第二章 鮫島花梨AAは女を磨きたい《高校入学編》

参上!男漁りの鮫嶋花梨(プロローグ)

 四月八日――


 桜の花びらが風に舞う緩やかな坂道を上っていくと、やがて木々の隙間から白亜の近代的建築物が顔をのぞかせる。


 ここは埼玉県屈指の難関私立高校とうたわれる星埜守ほしのもり学園高等学校。東大への現役合格率では全国トップ10に入る超々進学校なのである。


 真新しい制服に身を包む新入生たちは皆、これから始まる学園生活に少しの不安と大いなる期待を胸に、やがて母校となる星埜守ほしのもり学園の校舎を目指して歩いていた。


 そんな新入生の中にあって、異彩を放つ一人の少女がいた。栗色のショートボブの頭に星の形の髪飾りを刺した少女の名は鮫嶋花梨さめじまかりん


「はあ、はあ、よ、ようやくここまで辿り着いたわ、はあ、はあ」


 花梨かりんは自分の肩を抱き、声を震わせた。

 日頃の運動不足のせいで、長い坂の途中で肩で息をする彼女だが、声が震えているのはそのせいだけではない。

 

「本当に長かった、苦しかった。でも、そんな猛勉強の日々ともこれでお別れよ。花梨は今日から星高生なんだからっ!」


 両手を大きく広げ、空を仰ぎ見る。

 彼女には雲一つ無い春の空からゆらゆらと舞い降りる桜の花びらまでが、まるで自分を祝福してくれているように見えていた。


「花梨はここで自由を手にいれるの。もう……父様とうさまの言いなりになんか、ならないんだからねっ!」


 こぶしを握りしめ独りごちる。周りの生徒達から奇異の視線を浴びせられていることに、彼女はまだ気づいてはいない。


 ようやく視線の痛さを自覚した彼女は、軽く咳払いをしてから再び歩き始める。


 鮫嶋花梨さめじまかりん十六歳――

 特殊な環境で育った彼女は、少しヘンな子なのである。 



 花梨は校舎の入り口に向かう一人の男子生徒の袖を引っ張った。


「ねえ、あんた!」

「えっ、俺?」


 その男子生徒は背が高く、鼻筋が通ったいわゆるイケメン顔である。

 

「そう、あんた! 喜びなさい、カリンのオトコにしてあげるわ」

「け、結構です……」

「え?」


 花梨に腕をつかまれた男子生徒は、その手を振り払い、そそくさと校舎に入ってしまった。


「ええぇぇぇーっ!?」


 地面に膝をつき、天に向かって叫ぶ花梨。

 雲一つ無い突き抜けるような空は、どこまでも高く青かった。

 

「今、フラれたの? こんなに可愛いカリンがフラれたの? そんなことって有るのーっ!?」


 ムンクの叫びの如く、絶望的なまでのその表情は、周囲の誰をも受け付けない圧倒的なまでの異質感を放っていた。


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