第20話 紅白戦(後半)


 5回裏ツーアウト


 彰人がバッターボックスでバットを構える。

「ここでホームラン打って引導を渡してやるよ」

「空元気が見え見えだぞ彰人」

「お前もな」

 そうは言ってもお互い疲労は誤魔化せない。


 初球外角低め、際どいところではあるが判定はストライク。彰人は見送った。

 二球、三球目、狙いが外れカウントが1ストライク2ボール。

 そして呼吸を整え、四球目。

 


 キンッッ!!


 当たりが大きい。バットが鋭く振り抜かれ、ボールは外野の深いところまで飛んでいく。

 

 そして————


「あれはぁ・・・・・ファウルじゃな!」

「っぶねぇ・・・」

「引っ張りすぎたか」

 あわやホームランになりそうだったが、ポールの左側に逸れてファウルになる。

 当然だが、俺と彰人を比べれば劣勢なのは俺の方だ。次はホームランを打たれるかもしれない。


 続く五球目

「クソッ!!」

 ボールはストライクゾーンから大きく外れる。これでカウントは2ストライク3ボールのフルカウント。


「どうしたよ蒼太、ビビってんのか」

「んなわけあるか、三振しか取る気ねぇよ」

「その自信がどこから沸くか疑問だが、やってみろよ」


(ここで彰人を三振に抑えれば俺たちの勝利・・・この大事な局面を超えるためにはもうあれを使うしかないか・・・!)

 俺はグローブの中でボールをしっかり握る。ワインドアップの構えを見せ、力強く腕を振り下ろした。


(ど真中のストレート・・・!しかも球速もさっきのものと比べて大分遅い。言うこと言っておいて疲れが球に乗ってるぜ・・・遠慮なくスタンドに放ってやる!)

 

 彰人は絶好球をミートし、スタンドまで飛ばす————————————はずだった


 キンッ


「ぐっ・・!!」

 先程と比べ、軽い金属音が響く。


 ボールの先を追うと内野の浅い所に転がっていた。

「ホームランだけは防げたか」

「蒼太・・・いつからあんな変化球を・・・」

 俺が投げたのはここまで投げてきたストレートではなく、バッターの手前で落ちるフォークボールだった。

 彰人は天才的な反射神経で瞬時に対応したが、大きくバランスを崩し内野ゴロに終わった。


「ここぞという場面で使おうと思ってたんだよ。出来るかどうか不安だったけど、なんとか上手くいったようだな」

「上手くいったって・・・そうじゃなくて!投手でもない蒼太がどうしてフォークなんて投げられるんだよ」

「中学の頃さ、投手とか関係なく変化球に興味が沸く頃があっただろ?みんなしていろんな変化球を投げ合って、曲がっただの盛り上がってたじゃん。その時に俺も遊びでフォークボールを投げてたの。握りは覚えていたから後は当時の勘を頼りに投げた。少し落ちてくれたおかげでゴロに抑えらたけど、三振が理想だったな」

「そういえばそんなこともあったな・・・」

「というわけでこれで3アウトだな」

「今の俺の内野ゴロ0.5点を加点すると、これで互いに21点か」

「同点の場合はサドンデスだったか?」

「そうなるな。互いに一人ずつ打って点差がでるまで続行。因みににサドンデスは別に打順に縛られず、好きなやつが出ていいからな。ってことで俺は疲れたからパス」

「それじゃあ私も遠慮しようかな。来瑠葉はどう?よかったら私たちの代わりに楽しんできなよ」

「わ、私・・・?でも私じゃ・・・」

「別に負けたからと言って私たちに何かあるわけじゃないし、何も気にせず打ってきなよ」

「お前らに何もなくても、負けたら俺んちが荒れるんだけどな」

「それくらい気にするなよ彰人、来瑠葉に楽しんでもらうんでしょ?」

「そうだな・・・・・瀧宮、打ってこい」

「わ、わかりました、できる限り精一杯やってきます・・・!」


 そして紅チームの俺らはというと、 

「じゃあ俺らは———」

「俺が行く!!」

「えー」

「俺の部屋の命運をお前らに任せられるか!」

「まぁ俺は疲れてまともに打てないし構わないぜ。美桜はいいか?」

「んー、私は負けても勝っても関係ないし、まぁいいよー」

「ほんとお前はお気楽でいいな・・」

「まぁそういうわけだ、行ってこいよ」



 そうして、延長のサドンデス戦が始まる。


 マウンドに上がった彰人は、聡が準備できたのを確認した瞬間に投げた。速攻で決めようとしたのかもしれないが、聡もそれに反応する。


 キンッッ!

「おっしゃあ!」

「くっ・・」

 センター前ヒット。


 先攻の紅チームは2点取得で23対21。サドンデスルールに則り、攻守交代で俺はマウンドに行く。 

「最後まで油断するなよ蒼太、少しでも前に飛んだら逆転なんだからな」

「わかってる」

 聡がヒットを打ったことで、この後瀧宮さんの結果はなんであれ、同点という結果はなくなった。つまりこの打席で試合の勝敗が決まる。

 

 瀧宮さんはこれまで3打席に1回当たるか当たらないか。しかも前に飛んだのは1回のみ。そこに先程投げた切り札のフォークボールなら易々と抑えられるだろう。

(瀧宮さんには悪いが、遊びとはいえ勝負は勝負・・・勝たせてもらうか)


 瀧宮さんの準備が整ったのを確認した後、グローブの中で再びフォークの握り、ど真中目がけて投げる。

 

 しかし———


「あっ」


 手から離れたボールの軌道は、先程の直進する綺麗なものではなく、弧を描くようなふわふわした軌跡を描いて進む。


「えいっ!」

 コンッ


 軽い音がしたかと思うとボールは俺の横を通りすぎ、ショート前に転がっていた。


「あ・・・当たった・・・!!」

「よ・・・・・いよっしゃあああ!!これで23対24!!俺らの勝ちだぜ!!!」

「やったね来瑠葉。いいところを全て持っていかれたよ」

「そ、そんな私は何も・・・・でも、打てて嬉しいです・・!」


 瀧宮さんを囲う彰人と空音をマウンドの上から眺めていると、聡がやってきた。

「蒼太!!!おまっ・・・!!えぇぇ!?!?」

「すまん、最後すっぽ抜けたわ。からっきしの握力でフォークなんて投げるもんじゃないな。あははは!」

「あははは!・・・じゃねぇよ!!!」

「じゃあ勝負も決まったことだし!片付けして馬鹿の家でパーティーだー!」

「「「「おーーー!!!」」」」

「なんで美桜が仕切ってんだ!!!」



 その後、聡の部屋で行われたパーティーは大いに盛り上がった。途中、聡の部屋で彰人が七輪で魚を焼き始めた時の聡の慌てっぷりに皆して笑った。


(新しいメンバーの瀧宮さんも優実もチームに馴染んできて、今日一日野球を少しでも楽しんでもらえたようでよかった。またメンバーが揃ったらまたパーティーを開きたいな)



 俺はそんなことを考えながらそパーティーを楽しんだ。

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