第25話 先生を破壊しよう


 錬とエクシアが追いかけっこを初めてから、しばらくすると雪乃達の元に大助達がやってきた。


「みんな! ASは倒せたの?」


 雪乃がまっさきに質問した。


「起動キーを奪って、停止させたから大丈夫。ほら」

 大助はASのキーを手にぶら下げて、雪乃に見せる。それを見た雪乃はほっと胸を撫で下ろした。


「それより二人はここで何してるの? 錬とエクシアが見当たらないけど?」


 大助はキョロキョロと周りを見渡しながら訊ねた。


「私はほのかさんと一緒にみんなが来るのを待っていたのよ。ほのかさんが腕を壊されてしまったから。錬はエクシアに自分を追いかけさせて、時間稼ぎをしてる」

「鈴っち、その腕?」


 大助はほのかの腕が機械義肢だということに驚く。後ろにいた遊々、京士郞、風葉もほのかが機械義肢だということを初めて知り、同様に驚いていた。

 一方、アンリエッタ、将吾は同じ会社の仲間なので、機械義肢のことを知っており驚かなかった。

 そして月陽だけは、悲しい表情を浮かべた。気を失う前、ほのかと一緒に昼食を摂った時の会話を思い出していた。

 その時、錬がみんなの元に戻ってきた。


「よお、全員揃ってるな。ASも止まってるし、やったな大助」


 錬は久遠寺がいることを見て、そう大助に話しかけた。


「一人か? エクシアはどうしたの? まさか?」


 大助が周りを見渡す、その目には少し期待が込められていた。


「いや、少し巻いてきただけだ。すぐに追いついてくると思う。それより久遠寺を見つけられたんだな。ちょっと状況を教えてくれないか? 霧生頼む」


 錬はチャーリーチームのリーダーである風葉に話を訊くことにした。


「分かりました。手短に説明します。月陽氏は鏡面加工された人一人が入れる大きさの箱の中に入れられており、その箱はゲームセンターの瓦礫の奥に隠されていました。おそらく戦争が始まる前、巨大ASがその箱を無理矢理押し込んだものと推測されます。月陽氏を助けた際、一枚の紙を手にしておりました。その紙には十文字の英数字が書かれていました。その英数字は巨大ASのハッチを開ける為のパスワードでした。九十九氏がそのパスワードを使い巨大ASを停止させることに成功しました」

「なるほど、久遠寺を見つけて、パスワードを手に入れて、巨大ASを倒したわけか。大助、その紙持ってるか?」

「ほい、これだよ」


 大助が錬にパスワードの書かれた紙を手渡した。


「ようお前等、全員集合じゃないか。何か作戦でも立てているのか?」


 錬を見失っていたエクシアが追いついて姿を現す。そして一歩一歩近づいてきた。


「すまんがブラボーとチャーリーはエクシアを足止めを頼む。久遠寺には話があるから残ってもらう」


 錬の言葉にブラボーチームの大助、将吾、京士郞とチャーリーチームの風葉、アンリエッタ、遊々がエクシアに向かって行った。

 エクシアは六人を相手にしながらも、まるで動じない様子だった。大人が子共と遊んでいるぐらい余裕がありありと見て取れた。



「久遠寺に訊きたいんだが、お前はエクシアに襲われたのか?」

「うーん、襲われた記憶はないわね。気付いたら箱の中にいて、風葉達が目の前にいたって感じよ」

「鈴城と昼食を摂った後、買い物があるといって別行動をしたんだよな? どこに向かったんだ?」

「え? 買い物? ちょっと覚えてないなあ」


 月陽は思い出そうとするが、上手く思い出せないでいた。


「分かったありがとう。話は少し変わるが、このパスワードが書かれた紙。よく見ると小さなシールが貼ってある」


 錬はその紙をみんなの前に出す。みんなは顔を近づけて、じっと見つめた。


「小指の先ぐらいの小さなシールだ。それも透明だからほとんど気付かれない」

「ARシールね」


 雪乃が声を上げた。


「その通り、これは俺達の制服に標準装備されている機能の一つ。誰にも気付かれないようにこっそりマーキングが出来る。アプリを通しみると誰がいつマーキングしたのかという情報を取得できる」


