ホームルームは終わらない
「雨続きで気の滅入る毎日だけれど、こういう時にこそ落ち着いて勉強に励むことが大切よ。とくにF組のあなた達は死ぬ気で頑張らないと、ますます他クラスに差を付けられてしまうのだから、今日はまっすぐ家に帰って期末テスト対策に取り組むこと。分かりましたか?」
いつも通りの帰りのホームルーム。F組担任の
入学式から2ヶ月半が過ぎ、何事にも厳し過ぎる担任の指導方針に不満を感じ始めている生徒がちらほらと出てきているんだ。
「今、生返事をしたのは誰ですか? そんな態度をとっている人は自宅謹慎処分にしますからね!」
ざわつきが広がる教室。先生がバンと手で教卓を叩くと、一瞬にして静かになる程度のざわつきだけれど。それから赤い縁の眼鏡の奥で鋭い視線を巡らせる先生。そうなると多くの生徒達は先生と目が合わないように下を向いたり窓の外を眺めるふりをしているのだけれど、中には近くの者同士で顔を見合わせクスクス笑っているグループも少なからず存在する。
なんかヘンな雰囲気。いったい全体、どうしてこうなっちゃったんだー!?
そんなボクの嘆きをよそに、斜め前の花梨さんは文字がびっしりと書かれた紙を食い入るように見つめ、なにやらブツブツとつぶやいている。
その紙の正体をボクは知っている。何しろ今日のボクはその紙のせいで寝不足なのだから。
「……まあいいわ。これはまだ秘密にしておくつもりでしたがもう我慢の限界です。いいですか、今度の学期末テストで不甲斐ない結果を残した人は、もれなく夏休みの勉強合宿に強制参加となることに決まりました。今年の夏は生きているのがつらくなる程の勉強漬けの日々となることでしょうね。うふふふふふ……あはははは……」
先生の不気味な笑い声がF組教室を支配する。
先生の突然の変貌に目を丸くする生徒たち。
「せ、先生! 僕らは勉強合宿なんて行事があることを聞かされていませんが……」
学級委員の前嶋くんが声をあげると、堰を切ったように抗議の言葉が飛び交う。
「わたし塾の夏期講習に行く予定なんですが?」
「不甲斐ない結果って、具体的に数値で言ってくれなくちゃ分かりません!」
「せめて今年の夏ぐらいはゆっくりと過ごすつもりだったのに……」
再びバーンと教卓を叩く先生。
一瞬にして教室が静まり返る。
「だからあなた達はダメなんです! どうして強制合宿に参加する前提で考えてしまうのですか? そこまで言われて私を見返してやろうという気にならないのですか!?」
その言葉はボクの胸に突き刺さった。でも、周りのクラスメイトたちの表情からは不満感がにじみ出ている。
先生の唇が小刻みに震え、唇をキッと噛んだ。
相変わらず花梨さんは一人でブツブツつぶやいている。
先生の顔が諦めの表情に変わり深く息を吐く。
「残念だけどこれ以上何を言っても時間の無駄ね。いいわ。これで今日のホームルームを終わりに――」
その時だった。
「ちょっと待って!」
花梨さんがさっそうと手を挙げたのだ。
その瞬間、先生の口の端が上がったように見えたけれど――
「生徒会執行部の代理として、みんなに連絡があるの!」
哀れなほどに先生の表情が落胆に変わった。
確かにこの話の流れで、学年順位8位でF組主席の女子が手を上げたんだから、先生もちょっとは期待しちゃうよね。
でも相手は鮫島花梨。空気の読めなさでは世界でもトップクラスの女子なんだから。
呆然と立ち尽くす先生を押しのけ、花梨さんは教卓の前を占拠する。
「ほら、ショタ君!」
くいくいと手招き。
「え、ボクもそこへ行くの?」
いや、何となく想像はしていたけどさ……
この雰囲気の中で
でも、これは乗りかかった船。
いまさら降りるわけにはいかないんだよね?
「生徒会主催の七夕イベントについて大々的に発表するわ!」
パーンと黒板に勢いよく資料を押しつけるポーズをキメる花梨さん。
これ、完全に姉のプレゼンの真似だよね?
やっばり、今日だけは下船したいんですけどーっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます