右から左へ聞き流せば毒舌も気にならない
実のところ、
ここで重要なのは、そこに姉が入っているということ。
姉は花梨さんのことを実の妹のように可愛がっている。ボクが嫉妬してもおかしくないぐらいに、実によく可愛がっているのだ。
そんな姉が花梨さんの恋人候補を探す手伝いをしようと思うのは当たり前の話ではないか。
今思えば、執行部の中で実験的に行われたあのバディー制度も、まるで花梨さんのために企画したようなものだった。
あの時、花梨さんは生徒会執行部の中で最もイケメン顔の鈴木先輩とバディーとなって、海の見えるショッピングモールでデートまでこぎ着けた。
あの二人がバディーになったのは、同じトランプの絵柄を引いたという偶然だった。でも、姉ぐらい何事にも完璧で何でもできる人ともなれば、人類の英知を越えた何か不思議な力を使って、偶然を必然に変えることがでるのかも知れない。姉にはそんな力があるのかも知れない。
そんなミステリー小説の主人公のようなことを真剣に考えて始めているボクは、馬鹿かも知れない。
いや、本当に馬鹿みたい。さすがにそれはない。
仮に姉が花梨さんのためにあのバディー制度を企画したのだとしたら、その計画は見事に失敗してしまった訳だから。
何事にも完璧な姉が、弟のボクの行動一つで失敗するなんて、天地が割けてもあり得ないことなのだ。
本当にどの口が言うのって感じに聞こえてしまうかも知れないけれど、ボクというお邪魔虫の介入によって、計画はすべて台無しになってしまったんだ。
オマケに花梨さんは鈴木先輩という恋人をゲットする代わりに、ボクという親友をゲットしてしまうというオチまで付いてしまった。
以上のことを踏まえて、姉が花梨さんのために七夕イベントを企画したという疑いは完全に晴れたと結論づける。
はい、長考タイム終わり。
そんな馬鹿なことをつらつらと考えながら旧昇降口へと続く廊下を歩いていると、紺色のスーツ姿の女教師とバッタリと鉢合わせした。
「あらあら、こんな薄暗い廊下で貴方に会うなんて、今日は仏滅だったかしら?」
出会って1秒。速攻で毒舌をぶつけてくる星埜守先生だった。この先生、放課後も絶好調だよなー、なんて他人事にようにボクはその毒舌を右から左へ聞き流す。
「えっと……今日は確か友引だったと思いますよ? それより先生こそ、こんな薄暗い廊下をわざわざ遠回りして通るなんて珍しいですね。あ、もしかして七夕イベントの偵察ですか?」
先程までのミステリー小説の主人公ばりの思考の流れが、無駄に残っていたかも知れない。普段なら絶対に言わないようなセリフがボクの口から飛び出してきたんだ。
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