出過ぎた杭は打たれない(陸)
ど、どうしよう……
ボクは花梨さんの箸の先端を見つめたまま動けずにいた。
「ん? ショタ君どうした?」
「えっと……」
「ん?」
「あ、あのね……」
「ん?」
「い、いや何でもない……」
「もうーッなんなのよーッ! 男ならはっきりと言いなさいよーッ! ショタ君は一人前の男になりたいんでしょう?」
なぜか怒られてしまった。
ひどい!
ボクが男だから困っているわけであり、仮にボクが女の子だったら、お箸の貸し借りなんて普通にできてしまうよね?
でも、一般常識がまるで通じない花梨さんにはそれが分からないのだろう。
それは以前から分かっていたことなんだ。
ボクは鼻息を荒く、ビシッと言ってやることにした。
男の代表として!
「いーかい、花梨さん! こーいうことは、本当に仲の良い相手でなければ普通はやらないことなんだ!」
「だから?」
「だ、だから……」
「カリンとショタ君は仲が良いじゃん?」
「えっ!?」
「だから、花梨のお箸を貸してあげるって言ってるんだよ?」
「はうっ!?」
澄んだ瞳を向けられて、思わず変な声を上げてしまったけれど――
「ち、違うよ! ボクが言っているのはそういう『仲が良い』じゃなくて……もっとこう……先に進んでいるというか……ほらっ、鈴木先輩みたいな相手と……あっ」
その名を口にした瞬間、浮ついていたボクの心が凍り付いた。
なぜだろう?
「鈴木センパイ?」
「うん、そうだよ。相手が鈴木先輩だったら……」
ズキンと胸に痛みが走る。
「…………」
「…………」
会話が途切れると、スピーカーから静かに流れる音楽が、やけに耳障りに感じる。
「あははは、ショタ君ったら、何を勘違いしているかなー? センパイとカリンは、まだなーんにも進んでいないよ?」
沈黙を破って、ころころと笑い始める花梨さん。
「えっ、えっ……? だ、だって……この一週間はお昼はずっと一緒に食べていたし、放課後は生徒会室や図書館で一緒に勉強していたし……ふ、ふたりは相当にラブラブなんだとばかり……」
すると、花梨さんは口から息をブーッと吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。
「まさかショタ君の口からラブラブなんて言葉が出てくるなんて、……ひい~! もう笑わせないでよーっ、ひい~、苦しい~っ」
「そ、そんなに笑わなくたって……」
唇をとがらせてそっぽを向くと、そんなボクの肩を容赦なくバンバンと叩いてくる。
さすがのボクも少しムカついてきたので、その手をパンと弾いて、言ってやった。
「花梨さんは鈴木先輩と付き合っているんだよね? なーんにも進展がないなんてことはないでしょ!? もう洗いざらい白状しなよ! キミは鈴木先輩とどこまで進んでいるんだ?」
一体……ボクは何を言っているんだろう?
その一瞬で花梨さんの顔から笑顔が消えて、下を向かれてしまった。
「ご、ごめん……」
「…………」
「あ、あの……」
慌てて謝ろうとするも、言葉が見つからない。
目の前で小さな肩がふるふると震えている。
こういうとき、男ならその肩を抱くべきなのかもしれないけれど……
これって、怒らせちゃった本人が抱いていいものなの?
「ショタ君!」
「はっ、はい!」
バッと顔を上げた花梨さんに対して、出しかけていた手を、思わずバンザイをするように振り上げた挙動不審なボク。
「男女の仲を進める方法を、カリンに教えて欲しいの!」
「えっ……えェ――――ッ!?」
ボクは壁を突き抜ける勢いで叫んでしまった。
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