第22話 サンプル検査
起きて、いの一番に仰向けのまま両腕を真横に伸ばし掌を地面につけて"風防殻"をパカっと開けて外に出る。そして、辺りを見渡してふと目に留まったのは燻製器。
(何か買って結局使わないフードプロセッサーみたいだ。)
燻製しようとがんばって作ってはみたものの、手順をほとんど知らない、ルールを全然知らないままやった燻製がそこまで美味しくないし、手間もかかるし多分この燻製器、出番は当分ないと思われる。
折角自分の手で時間をかけて作った燻製器、どうにか有効活用しないといけないと頭を働かせていると、一応転がらないようにしているのでおむすびころりんのようにいきなり不意に失くすことは無いと思うが、野晒しの迷宮核が目に入る。
うん、迷宮核入れにしよう!と一番下の段を引き出して、煙を出すために燃やした木の枝、その成れの果てを裏返して底を叩いて落とす。最後は風魔法で飛ばすと灰が舞うので水魔法で洗い流す。洗い流した後はそこにこれまた水魔法で迷宮核だと思っている黒い球の表面の土を水で流して、自分の服できゅっきゅと磨く。満足したところで引き出しの中に入れ、引き出しを仕舞う。
仕舞って思うに、この燻製器、もうタンスとしてしか使わないなと悟ってしまったのでそれならばこの燻製器を完全にタンスに改造してしまおうと思い至ったところで、そういえば朝ごはんも食べないといけないし、青い葉の木の魔力入りの水を提供して会話もしたいし、何よりサンプル検査もしないといけないし、スキルポイント上げる為に戦わなければならないしこんなタンスづくりしてる場合じゃないだろうと自分に突っ込むと、また違う自分が、そんな戦ってばかりなんてやってられないし、娯楽も必要だし、文化的生活を送りたいし、その為には何かを作ることは重要なことだろう、こんなことしてる場合じゃないなんて言うなと脳内で反論する。
とはいえ、優先順位はあるだろう。どれもかしこも同時にできるマルチタスク人間では自分はない。第一どんな人間だって戦いながらタンスは作れないだろう。今真っ先にする事はサンプル調査・・・ではなく、朝ごはんだ。
もはや、おいしいとかよりは食べないといけないという気持ちで肉に喰らいつく。食べ終わった後は口内"清浄"し、青い葉の木の根元に魔力混合水を注ぎ、魔力で木とつながり、温かい気持ちを送りあう。その後は拾った木の枝1つを地面に突き刺して、1日を刻む。日課は終わりだ。
これで、いよいよサンプル調査だ。S字状にくねったバナナのようなクリーム色の果物、立方状の紺色の弾力が凄い果物、赤黒い色の木の実、黒い色の木の実、薄いエメラルド色の木の実とルビーのような色をした木の実、そして赤く、白い斑点がある長い傘のこれまたスタンダードなキノコ、あとは7つの草、これら1つ1つを検査していこう。どれも毒があるかもしれないから手に魔素を嵌めて確かめていく。肌に触れるだけで荒れるキノコがあるくらいだから肌にこするのはやめておこう。
まず、匂いを嗅ぐ。これ、何かツンとした匂いがした気がする。赤黒い木の実はここではじいておこう。
それでは希釈をしよう。最初に希釈する為のコップを作る。鍋みたいに最初からこねて作るのではなく土魔法である程度形作り、せめて倒れないように底を平らにしてコップを作る。
次に鍋に水を注ぎ、鍋自体を加熱しながら加熱した石を入れて水を沸騰させてそこに草を一つ入れ色が染まった所でその鍋からちょびっとコップに数滴すくって、そのコップに水を新たに注ぎその水をちょびっと飲む。うん。味もしないしなんともない。ステータスを確認し、状態の欄や他の欄もくまなく確認する。異常なし。コップの水をもっと飲んでもう1回確認するが異常なし。水を捨てて鍋を"清浄"してもう一回水を入れたところで、よし、次だ。
3つ目の猫じゃらしのような草の希釈水を飲んでステータスを確認する。状態に異常はなかった。もっと水を飲むが大丈夫。またまた、次々!
