第24話 源泉探索断念と迷宮居住化実験
そうして沢に沿って遡っていった自分だったが、最終的にはあえなく断念した。
沢を遡っていけば辿り着くのだから何も問題はないだろうと思っていたのだが、問題はあった。自分が思っていたことを振り返ってみると既に答えはあったとも思える。
沢には魔力が混じっており、下流に行けば行くほど薄まるという仮説を適応すると上流、即ち源泉に行けばもっと魔力が濃く含まれているとか何とか推測していたが、それが正しいのなら、沢の水を飲んでいる魔物の強さに当てはめると上流に行けばいくほど強い魔物が出るということになる。それになぜか気づけなかった。
山を回って横切るように流れている沢をあれから少し遡っていくと、何か沢の水を飲んでいる鹿の大きさが大きくなっていた。そこでは何とも思わなかったが、もう少し遡ると、いきなりの熊。これは修行なんて言ってられないと引き返してきたのだ。その新鮮な経験と遡る前の推測をこれまた適応すると、源泉にはどんな生き物がいるのだろう。わーい。魔力回復水ゲットだぜ!的な気楽さは消えてしまった。
だが目標はできた。自らの鍛えた力で源泉に辿り着くこと。この目標はただ強さを求めるバトルジャンキーそのままの発想から来たものではない。この目標が達成されることはあいつらと戦って勝てることを意味する。勝てるようになったときはレベルも上がってスキルポイントもゲットできることだろう。あの沢をどれだけ遡れるかは自分の強さの1つの指標となる。
まぁ何というか、沢で水を飲んでいる動物たちは何の罪もなく、ただ休憩しているだけだと思うので、それに吹っかけて戦って殺すというのはずいぶん自分勝手で動物たちからしたら迷惑そのものでしかないだろうとは思うが、いちいちそんなこと考えてても得は無いし、弱肉強食の世界(勝手に決めつけた)、悪いと言われる謂れはないだろう。とは言ったものの、殺すことは無いだろう。食べられる以上に殺してももったいないし、強さが必要なのであって殺したい訳じゃない。
さっき、熊が出て逃げてしまったが猪2匹を殺した時のように殺せなかったかと自分に問うと、戦ってないので正確なことは言えないが、勝てたかもしれない。
しかし、森の中で戦うときの最善はすぐに決着をつけることだ。周囲にどんな魔物がいるか分からないし、もし、どんがん音を立てて戦ったらもっと強い魔物を引き寄せてしまう恐れがある。実際襲われて戦わないといけなくなったらそんな甘っちょろいこと言ってられないが、言ってられるときは言っていよう。
だが、殺さずに勝つって何だろう?拘束して動けなくすることか、気絶させることか。戦闘不能にさせると言ってもいろいろある。殺さないと言っても相手に一生影響が出る傷を負わせていいのだろうか。うーん。今の自分には不殺を意図的になんかできる余裕が無い。殺さないようにして自分が死んでしまっては元も子もない。あまり今は考えないようにすべきか。
よし、頭を切り換えていこう。バナナもどきも赤黒い木の実もこんだけ採れた。収穫はちゃんとあるんだ。今から何をしようか。そういえば迷宮に住むことを考えていたとき、なぜか光魔法をずっと出すことしか考えずに断念したが、自分で灯した松明で照らせばよかったじゃないか。だが煙の問題がある。何かを燃やせば煙が出るのは当然のことだ。洞窟の中で火を灯せば煙でいっぱいになってしまうかも知れない。これを解決しないと住みたくない。反対に言えばこれを解決すれば住めるんだ。考えてみよう。
至極単純、何の捻りもない答えが出た。定期的に風魔法で換気をすることにしよう。だけど寝てるときはどうしよう。寝てる間に煙で充満してしまったら怖い。寝る前に火を消せばいいという訳では無い。疲れて突然寝てしまうことだってあるんだ。それで問題の解決にはならない。夜起きて昼間寝ていればいいか。否、現実的じゃない。
答えが出ない。まだまだ考えてみよう。
ここは魔法が使える世界。なんだってできるんだという心持ちで考える。
