦ぽんぽこ)
敗戦を受け入れる(この世界の片隅に)
●考察
「面白さ」について特に考えず、ただイベントを並べてゆくと、これに似たものになりやすいです。文筆家は内向的な性格の人が多いので、このやり方で作品を作ると、自然に私小説ができます。良い私小説は単なるイベントの羅列ではなく、身につまされる作品が多いですが、ストーリー的にはどうしても平板で、盛り上がりに欠けるものになりがちです。筆者は「火垂るの墓」(アニメ映画)は私小説だと思います。この作品で一番盛り上がるのは蛍が蚊帳の中で舞うシーンでしょう。しかしこのシーンはストーリーを動かすものではありません。
まず主人公にとって受け入れがたいものを設定する必要があります。次にそれを繰り返し突きつけられるが、解決できない、という状況を描きます。解決できる場合はこの「面白さ」からは離れてしまいます。そして最終的に「何か」が起き、主人公はそれを受け入れることを選択するのです。この「何か」を考えるのがとても難しい。
失敗例を挙げましょう。「新世紀エヴァンゲリオン」(TV版)です。主人公は最初、自分の父親や、父親に関するものが受け入れられません。しかし、物語の最後で彼が受け入れたものは、「現実の受け取り方に正解はない」ということです。作中ずっと父親との確執を中心に描いているのに、最後の二話で問題を微妙に変えてしまい、当時の視聴者を混乱させました。監督の代わりにどうしたら良かったのか考えてみれば、これがどれほど難しいか、よく分かると思います。例えば、「物語は10年後に飛び、ヒロインと結婚し、父親になった主人公は、そうなって初めて自分の父親の心境を理解するのだった」。これでは当たり前すぎて、つまらないですよね。
この「面白さ」では対立や葛藤に翻弄される主人公を描く一方で、最後に鮮やかなどんでん返しをきめてネガティブをポジティブにひっくり返さなくてはいけないのです。
主人公は最善を尽くさなくてはならない、ということにも注意しましょう。やれることがあるのにそれをやらず、最後に悪い結果を受け入れざるを得なくなるのは、自業自得と思われてしまいます。ただし実力が足りず、失敗するのはOKです。「火垂るの墓」(アニメ映画)はこの点をよく批判されます。主人公は○○すべきだったのにやらなかった、という意見をTVタレントとかが述べていますね。私小説だと考えれば、その結末はただそうなった、というだけです。最適化されていない人生はけしからん、と批判するのは的外れでしょう。(アニメで私小説をやるのはどうなの? というのはまた別の問題)
この「面白さ」を採用した作品で、筆者が知る中で一番完成度が高い作品は「平成狸合戦ぽんぽこ」だと思います。人間に縄張りを脅かされた狸たちは、人間を追い払うために、ありとあらゆる手段を試しますが、ことごとく失敗します。最後の手段である、百鬼夜行ごっこも効果がなく、絶望した彼らは自分が見るためだけに豊かな自然に化けるのです。それが人間の心を動かし、わずかな自然が守られる一方、彼らは人間社会に順応することを受け入れます。
狸たちは極めてロジカルに戦略を練り、実行に移します。それがすべて失敗したとき、彼らは論理を捨てて感情に従って行動することを、ごく自然に行うのです。この転換が上で述べた「何か」に当たります。
最近の作品では「この世界の片隅に」(アニメ映画)が挙げられるでしょう。主人公一家は戦争によって大事なものを次々と失い、原爆投下と敗戦を受け入れざるを得なくなります。しかし被爆孤児をひきとることによって、家族の団らんだけはかろうじて守り抜くことに成功しました。この作品の場合は葛藤がやや不足しているのが惜しいところです。主人公が畑で泣くシーンにすべての葛藤をこめたのかもしれませんが、筆者は少し唐突な印象を受けました。「こんなに泣くほど悩んでいたっけ?」という風に。
この作品における「何か」は語られません。何らかの共感に似た感情だと個人的には思いますが、それを伝えるのは孤児に出会ったときの主人公の「演技」(絵と声)に委ねられています。小説ではこういう表現は難しいかもしれません。
この「面白さ」は「和解させる」や「やり過ごす」と相性がいいです。この二つから発想してゆくのもいいかもしれません。「面白さ」について深く考えない場合にこれになりやすいのに、最も表現するのが難しい「面白さ」。一種の罠に近いと思います。最初からこれに挑戦する必要はないでしょう。
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