Assault Shell~ロボット高校の日常~
やなぎもち
第1話 学校に行こう
『レン様、朝です。起きてください。学校に行く時間です』
ベットで眠る
「うーん、ハクア。もう少し寝させてくれ」
練は寝返りを打ちながら、ハクアにお願いする。
『そんなこと言ってると遅刻しちゃいますよ、レン様。早く起きてください』
ハクアは肩口まである銀髪を揺らして、ため息をついた。
『また、徹夜でオブジェ作りをしてたんですか?』
「ああ、ちょっと夢中になりすぎた」
錬の趣味は拾ってきたガラクタで色々なオブジェを作ること。そのため部屋には犬や猫、パンダやライオンなどをモチーフにしたオブジェが散乱している。
部屋の隅には作りかけのオブジェが一体ある。それは昨日、錬が作っていた作成途中のオブジェ。モチーフはハクアだった。
錬が高校に入ってから一ヶ月が経った。無事に学校生活を送れているのはハクアのサポートのお陰だと錬は思っている。その感謝の気持ちをオブジェで残しておきたかったのだ。
それとバーチャル空間上にしか存在しないハクアに触れてみたいという想いもあった。
映像で映し出されるハクアは、そのことには気付かない。ハクアの映像は一方的に送信されているもので、錬の声以外はハクアに届いていなかった。
『レン様は今日、日直です。指揮をとらないとみなさんに迷惑が掛かります。それでもいいんですか?』
「ああ、そっか。今日、俺が日直だった! やばっ」
布団の中でぬくぬくしていた錬は〝日直〟という言葉を聞いて、飛び起きた。
そして閉じられていたカーテンを勢いよくバッと開く。
窓の向こうには、広い空間が広がっており、その一角に白い人型のロボットが佇んでいた。
ロボットの名前はホワイト・レイヴン。
オペレーターAIの名前はハクア。
パイロットは十七夜錬。高校一年生。
錬の住んでいる場所は新技術開発特別行政区域(しんぎじゅつかいはつとくべつぎょうせいくいき)と呼ばれる特殊な場所だった。名称が長いので普通の人は、特区という通称で呼んでいる。
特区は最先端技術の開発・実験をする場所として、国が特別に提供しており、主にアサルトシェル(通称:AS)と呼ばれる人型ロボットの開発の場となっている。
新技術開発特別行政AS試験高校。
これが錬の通う高校の名称だ。
新設したばかりで、全校生徒の数は全員で、わずか十人しかいない。
普通の高校とは違い、ロボットに乗って登校し勉強する。簡単に言えば、錬は学生とテストパイロットの両方を同時にやっている。
学校名がとても長いので、一般的にロボット高校と呼ばれている。
錬は戸棚から牛丼のインスタントレーションをテーブルに取り出し、容器から出ている紐を引いた。すると、容器の下にある生石灰と水が化学反応を起こし発熱を始める。これで三分後に牛丼が完成する。
レーションとは、軍事行動中に各兵員に配給される食糧のこと。特区では新しいレーションの開発も行っているので、錬はその試食モニターの手伝いもしている。
牛丼が出来上がるまでに、錬はTシャツとボクサーパンツの姿から、白のパイロットスーツに着替える。
「制服モードに変更」
錬は音声で命令をする。すると、錬の体にぴっちりと張り付いていたスーツが可変して、少しゆとりのある黒の学生服に変わった。
リバーシスーツといって、表面と裏面の二種類のモードがある。
戦闘モードでは体に密着して、衝撃吸収や筋力のサポートをする。
制服モードでは体に密着はさせず、ただの衣服としての機能する。
着替え終わった錬は、牛丼を素早く食べて、顔を洗い、歯磨きして部屋を出る。
体育館なみに広いガレージには、先程自室の窓から見た白い機体が立っていた。
ガレージ内には、錬以外の人間はいない。
機体の整備などは、ハクアが設置されてるクレーンなどに自らアクセスして自分で行っている。オートメンテナンス機能のおかげで、錬は特にすることはなかった。
「おはよう、ハクア。調子はどうだ?」
錬は機体を見上げて声を掛ける。
『おはようございます、レン様。ステータス、オールグリーン。問題ありません』
錬の目の前にハクアの映像が表示された。
「戦闘モードに変更。よし、それじゃ、学校に行こう!」
錬は戦闘モードにスーツを変形させ機体に近づいていく。機体の後ろ側にあるコクピットが開き、三角形の足場付きのワイヤーが降りてくる。錬はワイヤーに捕まりコクピットに搭乗した。
「ホワイト・レイヴン起動」
