第14話 自分しか知らない誕生日と精霊樹

 筋肉痛からの痛みから逃れるために横になり、黒い迷宮核を手で掲げながら今までを振り返る。


 日の光が微かに入る薄暗い洞窟みたいな迷宮に生まれ、ステータスがあることにはしゃぎ、外に出てみて初めて魔法も使って疲れて寝て、起きたら未知の脅威に怯えて迷宮に引きこもり、食糧が完全に無くなって迷宮の奥を探索するも魔物は全くおらず黒い球1つが謎の存在感を放ちながら置いてあるのを拾って帰り、もう一度外に出ると謎の青い木が立っていて、採集に出ると大鷹に遭遇し必死に逃げ帰り、反省して敵に合わないように魔素を纏う特訓をして、夜更かししながら身体変魔と魔力の操作の開発をして、起きて2匹の猪の命を奪い、レベルアップを初めて経験して今に至る。結構長々と連ねたがこれがたった5日の出来事だ。今振り返ったから生まれてから何日か分かったが、もう少したっていたら今が生まれて何日かさえ分からなくなっていた。別に誕生日なんかどうでもいいかもしれない。自分の誕生日なんて他人からしたらどうでもいいのかもしれないが、自分にとってはステータスには載っていないかけがえのない情報だ。大事にしよう。まぁ、ステータスに年齢は書いてあるから毎日ステータスを確認して数字が変わる時を待てば誕生日が分かることはできるがそんなに気が長いことはしたくない。今日から毎日木の枝を埋めて印としよう。


 食後なのでもう一度口の中を"清浄"した後、もう一つの日課を繰り返すために立ち上がる。右手から魔力を触手の様に出し、青い葉の木の根元に触れて水に変えようとする。その時に知らない感覚を感じる。


 暖かい。何か暖かくほんわかとした気持ちになる。これは何だろう。もう一度触れる。やっぱり暖かい。何か独りのどこか無理をしていた心をほぐしてくれるみたいだ。更にもう1回青い葉の木に魔力の触手で触れてみて確信する。この木から暖かさを感じる。別に熱を感じるという訳でもない。何だろう。この暖かさは。魔力を元に戻す。木の前で座り込んでなんで熱くなるかを考える。思考の渦と集中の相乗効果で答えは出るだろうか。


 まず、あれは実際の熱ではない。じゃああの熱は何だ。違う感覚だ。この魔力の触手を元に戻した時も手に熱さは感じなかった。ただ熱いというよりかは抱きしめてくれるような、日向ぼっこで日の光を浴びているような感覚。感覚、感覚って何が暖かくなったんだ。心だ。心だけだ。心だけ?木に魔力で触れたら心が暖かくって。さっきとは違い、魔力隠蔽をして手から魔力を極力抜いた状態で木に触る。何も感じなかった。ただ木の感触が手に伝わる。ということは魔力を通して木から心に暖かさが伝わる。優しい暖かさ。優しい・・・ステータスと即座に口を動かす。


 自分が持っているスキルの説明を開き、心当たりがあるところを見る。



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 精霊語  :魔力を飛ばすなどして通じさせて感情を伝える精霊の能力が手に入

       れられる。感情を伝え合うとレベルが上がる。


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 これだ。これだということは、この木は精霊?精霊が宿っているのだろうか。そもそもアニミズムみたいな考え方を仮定するならば、この大地にもそこらの木々、草花にもすべて宿っていることになるがどうなんだろうか。地面に魔力を出した両手で触れてじっと聴く。何かこれも木ほどではないがほんの少し暖かい感じがする。それじゃあと近い木に手を触れて魔力を流しじっと感じる。ほとんど分からない。けどただ、魔力なしで手で触れるときとは何か違うような気もする。青い葉の木の下に戻り、もう一度魔力を機に伸ばす。強く感じる。やっぱり暖かい。やはりこの木には確然と精霊が宿っている。大地や他の場所も精霊はいるのかもしれないがこれは別格だ。否、もしかしたら大地にもしっかりとした精霊はいるのかもしれないが少なくとも暖かい感情を送ってくれたのはこの木だけだ。精霊語のスキルを信じて魔力に暖かい語りかけてきてくれた感謝の気持ちを乗せたつもりで魔力を木に伸ばす。あぁ、返ってきた。自分が魔力を通して伝えた感情を受けて脈動の様にドクンと返事をしてくれた。なんか穏やかな気分だ。今日は狩りの事や他のことを何も考えていないから本当にリラックスできる。あっそうそう、忘れないように今日は気分大目で魔力と水を地面に振り掛ける。この世界で生きて初めて他者と会話ができた。嬉しい。ステータスを確認すると精霊語が一気にレベルが上がり、LV7になっていた。一番一気に上がったかもしれない。いろんな精霊に会話を試みたり、青い木の葉の精霊と会話ができたからかもしれない。これからも続けよう。


 いつの間にか筋肉痛を忘れていたようで、少し夢心地で思いっきり手を組んで頭上に腕を伸ばし、伸びをしてまた筋肉が痛くなり現実に引き戻された。もう昼だ。また肉と少しの木の実を食べよう。

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