知識を得る

 隠された真実や詳細を知ることです。


●コンセプト


 昔の人が残した謎を解き明かす。(ダ・ヴィンチ・コード、インディアナ・ジョーンズ、古代文明もの)


 いろいろな場所を旅して、知識を得る。(ロードムービーもの)


 真犯人や動機を暴く。(探偵もの)


 タイムリミットまでに正解を見つける。(スピード、時限爆弾解除もの)


●考察

 知識を得る楽しみは読書の楽しみの根幹ですが、ストーリーの「面白さ」につながるものと、そうではないものがあることに注意しないといけません。キャラの掘り下げや情景描写、心理描写は読んで楽しい、小説の本質の一部ですらありますが、ストーリーの「面白さ」という骨子があって、はじめてそれらが生きるのです。


 私小説というジャンルがあります。これはキャラの掘り下げにすべてを注ぎ込んだ小説です。人の日記を盗み読むような楽しみがありますが、ストーリーの「面白さ」にはあまり重点を置いてはいません。それでも大きなジャンルを確立できたからには、何らかの「面白さ」が存在していると考えるべきでしょう。


 ではストーリーの「面白さ」としての「知識を得る」はどのようなものでしょうか。それは因果関係にまつわるものだと考えられます。原因と結果、そのどちらかが不明である場合、「知識を得る」という「面白さ」が発生するのです。先ほどの私小説に戻ってみると、私小説における「私」は「原因」であると考えられるでしょう。「私」が何をするのか、どうなってしまうのか、「結果」が分からないからこそ、続きを読みたいと思うのです。平凡な「私」では「結果」が推測できてしまうので、面白くありません。私小説における「私」がどんどん過激なキャラになっていった理由の一つはこれでしょう。


 因果関係について、もう少し細かく見てゆきましょう。まず「問いと種明かし」という種類があると思います。ある異常なシチュエーション、例えば人が死んでいる、という「結果」を用意しておきます。それが十分興味深いものであると読者が感じたなら、その「原因」を知るために先を読んでもらえます。推理小説はこれを洗練させたものであると言えるでしょう。「結果」に関する描写がフェアなものであれば、読者が直接推理に参加するという楽しみかたもできます。これも知識を得る楽しみの一つですが、ストーリーの「面白さ」ではないので、ここでは論じません。詳しくはミステリーの入門書を参照ください。


 次に「ほぼ平凡なシチュエーションと意外な結果」という種類があります。前述の通り、完全に平凡であると、読者は興味を失ってしまいます。従って、ほとんどすべては平凡なのに、たった一点だけおかしなことが起こった、それによって平凡な自分や社会はどうなってしまうのか、ということを描きます。これを採用している作品は石を投げれば当たるほどあります。「ドラえもん」でも「涼宮ハルヒの憂鬱」でもいくらでも思いつくでしょう。


 逆に「異常なシチュエーションと当然の結果」という種類もあります。最初にびっくりするような異常な状態を描写します。そこから論理的に、ああそうなるよね、といった「結果」を引き出し、オチとします。おおそうきたか、と思えるように一ひねり加える場合もあります。これは星新一氏の得意技ですね。氏は掌編の名手ですが、掌編を書く際、使いやすいやり方なのではないでしょうか。


 結果がとんでもないものになった場合、それにどう始末をつけるか、少しだけ気にしておくと良いでしょう。別に放り投げてしまっても構いませんが安易な方法に走ると「○○オチ」と揶揄されることもあります。爆発オチとかが有名ですね。ドリフターズのコントでは、収拾が付かなくなった場合、いかりや長介が「ダメだこりゃ」と言って無理矢理終わりにします。終わりなのでなにをしても読者が不満をため込みながら読み続けることはないのですが、どうせならオリジナリティのある終わらせ方を工夫してみてもいいかもしれません。


 いろいろ大騒ぎをしたけど、最後にはすべて水の泡になってしまう、というのが使い古されているけれども一番スマートな終わり方でしょう。ドラえもんがどんな素晴らしい道具を出しても、それによって社会が良くなったりするとかは決してない。両津勘吉がいくら大儲けをしても結局は全部失ってしまう。長期連載に都合の良い終わらせ方です。浦島太郎とか鶴の恩返しとか、日本の民話にはそういうオチを持つものがたくさんあり、それを日本人の民族性と関連付ける学説もあるそうですよ。


 小説の本質と被っているがゆえに不要なものをすべてそぎ落とした後でも残ることのできる「面白さ」です。またそれゆえに脇道にそれてしまいがちなので注意しましょう。自戒をこめて。

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