そう言いながら、起動スイッチを押す。
錬の目の前180度には、頭部カメラから得た風景が表示される。それに重なるように地図や方位計、高度計など各種ステータスが表示された。
『ホワイト・レイヴン。システム正常起動しました』
画面の端にハクアの顔が表示された。
「アームロック解除。ゲート解放」
『アームロック解除します。ゲート解放します』
機体を固定していたアームが外れて、ホワイト・レイヴンが自立する。ゆっくりとゲートの前に歩いていく。そして機体の前のゲートが開き、外の光がガレージ内にだんだんと漏れてきた。
『ゲート完全解放しました。出撃できます』
ハクアの言葉を錬は無言で頷いた。そして、
「十七夜錬、ホワイト・レイヴン。出撃する!」
脚部および、胴部のブースターが火を噴いて、機体は勢いよくガレージを飛び出していく。
飛び出した先にはビルがありすぐ目の前に迫る。ぶつかる直前で地面を蹴り、跳躍する。そのままビルの壁面を蹴って屋上に降り立った。
壁面を蹴られたビルは窓ガラスが割れて、ボロボロになっている。もしビルの中に人がいたら、大惨事になっていただろう。しかし、ビルには誰一人人間はいない。
AS試験の為に作られた無人の街。
──それが特区。
地上はASが実弾を使って、戦闘試験を行っているので人が住める環境ではない。その為、一般市民は特区の真下にある地下都市で暮らしている。
「ハクア、今日の学校はどこだ?」
錬は街を見下ろしながら、ハクアに訊ねる。
普通の学校とは違い、ほぼ毎日学校の位置が変わる。その為、まず学校の位置をマップで確認する必要がある。
『湾岸地区A23です』
地図に赤い点が明滅して、学校の位置が表示された。
「うーん、今日は結構遠いなぁ」
学校と自分の現在地を比較して、錬はため息を漏らした。
『ミサイルにロックオンされました。注意してください』
ハクアの声と共に画面にロックオン警報が赤く表示された。
「はいはい、回避回避。回避しまーす」
目の前からミサイルが迫っていたが、錬は慌てることなくハイブースターをふかして、ミサイルの下に潜り込んで回避した。ミサイルはそのままビルの屋上にぶつかり爆炎を上げた。
「敵発見!」
錬の画面には都市迷彩の中量二脚型ASが表示されていた。
特区では至る所にオートパイロットのASが潜んでおり、戦闘試験と称して学生の登下校時に銃口を向けてくる。しかし、敵ASは錬達の乗っているASよりも旧世代のモノなので、油断さえしなければ負けることはない。
AS一機の平均的値段は500億円。錬達によってASは一日に何十体と破壊される。
一部の市民からは無駄な戦争ごっこだ、という批判の声がある。しかしAS開発は超大規模な公共事業であり、物凄い雇用を創出している。失業率は2%を切り、ほぼ完全雇用を達成。AS開発からの派生技術により日本の電化製品は世界一を独走している。無駄だと言われた戦争ごっこは、まさに打ち出の小槌であった。
特区の存在は日本だけではなく、世界にも多大なる影響を及ぼした。
それは世界から戦争がなくなったのだ。
一昔前、世界の警察と呼ばれていた大国は、しょせんただの拝金主義国に過ぎなかった。人の為の正義ではなく、金の為の正義しか行使しなかった。ゆえに争いは絶えなかった。むしろ自国の利益になる戦争は率先して起こし、金を稼ごうとしていた節さえもあった。
大国の富裕層は金の本質を忘れた獣に堕ち、働かずにお金を得ようと考えた。そして最後には世界各地に経済的植民地を作り始めたのだ。
大国の信頼はあっという間に失墜し、日本がその後を引き継ぐことになった。
そこで出たのが特区計画である。
日本が世界一の武器開発国になることで、世界の治安を守ることにしたのだ。
先代の大国とは違い、日本は拝金主義に溺れず、人の為に正義を尽くした。
国同士の争いは武力ではなく話し合いで解決するように、日本は尽力した。世界一の武力をバックにした日本の外交的発言を各国が無視することは出来ない。
戦争をすることを日本は決して許さなかった。
結果、戦争はなくなった。
二六○○年以上の歴史をもつ世界最古の国『日本』が、世界最新の技術を用いて、恒久的な平和を世界にもたらすのは半ば必然だと言う者も少なくない。
世界平和の為に錬達は今日も最新ASで登校する。
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