シン・ゴジラ 「やりすごす」

 今回初めて観ましたが、顔に集中砲火を浴びてしかめっ面(のように見える)をしているゴジラ、とてもかわいいですね。ビルの下敷きになる姿もかわいい。


●プロット概要

1. 東京湾に正体不明の生物が現れ、東京に上陸を始める。想定外の出来事に政府は対応が遅れる。自衛隊が出動するが、避難が完了していなかったため、総理は攻撃を中止する。生物は身体を変化(進化)させ、東京湾に戻る。


2. 政府は「ゴジラ」と名付けられた生物への対応を開始する。観察により、体内で未知の核分裂反応が起こっていることが分かる。米国からの情報により、失踪した日本のある教授が残した研究によって、核分裂反応を止めればゴジラを倒せるかもしれないことが示される。


3. ゴジラは今度は鎌倉から上陸し東京に向かう。自衛隊が攻撃するが効果はなく、米空軍の攻撃により多少の効果はあったものの撃墜され、市街地も大きな損害を受ける。エネルギーを使い果たしたゴジラはその場で休眠状態に入る。


4. ゴジラは進化を続けていることが分かり、被害が他の国にも及ぶ危険性が指摘されたため、国連で核攻撃が提案される。ゴジラの休眠状態が解けると想定される15日後が攻撃予定日に設定され、政府はこの決定を受け入れる。


5. 教授が残した謎が解け、核分裂停止の方法が確立される。


6. 東京への核攻撃を容認するか、確証のない核分裂停止作戦を決行するか、政府は決断を迫られる。主要人物はそれぞれの思いを吐露し、核分裂停止作戦を遂行することに賭ける。


7. 作戦は成功し、ゴジラはその場で凍結状態になった。核攻撃開始までのリミットは一時間を切っていた。


●「やりすごす」

 「やりすごす」はできることはすべてやって、最後に首の皮一枚で最悪の事態を免れるということが重要なので、考えられる選択肢をすべて提示する必要があります。1では静観する、駆除する、捕獲する、海に追い返す、の四つの選択肢が示されますが、ゴジラが上陸を始めたため、駆除が選択されます。他の選択肢は無理そうなのが映像によって示されます。


 2では核分裂停止の選択肢が示され、3で通常兵器が効果がなかったため、4で核攻撃の選択肢が示されます。以降、どちらを選択するか、ということが焦点になりますが、核攻撃は日本人にとっては受け入れられないものなので、事実上選択肢にはなり得ません。核攻撃は日本政府がなすすべがなくなった場合に否応なく訪れる、タイムリミットの役割を果たします。この時点でゴジラに加え、核攻撃も「やりすごす」対象になりました。


 次にトリアージの変化について考察しましょう。何を守り、何を捨てるかを決断する、というのはこの「面白さ」の重要な要素です。またこの作品のテーマの一つでもあると思います。1では「総理、ご決断を」というセリフが繰り返し述べられ、テーマを強調しています。

 逃げ遅れた一人の老人とその背の老婆を巻き込むことをためらい、攻撃を中止(1)。都心への核攻撃と逃げ遅れた住民の被害を受け入れるように迫られ、政府は葛藤しながらも受け入れる(4)。多大な犠牲を払う核攻撃ではなく、東京を守ることができる作戦にすべてを賭けることを、主要人物それぞれが覚悟を固める(6)。執行者に被害が出ることを承知の上で作戦を決行(7)。このように、決断できない政府から決断できる政府への成長が描かれています。


 脅威を排除するにはどうしたらよいか、という謎解き要素(「知識を得る」の要素)も重要です。これは失踪した教授と彼が残した研究によってもたらされます(2)。5では彼の「決断できない日本」に対する憎しみと、それでもヒントは残すという愛国心、あるいは次世代への挑戦が明かされ、謎解きは完了します。彼の愛憎感情は虐げられたものの側からテーマを補強しています。


 危機に直面した住民の反応はあまり掘り下げられてはいません。首脳部の、核にすがるか東京を守り通すか、の葛藤を描くことにすべての尺を注ぎ込んだのでしょう。限られた尺の中では妥当な判断だと思います。


 この作品では核攻撃が始まる前に作戦が成功したので、人類側には「死と再生」の要素はありません。ただし、ゴジラは凍結した状態で街の真ん中に依然存在し、また尻尾の先端に残された人間のような物体によって、ゴジラ側にはさらなる進化による復活があるかもしれないと暗示しています。

 ゴジラが作戦によって完全に駆除されていれば「敵を倒す」がメインになっていたのですが、そのまま残っているので「やりすごす」がメインになりました。


●「敵を倒す」

 和解不可能であることが「敵を倒す」の要件の一つですが、相手は言葉の通じないゴジラなので要件を満たしています。


 通常「敵を倒す」ストーリーの場合、主人公だけが敵を倒すことができるという設定が必要です。そのため、主人公に特別な力を与える存在(神、宇宙人、妖精など)を描くことが多いです。

 この作品の場合、主人公の持つ不確かな手段か、多大な犠牲を伴う核か、の二択にすることによって、特別な存在を導入する必要がなくなりました。またその力を使うことにリスクを伴わせることができ、視聴者は作戦の成否を緊迫感をもって見守ることになるのです。


●まとめ

 荒ぶる神をなだめ、お帰りいただく、というのは日本映画によくあるパターン(「もののけ姫」とかもそれですね)なので、ゴジラも海に帰るのだと思って見ていましたが、凍り付いたままその場に残るというのは新鮮でした。

 敵を倒す方法が複数ある(そのうち一つを除いて他は受け入れがたいもの)という設定は自作に活かしたくなる良いアイディアですね。

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