第12話 陽気な来訪者
空音に引っ張られて学校の外に出る。
すると300mくらい歩いた先に3階建ての少し古びた建物があった。
「ここは?」
隣の空音に尋ねたが返事は別の所からきた。
「ここは旧部室棟だ」
「彰人」
建物の中から彰人が出てきた。
「この学校は創立した時から部活動が豊富で、こういう部室棟まで建ててたんだってさ。けど5年前に新部室棟が建てられて今では殆ど用済み。まぁ部活に入っていない俺らみたいな連中は、こんな辺鄙なところにある建物のこと知らなくても不思議じゃない」
他に昔より部活動も増えて収まりきれなくなったことや、建物自体の劣化等も使われていない理由みたいだ。
棟というだけあって部屋の数も多く、外から中を覗くと道具が散乱している部屋も確認できる。
部室としては使われていないが、文化祭や体育祭の道具があったり学校の非常食が保管されていたりと、今では倉庫のような状態になっているらしい。
「ここが旧部室棟なのは分かったけど、こんなとこに呼び出して何をするんだよ」
「ん?空音から聞いていないのか?練習だよ、練習」
「それは聞いているけど」
「まぁこっちに来てみなって」
彰人に連れられて旧部室棟を壁伝いにぐるっと回る。
見るとそこには初めて見るグラウンドだった。学校の方にあるのと比べると小さく劣っている。
「ここは以前まで使われていたグラウンドだ。部室棟を新設する時に学校の方のグラウンドも改修工事をして拡張したらしく、今ではわざわざこっちに来てまで部活をする生徒はいなくなったんだと」
「雑草がやばいな・・・・こんなんじゃまともなスポーツできないだろ」
「そう!だから俺達でグラウンドを作るんだよ」
「はぁ!?」
「だーかーーら。これから雑草を刈っていくんだよ。ほれ」
彰人は軍手とビニール袋を渡す。
「よし、なら早速取り掛かかろう」
「空音まで乗り気だし!」
「仕方ないよ、他はどこも使われているから。さっさと済ませよう蒼太」
「うぅ・・・」
「そういうこと。それに加えて、隣にある部室棟で使ってない部屋は自由に使っていいそうだ。な?最高の条件だろ?」
乗り気な彰人と空音を止める術はない。
「・・・わかったよ!やってやるよ!」
「そうこなくちゃな。けど単に除草するだけじゃ面白くないから勝負をしよう」
「除草に面白さっているのか?」
「いいね楽しそう。それでどうする?」
彰人は先程軍手とビニール袋を取り出した鞄から秤を取り出す。
「題して・・・チキチキ除草レース!」
「ちきち・・・え?」
「ルールは簡単!これから各々草を狩って、一袋3kgになるように集める。時間は30分。そこで一番3kgから離れていた者、または3kgを超えた者は明日、両目眼帯で過ごしてもらうから」
「うえぇ・・・新学期早々悪目立ちしたくねぇ・・・」
「罰ゲームありか・・・・いいね、そうできゃ楽しくない」
「前が見えなるのは流石に生活に支障をきたすから、片方は小さな穴開けといた」
「傍目からは穴あいてるのわからねぇな・・・てか、もう準備してるのかよ!!」
「当たり前だろ」
彰人は既に罰ゲームの準備をしていた。
「それじゃあ、ルールも理解したところで始めるぞー。よーい・・・スタ———」
すると、彰人が始まりの合図を出そうとした時だった。
「待ったあああああああああ!!!!」
俺たちが先程やってきた方から大声がした。
声の方向を見るとそこに美桜が立っている。
「ちょっとちょっとー!なんだか面白そうなことやるみたいじゃんかー、私も混ぜろー!」
「先に帰ってたんじゃないのか」
「早くゲームするために一回帰ったんだけど忘れ物に気づいて戻ったんだー。そしたら蒼太たちが旧部室棟に入るのが見えて後をつけてちゃいましたー!」
「美桜はここが旧部室棟だって知ってたのか?」
「ん?そりゃあ家の近くなんだから知ってるよー。えっもしかして蒼太は知らなかったのー?んー?」
美桜が小馬鹿にするように笑う。
「面倒なのに見つかったな・・・」
「彰人ー!それどういうことー!・・・とういうか矢那瀬さん?だっけ?でこの組み合わせは何?そして、なぜ私を誘わないのだー!」
「そのまぁ・・・俺達は別に遊びに来たわけじゃないからさ」
「んー?違うのー?」
「ここだけ見ればそう見えても仕方ないか・・・」
美桜が首を傾げて不思議そうにしていると空音が答えた。
「確かに私たちは遊びもするんだけど、本命は野球部を倒すために集まったメンバーなんだ」
「野球部を倒す?どうしてー?」
「彰人のいつもの無茶ぶりで適当なんだよ」
「おい蒼太、適当ってなんだ適当って。俺は至って真面目だぞ」
「どうだか」
こんな説明だが美桜も大体の現状をは把握したようだった。
「へーおもしろそーだねーあたしもやりたーい!」
「えーっと美・・・」
「美桜でいいよ!あたしは・・・
「く、くう・・・?」
「んー?駄目だったー?」
空音は戸惑っているが、美桜の無邪気な態度を無碍にできず諦める。
「い、いいよ・・・それで美桜は野球を知ってる?」
「投げて打って走ってゴール!だよね!!」
「ホームインのことゴールって言う人初めて見たわ」
「細かいことは気にしない気にしない!」
(野球未経験っぽいけど大丈夫かなぁ・・・でも今日クラスメイトを誘って殆ど難色示してたしなぁ。やる気は人一倍ありそうだし練習すればいけるか・・・)
俺は悩んだ末結果を出す。
「美桜、俺たちと一緒に野球をやらないか」
「もっちろん!あたしがいれば百人力!まっかせなさーいっ!」
「蒼太が決めたなら仕方ないか・・・」
「ふふっ、また賑やかになりそうだね」
こうして俺たち"エスケア"は4人になった。
美桜の登場で本来の目的を忘れかけていたところ、彰人が言う。
「あーお前ら忘れてるかもしれないけど、ここにきた目的は除草だからなー」
「あっ・・・忘れてたわ」
「私はいつでもいいよ」
「あたしも準備おっけー!ルールも聞いてたからいつでもこーい!」
「それじゃあ30分後まで各々で除草すること。よーい、スタート!」
ゲームが開始される。
そして結果から言ってしまうと・・・俺は3人に負けた。
開始20分で俺は大凡3kg超えないであろうぐらい草を刈り終え、余った時間でトイレに行った。しかしそれが過ちだった。
トイレに行っている間、美桜は夢中になって草を刈っており、途中から草を入れる袋を間違えていたようだ。そして俺がトイレから帰ってくると、行く前とは比べものにならないくらいに袋は張っていて、急いで出そうと思ったけど時間切れ。
4人の袋を計測すると、彰人と空音はほぼ3kg、美桜は途中から袋を入れ間違えていたので1.5kg、俺は4.2kg。
ゲーム終了後、美桜からは「てへっ☆間違えちゃったー☆」と悪気の感じられない謝罪を受けた。
翌日、俺は罰ゲームを施行した。両目眼帯の俺は通りゆく全ての人から一日冷たい目線に晒された。みさちゃんに朝一で指摘され、目をぶつけた等と嘘の言い訳をし、その間彰人たちはずっと笑いをこらえていた。
クラスメイトから失った信用の代償はでかかったが、美桜を仲間にできてよかった。
チーム完成まで、あと5人―――
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