 錬は左手から空中にアプリウインドウを表示させる。薄緑色のアプリウインドウをそのARシールに乗せるとアプリウインドウに情報が表示された。


「このARシールは久遠寺のものだ。時間は戦闘が始まる少し前の時間だな」

「私は知らないわよ」


 月陽は自分が疑われているものと勘違いし慌てて否定した。


「分かってる。これは気を失っている久遠寺のARシールをエクシアが奪って貼り付けたものだ」


 錬がそう言うと、月陽はほっと胸を撫で下ろした。


「そしてこのARシール。他にも張られているはずだ」


 錬はアプリウインドウを月陽と雪乃に向ける、だが反応はない。しかし、ほのかに向けた瞬間、ピッと情報がウインドウに表示された。

 錬は予想していたので驚きはしない。月陽と雪乃は驚きの表情でほのかを見つめた。ほのかは何が起こったのかまったく分かっていない顔をしていた。


「ちょっと調べさせてもらう」


 錬はほのかに近づきアプリウインドウでARシールが貼られている場所を探った。


「ARシールが貼られているのはスーツの裏側、背中あたりだ。つまり制服モードの時に張られたことになる。時間は紙の奴よりも、三分早い」


「あっ!」


 月陽は何かに気付いたように小さな声を発した。


「何か気付いたか?」

「ほのかと抱き合ったから、たぶんその時にくっついたんだと思う」

「ええ、たぶんそうやと思うわぁ」


 月陽の意見にほのかもすばやく同意した。


「ようやく理由が分かった」

「なんの理由?」


 月陽が錬に訊ねた。


「エクシアが鈴城の腕を破壊した理由だよ」

「それは戦闘だからでしょ?」


 月陽が続けて、錬に質問した。


「いや違う。腕を破壊することで、鈴城とエクシアが敵対していることを俺達にアピールしたかったんだ」

「敵対って、実際敵同士でしょ? アピールする必要なんかないじゃない」

「そうアピールする必要は普通ない。もしアピールする必要があるとしたら、仲間同士の時だけだ」


 錬は視線をほのかに送る。ほのかは微笑んでいるだけで何も言おうとしなかった。


「十七夜あんた何が言いたいの? ほのかが裏切りものだっていいたいわけ?」


 月陽は錬を睨み付ける。月陽はほのかに薬を打たれて眠らされた時の記憶がすっぽりと抜けて落ちてしまっている。そのため親友のほのかを悪者扱いされて怒っていた。


「いいか? 鈴城の背中にARシールが貼られたその三分後、この紙にARシールが貼られているんだ。つまりこの三分の間に久遠寺は気絶したというわけだ。三分という短い時間を考えれば久遠寺が気絶した時、すぐ近くに鈴城はいた。むしろ久遠寺を気絶させたのは鈴城だろう。抱き合った隙に何かした。そうじゃないのか鈴城?」


 錬を含め、三人の視線がほのかに集中する。

 

「…………」

「ほのか、違うよね?」


 月陽はまだほのかを信じていた。


「……お見事や十七夜さん。よく見破りはりおったね」

「ほのか? 嘘でしょ?」

「……ごめんなさい月陽ちゃん。本当や」

「久遠寺、あんまり鈴城を攻めるなよ。鈴城にも事情はある。この戦いが終われば全部説明してくれるはずだ」


 錬は月陽の肩にそっと手を置いて、そう諭す。月陽は黙ってこくりと頷いた。


「鈴城とエクシアの関係を見破ったわけだが。何か情報をくれるんじゃないのか?」


 錬は期待の籠もった眼差しをほのかに向けた。


「はい、これを差し上げます」


 ほのかの手には円柱状のモノがあり、その先に赤いボタンのようなものついていた。


「これは?」


 錬はそれを受け取りながら、なんなのかを訊ねた。


「そのボタンはエクシアの戦闘モードを一時的に解除するボタンや。効果時間は三分。使用できる回数は一度のみや」

「三分間でエクシアを倒せ。出来なかったら俺達の負け確定ってことか」


 錬は現状を分析し呟く。エクシアの強さを錬は身をもって体験している。戦闘モードのエクシアはほぼ倒すことは不可能。

 戦闘モードを解除してもギリギリ倒せるぐらいの強さだろうと錬は予測する。三分間ただ無策に戦っても、勝つことは難しい。勝てる確率を1%でも上げる為の作戦を錬は考えた。



