スピードレーサー 「勝負に勝つ」
この作品は「勝負に勝つ」を踏襲しているように見えて、実際は「敵を倒す」になっています。二兎を追った結果、どちらも中途半端になってしまいました。
●プロット概要
1. 主人公スピード(これが名前です)は兄でレーサーであるレックスを尊敬しており、自分もいつか兄と一緒に走ることを夢見て、授業に身が入りません。
2. 兄は両親の反対を押し切って、両親の運営する貧乏レーシングチームではなく、他のレーシングチームに加入します。それ以降彼は卑怯なやり方で走るようになり、家族を悲しませます。あるラリーに参加したレックスは事故により行方不明になりました。
3. それにもかかわらずスピードは兄を追いかけてレーサーになり、レースで見事に優勝します。
4. 一家の元にローヤルトンという自動車会社のオーナーが現れ、彼のレーシングチームにスピードを勧誘します。
5. 悩んだ結果、スピードは家族の絆を選び、断ります。ローヤルトンは彼が買収などでレースの結果を思い通りにできることを示し、スピードを脅します。
6. ローヤルトンのいうとおり、次のレースでスピードは他のレーサーの妨害によりリタイヤさせられ、両親のレースチームが違法の部品を使っているという噂を立てられてしまいます。
7. 落ち込むスピードたちの元に警察とXレーサーと名乗る覆面レーサーが現れ、ラリーでトゴカーンというチームを勝たせれば、リーダーのテジョからローヤルトンの悪事を暴く証拠がもらえると提案します。そのラリーはレックスが行方不明になったラリーだったので両親は反対します。
8. スピードはローヤルトンに復讐するため、両親に内緒でラリーに参加することを決心します。
9. スピードとXレーサー、また途中で駆けつけた家族が協力したことにより、トゴカーンはラリーに優勝します。トゴカーンの技術の買収を企んでいたローヤルトンは優勝により買収金額が高騰し、損をします。
10. テジョは証拠を持っていると嘘をついてスピードたちを利用していたことが分かります。しかしテジョの妹ハルコ(?)がスピードを訪ね、レースに参加できる招待状を渡します。
11. スピードはレースでローヤルトンのレーサーを振り切り、優勝します。レース中、ローヤルトンのレーサーが違法な部品を使用していることがわかり、ローヤルトンは逮捕されました。
●「勝負に勝つ」
スピードが初優勝を飾るまで(3)までは、「勝負に勝つ」に忠実にストーリーが展開します。憧れの兄を追いかけてレーサーになり、卑怯な走り方をするようになった兄と戦い、勝利する。という筋書きを想像させる内容ですが、結局最後まで兄との直接対決はなく、せっかく「勝負に勝つ」のお膳立てをしたのに、活かされずに放置されました。
ルールを無視するものを、ルールをきっちり守りながら倒す、という要素は「勝負に勝つ」にはよくあるのですが、普通は前座の戦いであって、メインにはなりません。しかしこの作品ではなぜかメインになってしまいました。しかもレーサーVS.八百長を行う敵のオーナーとなってしまい、戦う相手がかみ合っていません。直接やり合うことが不可能なため、勝利した実感がありません。
スピードは初レース(3)から才能を発揮し、優勝していたので、11のレースで優勝しても、成長を感じることはできませんでした。
9のラリーや11のレースでは、車体で相手に体当たりして崖から突き落としたり、武器を使って車を叩き潰すなど、ルール無用になってしまいました。ルールがなければ、その中で機転を利かせて勝利する快感は得られません。「勝負に勝つ」は成り立たなくなり、中盤以降は「敵を倒す」に変化したようです。
●「敵を倒す」
それでは「敵を倒す」は成立したのでしょうか。結果からいうと、うまくいきませんでした。「敵を倒す」ためには相手がいかに酷い奴で、倒されることによって報いを受けたことをしっかり描写しないといけませんが、両方とも不十分だったからです。
まずは主敵のローヤルトンです。スピードにチーム入りを断られたことが動機で彼を狙うようになりますが、動機として弱すぎです。これではローヤルトンがとんでもなく小物に見えてしまいます。
6でローヤルトンはレースを妨害したり、両親のチームを中傷したりしますが、別にスピードにけがを負わせたり、両親のチームを廃業に追い込んだりしたわけではありません。ローヤルトンへの復讐を誓うには、主人公側の動機も弱すぎです。兄の堕落や事故に関与していた、とすれば十分復讐の理由になるはずなのに、なぜそうしなかったのか分かりません。
9および11で、スピードの活躍によってローヤルトンは金銭的・信用的なダメージを受けるのですが、間接的なダメージなので敵を倒す爽快感がありません。これは「勝負に勝つ」でも書いたように、戦う相手がかみ合っていないことが原因です。
レース中、スピードの妨害をする他のレーサーについては、彼らにスピードに対する直接の怨恨はありません。オーナーの意向だったり私利私欲で邪魔しに来るだけです。
10でテジョがスピードたちをだましていたことが分かります。ハルコは兄にお灸を据えてほしいとスピードに招待券を渡すのですが、最後までテジョがどうお灸を据えられたのか分からずじまいでした。
以上より、「敵を倒す」ための因も果も描写が不十分であることが分かります。
●「知識を得る」
この作品の最大の謎は、なぜ兄が卑怯な手を使うようになったのか、なのですが、これは最後まで明かされません。おそらくローヤルトンか他のオーナーの「手先」になったのでしょうが、それまで立派な人物に描かれていたので、なぜスピードのように抵抗しなかったのかは分からないままです。
もう一つはの謎はXレーサーの正体です。ラリーで一緒に走るなかで、スピードはXレーサーが兄であると確信しますが、覆面を取ったXレーサーの顔は兄のものではありませんでした。彼が整形していることが、最後に大急ぎで視聴者だけに明かされますが、これは意図不明です。続編までスピードに知らせずに謎を引き延ばしたいなら視聴者にも明かす必要はないし、そうでないならスピードに隠し続ける理由もないからです。
●まとめ
途中まではオーソドックスな筋でしたが、CGとか斬新なカットの演出に気をとられすぎてストーリーがおろそかになってしまったのでしょうか? なぜすべてが中途半端になってしまったのか、知る方法はありません。
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