まず馬を射よ(捌)
「なになに? ショタ君、急にどうしたの?」
「いいからこっちへ!」
戸惑う花梨さんの手を引っ張って、銀行のATMのあるところへ連れてきた。ここなら人通りも少なくて、落ち着いて話ができると考えたんだ。
「えっと……調子はどうかな……と思って」
「え?」
「いや、あの……いつもの花梨さんはギラギラしていて、とても元気なのに……今日は少し具合が悪いのかなって……」
「はぁー? なに言ってんのショタ君は? カリンはいつも通り元気いっぱいなのさー」
そう言いながらニーッと笑う花梨さん。
その顔をみた瞬間、胸の中のモヤッとした部分がはち切れた。
「だから、それが変だと言っているんだ! いつもの花梨さんなら、こんな場所に大人しく引っ張られて来ることなんかないし、デートを邪魔するなーって大暴れしているはずだよ!」
ボクはギュッと目を閉じ、大きな声を出してしまった。
きっと反撃される。
それは覚悟の上だけれど、殴られるのはちょっと怖いなぁ……
でも、いつまで経っても花梨さんは何もしてこない。
恐る恐る目を開けると、目の前の花梨さんは俯いていた。
前髪に隠れて表情は見えない。
「……あれ?」
顔をそっとのぞき込むと、彼女の大きな目には涙が貯まっていて……
「か、花梨さん!?」
まさか泣き出すなんて想像もしていなかったボクは、パニックになってあたふたとしてしまう。
ATMで用事を済ませた年配の女性が二人、ジロジロとボクらを見ていることに気付くと、更に慌ててしまう。
どうしてこうなった!?
「も、もしかしてボクが渡したデートプランがダメだったかな?」
「うう~わかんないよぉ~」
ふるふると頭を横に振り、最後には『うわーん』と泣き出されてしまった。
***
・朝、駅で待ち合わせをして、マリンタウンに向かう。
・10時32分開演の映画を観て、レストランで昼食。
・その後は雑貨屋巡りをしたり、スイーツを食べたり――
・16時45分、プラネタリウムで星空観察。
・外へ出ると、空が赤く染まり始めていて――
***
う~ん。
恋愛マスターの喜多さん監修の元、出来上がったこのデートプランは完璧なはずだったのに……
これまでのところ、昼食をレストランではなくてフードコートに変更したり、そこで服を汚して新しい服を買う羽目になったりというハプニングはあったものの、ほぼほぼ順調に行動できている。
「あっ、そうか! プラネタリウムに入る時間が早まった分、まだ夕陽が出ていないから焦っているのかい?」
「そういうことじゃなくてぇーッ」
「じゃあ、どういうことなんだよぉーッ」
「鈴木先輩と一緒に遊んでも、ドキドキわくわくしないんだもん! 全然楽しくないんだよー!」
「なんですとぉー!?」
ボクは思わず両手と片足を持ち上げるという変なアクションポーズをとってしまった。
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