 錬は作戦を雪乃と月陽に手早く伝えた。


「そんなの危険よ!」


 雪乃が錬の作戦に異議を唱えた。


「危険なのは分かってる。だが、やるしかない。確実にエクシアを倒せる方法が他にあるか?」

「…………」


 錬の質問に雪乃は言い返すことが出来なかった。


「大丈夫。もちろん危険な役は俺がやる、心配はいらないさ」

「……そういう意味じゃない」


 錬は雪乃を安心させようとするが、雪乃が心配しているのは別のことだった。雪乃は自分の心配をしていたわけではなく、錬が危険な目にあうことが嫌だったのだ。だけど、それはただのわがままなので、雪乃は無理矢理に自分を納得させるしかなかった。


「じゃあ、久遠寺。手はず通りに頼む。手加減は絶対にするなよ。少しでも躊躇したらエクシアは倒せないと思っておけ」

「分かってる。あんたこそしっかりやりなさい。もし死んだりしたら絶対許さないから」

「ああ、絶対に死なない。仲間に殺されるだけのはごめんだ」

「私だって、仲間を殺すのはごめんよ」

「珍しく意見があったな」

「そうね」


 錬と月陽は笑いあう。その様子を横目に見ていた雪乃は若干不機嫌になった。


「それじゃ作戦開始だ」


 錬の号令に雪乃と月陽は「了解」と返答した。

 エクシアの方を見ると足止めをしてくれていた仲間達が倒れていた。最後の一人になって戦っていた大助も直後に吹き飛ばされる。吹き飛んできた大助を月陽が抱き留めた。


「だいちゃん!」

「……ごめん、もう時間稼ぎ無理だわ」


 大助がか細い声で申し訳なさそうに謝った。


「よくやってくれた大助。後は三人でエクシアを倒すから、ゆっくり休んでていてくれ」

 錬は大助にねぎらいの言葉を掛け、一歩前に出た。


「私を倒す算段はついたのか、十七夜?」


 錬の視線を受けて、エクシアは問う。


「ああ、ばっちりだ。望み通り、ぶっこわしてやるよ」

「それは頼もしい。では、それを証明してみせろ!」


 エクシアが高速で接近してくる。

 錬は横にアンカーを放ち、エクシアの突進を回避する。しかし、エクシアはすぐに反応し錬を追いかける。

 エクシアは腕を伸ばし、錬の足を掴もうとする。

 あと少しでエクシアの手が届きそうになったとき、エクシアの腕にワイヤーが巻き付いてエクシアを地面に叩き付けた。


「私だっていること忘れないでよね」


 雪乃がエクシアに言い放った。


「やるじゃないか神無城」


 エクシアはすぐに立ち上がり、雪乃に視線を向ける。そして今度は雪乃の方に向かっていく。

 雪乃は逃げることなく向かってくるエクシアに構えた。

 エクシアが右の拳を打ち出す。雪乃はその拳を上半身を後ろの逸らして避ける。さらにブリッジをして、足を上に振り上げた。雪乃のつま先がエクシアの顎を捉えて、エクシアは後方に倒れる。雪乃はそのまま何回か後方転回をして距離を取った。

 倒れたエクシアは何事もなかったように立ち上がった。

 そして再び、雪乃に突撃してきた。

 雪乃はエクシアがどんな攻撃をしかけてくるのか、構える。しかし、エクシアはただ目の前に来ただけで攻撃は仕掛けてこなかった。


「どうした? 攻撃しないのか?」


 エクシアが顔を近づけて雪乃に問う。

 雪乃はこの瞬間、自分の意図がエクシアに気付かれたことを悟る。それはカウンターを狙っているということだ。エクシアの攻撃に対応した反撃をしようと心構えていた。しかし、エクシアはただ目の前にいるだけで先に攻撃を仕掛けてはこなかった。

 雪乃はエクシアのプレッシャーに負けて、回し蹴りを放ってしまった。もちろんその攻撃はエクシアにたやす受け止められる。


 エクシアは雪乃の足を掴んだままぐるぐるとその場で回転する。

 ジャイアントスイングのごとく雪乃は振り回される。そしてそのまま空中に投げ飛ばされた。

 雪乃は二階の花屋に突っ込んでいった。

 それを見ていた錬はエクシアにアンカーを放つ。

 エクシアはアンカーを拳で払いのけ、錬の元に走る。錬はエクシアが追って来ているを確認しながら、モール内を逃げ回った。

 そして錬はある場所で停止し、エクシアを待ち構えた。

 それは巨大ASの足下だ。近くには最初に破壊されたゲームセンターがある。

 

