第26話 一転攻勢
しばらく自転車を走らせること数分、鳳城の背中を見つけて並走する。
「鳳城!」
「え!?なんできよったん!?」
「あんな状況で置いてかれて待ってるほど薄情じゃねぇよ、俺も協力する」
「え、でも・・・」
「中央公園だろ、急ぐぞ」
「漸井君!」
俺は鳳城の少し前を行く形で目的地に向かった。
(中央公園なら自転車を走らせれば、5、6分で着くはずだ。けどそれは鳳城が俺と同じくらいで漕げればの話・・・)
最悪俺一人でも先に向かおうと思ったがその心配は無駄に終わり、鳳城は一定の間隔を維持して付いてきた。鳳城は美桜程の瞬発的速さは無いものの、持久力はかなりあるようだった。
殆ど予定通りに目的の中央公園に着くと、二人の姉弟を囲うように大勢の子どもがいた。公園の中には他に数人子供がいる程度で、誰もそれを止められるものはいなかった。
すると俺達の到着に二人の姉弟が気づいた。
「「笹姉!」」
「沙希!凌太!」
二人が鳳城に走って向かい、それを鳳城が向かい入れた。
するとそれを見て群れの中の一人が俺達に突っかかる。
「おい、お前ら勝手に何してんだよ!」
俺は鳳城たちに手が伸びかけていた手を間に立って阻む。
「お前らこそ何やってんだ、よってたかっていじめんなよ」
「何もしらないくせ口をだすんじゃねぇ!」
今手を掛けようとしたこいつを含めざっと7人。
(こいつら全員太一くらいか?)
「上級生に対しての口の利き方がなってないな。お前たち小学生か?」
「ばかにすんな!俺達はもう中学生だっつーの!」
(ほんとに太一くらいだったな。けどこうも初対面で高圧的だと、いくら年下といえ気持ちはよくない)
俺はどうにか冷静に大人の対応で事態の把握をする。
「そう興奮すんなよ、話聞くから訳を話せよ」
「俺らが遊んでいるときに、こいつがボール当ててきたんだ」
「だからさっきから凌太はわざとやってない言うとるやん!」
「当てたことには変わりないだろ!お前はもうすっこんでろよ!」
妹が弟を庇ってるのを見て、鳳城も参戦する。
「二人をいじめんなや!」
「まぁまぁ落ち着けお前ら」
二人の姉と中学生たちの仲裁をしつつ話を進める。
「それで、お前らはどうしたら気が済むんだ?」
「土下座しろ」
「そんなんうちが許さへん!」
「あぁ!?女は引っ込んでろ!」
「鳳城、すぐ熱くなるな」
鳳城を宥めながら話していては話がなかなか進まない。
どうしたものかと考えていると、いじめっ子のリーダーらしき少年が提案をする。
「じゃあこうしようぜ。今からドッジボールをやって、負けた方が土下座な」
「ええよ、その勝負のったるわ」
「お前・・・!何勝手に始めようとしてんだ!」
俺は再び大人の対応で仲裁をして―――
「お前も参加するなら入れてやってもいいぜ。けど、負けた時はお前も土下座だからな」
「あぁ!?」
大人の対応撤回。こいつらには一度高校生の恐ろしさを教えてやらなきゃ気が済まなかった。
いじめっ子たちは既に地面に描かれていたドッジボール会場の片側一面に入る。 どうして既に会場が出来ているか疑問だったが、聞くところによるといじめっ子たちはここにドッジボールで遊びに来ていたようだ。使うボールも鳳城の弟君の持っているボールよりしっかりしたもので、当たれば痛そうだった。
メンバーを決めるため、俺達は一度いじめっ子たちから離れたところで話す。
「えーっと凌太君と沙希ちゃんだっけ?」
「そういえば兄ちゃん誰?」
「うん、うちも気になってた」
「うっ・・・」
仕方のない反応だと言え胸に刺さるものはあった。
しかし、それをフォローするように鳳城が言う。
「そない失礼言わんと、こっちはうちのクラスメイトの漸井君な」
「笹姉の?」
「君たちが困っているって沙希ちゃんの友達が教えてくれて来たんだ」
「そうだったんや」
「喧嘩の仲裁をするつもりがそれがどうしてこうなったものか・・・あの子らも悠長に待ってくれそうにないし、俺がこの勝負参加するから3人はそこで見ていること」
「そんな!うちも出る!」
「鳳城・・・」
「だってこれはうちの問題だし!漸井君にそこまでしてもらうんは・・・」
「いいって、さっきお好み焼きごちそうになったから、これでちゃらな」
「それは太一と遊んでくれたお礼に・・・」
「ただ一緒に遊んだことに対する礼はいいよ。それにお前は二人の傍にいて安心させてやること、いいな」
「でも・・・!」
鳳城はなかなか納得してくれなった。
すると、意外なところから助け舟がでた。
「でも笹姉は投げるのあかんし、うちらと一緒にいたほうがいいかも」
「ちょっと沙希!!」
「どういうこと?」
俺が尋ねると凌太君が答えてくれた。
「笹姉は運動出来る方なのに、投げることに関してぽんこつなんや。昔太一兄とキャッチボールした時、何回やっても真上に飛ばしてヘディングしてたんやで?」
「凌太!!」
「鳳城お前・・・」
「うぅ・・・」
鳳城が一人撃沈した。
俺は三人を残してコートに行こうとすると、沙希ちゃんに止められる。
「笹姉はぽんこつだけど、うちなら手伝えると思う」
「俺なら本当に大丈夫、沙希ちゃんもゆっくり観戦してな」
「ほんまに?でもうち中三だし大丈夫やで。凌太はまだ小4で心配やけど笹姉がいれば大丈夫や」
「それでも女の子の沙希ちゃんがやるには少し危ない」
「うちが女やからって甘く見んといて!」
「沙希ちゃんが子供じゃないのは分かってる。でも今は受験生だろ?こんなくだらない勝負で利き手を突き指でもしたら、しばらく満足に勉強できなくなる。俺はこの大事な時期を無駄にするようなことはしたくないんだ」
「せやけど・・・」
「本当に大丈夫だから。沙希ちゃんもお姉ちゃんと凌太君の面倒を見ててあげな」
俺はそう言い残しコートに入る。
「話し合いはもういいのかよ!」
「あぁ十分だ、早くこんな勝負終わらせようぜ」
「あいつらはどうした?」
「中一7人、俺一人で十分なんだよ」
「なめてんじゃねぇぞ!!」
「ほんと威勢だけはいいな。俺が負けたら土下座にプラスしてお前ら全員にジュース奢ってやるよ」
「言ったな!お前らやるぞ!!!!」
「「「「「「おお!!」」」」」」
いじめっ子たちの掛け声を合図に試合が始まる。
始まって数分、試合は俺が予想していた通りの展開で進んだ。
最初のジャンプボールも楽々と取り、一人また一人と外野送りにする。自分で言うのもなんだが、中一を相手にするなら十分すぎるほどの力量差だった。
遂にいじめっ子チームの内野があと3人になる。
「ぐっ・・・!」
投げたボールはまた一人命中し、相手の内野は残り二人。
(ここから見た人にとっては俺が悪役みたいだな・・・)
そんなことを考えていると、いじめっ子たちが小さな声で話していた。
「おい、お前らのボールだろ。さっさと投げろよ」
「そんなに焦るなよ兄ちゃん、本番はこれからだろ?」
「は?」
すると、遠くの方から軍勢が押しかけて来た。
「こいつらも今から入れるから」
「はぁ!?そんなんありかよ!」
「最初に選手の補充をしてはいけないなんて言ったか?」
「ガキか!?」
「ガキでーす」
「くっ・・・」
(なんでもありだな・・・・)
どうやら、外野の子供が携帯で仲間を呼んでいたようだ。
こうして補充された子供は内野に8人、計15人を一人で相手にすることになる。
「お前らそれで勝った気になってんのか?」
「あ?」
「大事なのは数じゃねぇ、お前たちが何人束になっても同じって事お兄さんが教えてやるよ」
「へー、それなら遠慮なく増やさせてもらうわ」
「は?」
先程やってきた子供のうちの一人が、新しいボールを取り出す。
「ここからは、ボール二個でやるから」
「それは増やしちゃ駄目だろ!!」
「数は大事じゃないんだろ?」
「そっちの数のことを言ったんじゃねぇ!そもそもそんなドッジボールあるか!」
「俺らがやるドッジボールは二つ使うんですぅ~」
「くっ・・・」
こいつらには話が通じないようだった。
俺が何か対策を考えていると、付け加えるように一人が言う。
「言っておくけど、片方取ってずっと持ったままとか、地面に置いておくとかはルール違反だから~」
(今まさにそれやろうとしたわ・・・)
正直詰んだかもしれない。新ルールを無理やり採用させられた試合が再開され、展開は先程までとは正反対のものになる。常に優位に立っていたのに、今じゃ殆どボールを取ることさえ許されず、避ける一方だった。
「ほら!俺達が何人束になっても同じって事早く教えてくださいよお兄さん!!」
「こいつら・・・!」
そして、いつまでも避けられるはずもなく、唐突に終わりはやってきた。
「あだっ!」
激しく動いているうちに解けた靴の紐を、自らの足で踏んで転倒する。
「今だやれ!」
俺は内野と外野の両方から挟み撃ちされる形でボールを投げられる。
(ここまでか・・・せめて内野からくるボールだけでも・・・)
俺は崩れた体勢でどうにか内野からくるボールを捕球した。
しかし外野くるボールに無残に当てられゲームセット——————のはずだった。
「もう大丈夫や」
「え?」
背中の方から声がしたかと思うと、いつまで経っても背中にボールが当たることはなかった。
振り返るそこには思っていた通りの人物がいた。
「鳳城!」
「今までありがとな」
「あの二人はいいのかよ」
「凌太には沙希がついとるから大丈夫や」
「でも、鳳城お前は・・・」
「それも大丈夫や」
最後まで言わなくても鳳城はそれを理解し答えた。
するとこれを面白く思わないやつらがいた。
「勝手に入ってくんじゃねぇよ女!」
「こっからうちも参戦や」
「そんな勝手が許されるわけ・・・!」
いじめっ子たちの一人が否定しようする前に、リーダーらしき一人が言った。
「女が一人混ざったところでどうにかなるもんじゃないし、勝手に入れよ」
「ほんなら、始めよか」
相手チームが了解し、鳳城を参加させて勝負は再開された。
そして俺が鳳城の「それも大丈夫や」の意味を知るのは、すぐのことだった。
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