2つ考えた。どっちでもいいが、慣れてる方からやってみよう。光魔法からのアプローチだ。水魔法では水を生み出せる。光魔法では光を生み出せる。だが、本当は水はまだしも光を球になんかできないはずなのにできている。なら、光を水のように出したままにできるのではないか。時間が経てば消耗して光は消えるが、肝心なのは直接魔力供給無しに光を存在させることだ。考えられるコツとしてはすぐ消えないようにありったけの魔力を込めること。折角だから分かりやすい迷宮の中でやってみよう。
移動したところで実践に移ろう。右手の甲に左手を重ね合わせ、自分の中の魔力を押し出して光に変えていく。小さい"光球"が出来たらそれに魔力を注いで風船を膨らませるように大きくさせていく。まだ試運転なので抑え目で止める。魔力を出すのを止めたら、"光球"を自分から切り離してみる。
できた。できたんだけど、本当に風船のようにぷかぷか浮かんでいて少しの風の影響であちこち飛んでいく。光は普通、風の影響受けないはずなのに何でだ。そもそも光は直進するものだから浮かばせることなんてできないから今更なんだが。でもこれだと光源の場所が安定しない。それでもいいっちゃいいのだが自分は安定した光源が欲しい。どうしたらいいのか。
ふふ。風船みたいなら風船みたいに止めたらいいのではと我ながら考えました。飛んでいくのならひもで飛んでいかないようにすればいい。正しくは、ひも状の魔力で"光球"と繋がっておけばいい。あくまでも常時の魔力供給はしないことによって楽ができることには変わりない。更に推測だが一応は繋がっておくことで"光球"の寿命も延びるだろう。名前もただの"光球"じゃなくて"風船光球"にしておこう。
もう1つの方法を試すための魔力は残しつつ、できる限り"光球"を膨らませるとそれに高密度の魔力を込めて"光球"を作り、それに魔力のひもをつけておく。成功だ。まぁ繋がっておけば飛んでかないし便利になった。
ではもう1つの方法を試す。使う魔法としては1回も使ったことが無い闇魔法。闇魔法って実際どんな使い道があるかどうか考えるまで分からなかったが闇を操る魔法には違いない。闇を操ると言ってもまだ分かりにくいが意味はその名のままだ。額面通り受け取るしか方法は無い。
で、受け取った結果、1つの方法を思いついた。闇を操るということは闇を広げることも、闇を縮めることもできる訳だ。闇を縮めるとどうなるか。言い換えれば、空間から闇が消えるとどうなるか。闇の反対は光。即ち、闇を縮めることは縮めた、消した部分からその反対の光が生まれることになる。つまり、闇魔法で光源を作ることができることになる。闇魔法で闇を取り除いて光源を作るという方法だ。
こう理屈は言っても、闇を広めるのは直感的に理解できるが闇を縮めるって実際どんなものか少し分かりにくかったので、実際に確かめてみる。
これもできた。だが、問題がある。闇を取り除いた空間で光が生まれたとして、その状態には魔力の消費を要することだ。簡単に言うと、魔力を消費している間は光が生まれるが、いったん魔力の消費を止めると闇がすぐにその空隙を埋めるように光源が消えてしまう。
それに付け足して問題がある。眩しすぎるんだ。まともに光魔法で作った光より眩しいとはこれ如何に。この2点から迷宮居住の際に使用する光源は"風船光球"に決まった。でもこの魔法、うーん"消闇"にも十分使い道はある。それは閃光、目眩ましだ。
光魔法よりも簡単に光度が出せ、使ってから光るのも光魔法より速い。もっと光魔法を鍛えれば遜色なくなるようになると思うが前からちょくちょく使ってた光魔法よりも今初めて使った闇魔法の"消闇"の方が速いことからも闇魔法の方が目くらましに使いやすいだろう。
実験も終わって迷宮居住の難点を解決したところで鍋やらなんやら一切合切を迷宮のあの場所に運び込もう。いやー身体強化様々だ。魔力節約の一環としてさっきの"風船光球"に溜めた魔力は回収したから魔力量がカラッカラではないからできたことだ。節約大事。
そうして、今日から自分は迷宮内に住むことになった。
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