「エクシア、ここで決着を付ける」


 錬は赤い髪を揺らしながらゆっくりと向かってくるエクシアに対峙した。

 

「やってみろ!」


 エクシアが突撃してくる。


「頼むぜ、久遠寺」


 そう言いながら錬はスイッチを押した。すると赤色に染まっていたエクシアの髪が青色に戻る。戦闘モードが解除され通常モードに戻ったのだ。

 だが、エクシアは構わず突っ込んでくる。錬は戦闘態勢を取りエクシアを待ち受けた。

 エクシアとの距離が二メートルほどになったとき、停止していたASが動きだしエクシアを巨大な手の平で上から押しつぶした。

 床が割れ辺りに粉塵が巻き散った。

 粉塵が晴れた時、そこにはエクシアが立っていた。エクシアはASの攻撃がくる直前で停止しており、ASの攻撃は空振りに終わった。


「まさか、これが作戦だったのか?」


 エクシアは錬に問う。錬はただ悔しそうな表情を作るだけだった。

 再びASの攻撃がエクシアに迫る。だが、エクシアはなんなく回避して、錬に接近する。

 錬はエクシアからの攻撃を防御だけに徹する。ASの足や肩、頭を縦横無尽に跳び回った。

 エクシアは逃げる錬を追いかけるが、時折ASの攻撃が割って入ってきて、なかなか錬を追い詰めることが出来ないでいた。

 錬が一瞬足を滑らせる。その隙にエクシアは蹴りを放った。錬は蹴りの威力を軽減させる為に後ろに飛ぶ。それでも完全には威力を相殺することは出来ずにゲームセンター内に吹き飛ばされた。

 ゲームセンター内にエクシアと錬が入ってしまっては、うかつにASは攻撃が出来ない状況になっていた。ヘタに攻撃をしようとすれば、錬も巻き添えになってしまうからだ。


「ここではASの援護も期待出来ないぞ?」


 エクシアが一歩一歩、錬に歩み寄った。


「……追い詰められたか」


 錬は悔しそうな表情をエクシアに向けた。

 

「残念だったな十七夜、作戦が失敗して」


 エクシアはほぼ勝利を確信している様子だった。まだ戦闘モードに戻れていないが、通常モードでも十分、錬を倒せる力を持っていた。


「……作戦が失敗? ふっ」


 錬は表情を一変させ、エクシアを嘲笑った。


「どうした? 追い詰められて自暴自棄になったか?」

「何か勘違いしてるから教えてやるよ。追い詰められたのは俺じゃなくエクシアの方だ。そして作戦は失敗してない。なぜならこれから成功するからだ!」


 錬はエクシアを見ていない。瞳はその後ろのASに焦点が合っていた。

 エクシアは慌てて振り返る。そこには腕を振りかぶったASがいた。


「おい! ここにASが攻撃を加えれば十七夜もただでは済まないぞ。何を考えている?」


 そう言いながらエクシアは再び錬に視線を戻した。

 錬は鏡面加工された箱に素早く体を潜り込ませる。その箱は月陽が入っていた箱だった。

 

「俺はここに避難するから問題ない」


 そう言って錬は箱の蓋を閉じた。

 

「……そうか」


 エクシアは錬が大丈夫なことを知って、ほっとした表情を浮かべる。

 直後、巨大なASのこぶしがゲームセンター内に突入してくる。エクシアはその凄まじい威力のこぶしを避けることが出来ず、瓦礫と一緒に潰された。




 錬は箱の中で強い衝撃を感じている。しかし、頑丈に出来ているその箱はシェルターになっており、ASの攻撃から錬の身を守ってくれた。

 衝撃が収まり、錬はそっと箱を開けて外に出る。錬は瓦礫の山から隙間をぬって外に這い出た。

 

「……エクシア」


 這い出た先で、ボロボロになったエクシアを発見した。手足から火花が散って、もう動けないことがすぐに分かった。


「……良かった。無事だったか十七夜」


 エクシアは目だけを動かして、錬の無事を確認し嬉しそうに笑った。


「なかなか良い作戦だったよ十七夜。周囲の状況をよく把握し、よく私を倒した。お見事だ」

「俺達の勝ちだなんだよな? もう良いだろ? 早く修理を……」


 錬は泣きそうになりながら、エクシアに顔を寄せた。


「なんだお前、この状況でも私の心配をしているのか? 私はアンドロイドだぞ、何を心配する必要がある」

「…………」

「まだ勝敗は決まっていない。十七夜、勝利条件を覚えているか? お前達の勝利条件は私の破壊だ。私はまだ完全に破壊されていない」

「……分かったよ。それがエクシアの望みなら、やってやる」


 錬は覚悟を決めて、立ち上がる。そして右手首についているアンカーの射出口をエクシアの眉間に向けた。


「……それで良い」


 エクシアは満足そう言うと、そっと瞳を閉じた。


「……ありがとうございました、エクシア。……先生」




「よーし、戦争訓練終了だ!」


 パチパチと拍手しながら、エクシアがゲームセンター内に入ってきた。


「えっ?」


 錬は驚いて振り返った。そして自分の足下に目を向ける。エクシアが二体いる。


「何驚いている十七夜? 私はアンドロイドだと言っただろ? それとも今までの戦闘が訓練だと気付いていなかったのか?」

「いや、訓練だってことは途中で気付いていました」

「そうウチの学校には、避難訓練と同様にテロ訓練や戦争訓練などが不定期実施される。今回はアンドロイドと人間の戦争という設定の訓練だったわけだ。そして見事にお前達は訓練に成功した。少し難易度設定が高かったかもしれないが良くやったな、おめでとう」

「まったく、私がASに乗り込んだ時に先生がいるからびっくりしたわよ」


 エクシアの後ろから月陽が顔を出した。


「ASの外にでてうろちょろする分けにはいかないから、ASの中で訓練が終わるのを待っていたんだよ。久遠寺の前に九十九と合っているんだが、話を聞いてないのか?」

「嘘? そんなの一言も聞いてないわよ!」

「私が二体いることを言えば、みんなが混乱すると思っていて黙っていたのか。ただ言い忘れていただけなのか。どっちかだろうな」

「だいちゃんのことだから、きっと言い忘れたんだと思う」


 月陽は大助の性格を良く知っているので、そう確信していた。


「訓練が終わったので、もうすぐ救護班が来る。一応、お前等は精密検査を受けることになる。安全なところで待機するように。地上においてきたお前等のASもしっかり回収しておくから心配はいらないぞ」


 エクシアは一方的に告げると踵を返して出て行こうとする。


「先生!」


 錬がエクシアを呼び止めた。


「なんだ?」

「訓練が始まる前、ASの上で俺が先生に言ったこと覚えてますか?」


 言ったこととは、錬がエクシアを好きだと告白したことだ。


「……さあ知らないな。その壊れた奴と私は別個体だ。たとえ知っていたとしても無効だろ」


 エクシア同士はお互いにデータリンクをしているので、もちろん錬の告白を知っている。しかし、先生と生徒、アンドロイドと人間の関係から、エクシアは認めることは不適切だと判断した。


「……そうですか」


 錬はほっとした気持ちと、残念な気持ちのごちゃまぜになったような気持ちを感じた。

 エクシアの去って行く背中を錬はただ見送った。


「ねえ、なんの話? なんの話?」


 月陽が錬に訊いてくる。錬がエクシアに告白した時、月陽は箱の中で眠っていたので知らないのだ。


「うるさいなぁ。先生がいきなり戦争を宣言したから、むかついて先生のこと大嫌いだっていったんだよ」


 錬は本当のことをいうのが嫌だったので、イジワルで真逆のことを言った。


「あら、つい本音が漏れちゃったってこと? でも、先生無効だって言ってたから良かったじゃない。気にしない気にしない」


 にやにやしながら月陽が慰めるように錬の肩を叩いた。


「ああ、そうだな」


 月陽は完全に錬の言葉が本当だと思っている。だまされている月陽が自分を慰めてくれる様子がおかしくて、錬は笑った。




 了




 あとがき

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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Assault Shell~ロボット高校の日常~ やなぎもち @yanagimothi

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