5つ目の黒い草の希釈した水を飲んだとき、何か舌に刺激が乗った。少し痛かった。希釈しているのに刺激があるということはこれは毒があるということではないか。ステータスを確認する。おぉ、微毒になっている。よし、はっきりとこいつに毒があることが分かった。こいつの取り扱いには気をつけなければ。毒だからと言って即捨てるわけじゃない。自分の毒耐性を上げることにも使えるし武器としても使える。毒があるかないかが分かればそれでいい。無闇に食べなければいいだけだ。また新しい"風防殻"を作りそこに黒い草とを入れる。
他の草に毒はなかったのでもともと入れていた"風防殻"に入れ直す。では次は木の実といこうか。
赤黒い木の実。これは先程の匂いではじいたが、どれだけの毒の強さか分かっていない。確かめておこうとコップの希釈した水を飲む。何かとても遠いが少し辛い。これは毒だろうか。すぐにあのときの微毒は抜けていたので毒の有無を判断できる状態のステータスを確認してみると状態の欄は正常となっていた。辛いのに毒はない?これは調味料として使えるかもしれない。更に辛い木の実と言えば香辛料の名が浮かぶ自分にとってはこれは肉を腐らせない防腐剤として使えるかも知れないとも思ったが、今、肉はカチンコチンに凍らせているので効果があるかどうかは分からないが使えるものはできるだけあったほうがいい。他の奴とは分けて元燻製器さんの横に置いておく。
他の木の実も確かめようとは思ったが、今はここでやめておく。理由は至極シンプルだ。水を出すのが疲れたのと、水を飲みすぎたことだ。毎回水魔法で水を出すもんだからだんだん疲れてくるし、何より毎回水を飲むからおなかがもうタプタプでこれ以上はしんどい。近くに掘っている穴でお花を摘んだ後、今はこれでいったん終わりにしようと決めた。
それに、サンプル検査という危険があるかもしれない行為。正直億劫だったがやり始めると集中してしまっていたせいで、もうやめようと決めたら少し疲れが出てきたのが決定打になった。もう昼だが、水を飲んだせいか腹は空いていないので少し整理した後、ひと眠りすることにした。
起きてみるともう日が傾いてきている。さすがにお腹が空いてきたので、先程の辛い木の実を少しまぶした肉を食べる。中々ピリッと刺激が強くておいしい。だが肉ばっかり食べてるから、血液どろどろかな。早くバランスのいい食生活がしたいところだ。
食べ終わった後、サンプル検査の続きをする。魔力量もある程度は回復しているし、お腹ももう大丈夫だ。後残っているのは、木の実3つと果物2つだ。キノコはもう観賞用でいいだろうか。なんか赤くて白い斑点ってもう毒キノコにしか見えない。いくら希釈しているとはいえあからさまに毒キノコの汁を飲む気になれない。
そのことは後回しにして今は木の実を調べよう。黒い木の実も嬉しいことに赤黒い木の実と同じように希釈液が少し辛く、ステータスにも異常はないことから調味料認定された。これまた1つかじってみると赤黒い木の実とは少し辛みが違う感じがして面白い。こうしてバリエーションが増えていけばいいなと希望を持ちながら次に薄いエメラルド色の木の実を調べてみるととても苦く、1粒くらいでは毒ではないが大量に食べるとれっきとした毒な感じがするので、これも黒い草を入れている"風防殻"に入れておく。毒として使うというよりか、また思い出す時に実物があったらいいかなという思いと苦すぎてもう食べたくないのでここに入れた。苦かったー。
ルビー色の木の実は希釈の結果、毒はなかったので食べてみると少し酸っぱいが毒は無いので酸味としてこれも調味料に使える気がする。
木の実の検査はこれにて終了した。果物2つ、これさえ終わればサンプル検査は終了だ。先にS字状の果物から検査しよう。
これ、さっきバナナみたいとは言ったが本当にバナナみたいだ。バナナのように縦に裂けて皮が剥けていく。だが、中の実がこれまた白色ではなく抹茶のような色をしている。剥いた皮と実を別々に鍋に入れる。
最初は実の方だ。コップに入れた更に薄めた水を飲む。薄くなっているがなんかおいしい水だ。ステータスを確認するがやはり毒はないことが確認できた。試にかじってみると本当にうまい。見た目通りバナナみたいな味なんだがなんか少し違う。バナナより、まずいというよりかうまい。だが何が違うんだろう。考えると肉も普通の肉よりおいしかったことを思い出す。3分の1ほど食ってみてステータスを確認していると魔力量が少しだが増えていることに気づく。この実には魔力が含まれているのかも知れない。食べると魔力量が回復するってことはつまり、魔力回復したいときに摂取すれば、少しは回復させられることになる。さらに肉と違って携帯もしやすい。携行食材に認定しよう。
しかし、皮はまだ検査していない。今度は皮だ。皮の希釈水を飲む。うわっ、口が少し痺れた。これは毒か?ステータスを見ると麻痺毒となっている。ほほう、実はおいしいけど覆っている皮が毒なのか。ということは、この皮をむく知能か本能がある奴だけが食べられるのか。だから自分でも採ることができたのかもしれない。麻痺毒。触っただけでなるのかどうかは分からないため、一部魔素を解除して触ってみると手が痛い。おぉ、皮そのものか表面だけが毒があるのか。さっき皮に触れていた実を食べて全く毒を感じられなかったということは・・・予想的中。皮の内側は触っても痛くない。即ち、表面だけに毒があるのだろう。持つときは魔素を纏うのは必須だな。
最後のトリとして、キューブ状の青い果物?を検査する。果物と言ったら曲線のイメージがあるが、これはまるっきりサイコロだ。四角い果物と言えば、枠に入れて育てられたすいかやトマトを思い出すが、こいつはそんなに枠にはまっていなかった。自然に四角く育つって不思議な気もするが、育ってんだから仕方がない。こいつはそう育つという生態をしているだけと言えばだけなんだ。
そんなことを考えつつ、もう慣れた湯沸しをし、そこにゆっくりと最後の果物を入れる。投げ入れると当然熱い飛沫が飛ぶからだ。うぉぉ、水がどんどん青く染まっていく。これなんか染めるのに使えそう。染めるものないけど。
最後の希釈水を飲む。今日は何か水ばっかり飲んでるなぁ。少し飲んだところ、薄いがとてもまずい。なんか飲むものじゃない気がする。ステータス表示を見てみると満腹となっている。うん、毒は無いのかもしれないが自分としてはまずさも毒の1種だと思う。これも黒い草と同じところに入れておく。最後に片付けをしてこれにて第1次サンプル検査終了だ。口内"清浄"して、精霊語で青い葉の木にお休みという気持ちで話しかけた後、寝る場所を整えて"風防殻"を作って、そういえば沢調べられなかったなと思いながら
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