第十七話 出場拒否!!


「勝手なまねは困りますな」


 聞き覚えのある声が響いた。

 ささーっ、と人垣が左右に割れ、恰幅のよい壮年の男があらわれた。

 武蔵屋徳兵衛である。


「太牙さまはただちに控えの間へもどっていただきましょう」


 有無をもいわせぬ迫力である。


「ここでこいつを倒せばわいが第十席や。番外として出場するより、はるかに得やないか」


 虎之介が城東地区の決勝を制して武術会に出場しても席次は番外扱いである。

 番付剣士と対して引き分けに持ち込まれれば、否応なしに敗者として退がらざるを得ない。


「取り決めは取り決め。従っていただきましょう」


 今更抗議など受け付けぬ、といわんばかりに徳兵衛がはねつける。


「せやけど――」


「おら、武術会にはでねえだよ」


 虎之介の言葉を途中で遮って大地がいった。


「はあ?」


 驚きと呆れが入り交じった声を虎之介はあげた。周囲もざわざわと小さな疑問の声を発している。


「おら、見せ物の試合をするつもりはねえだ」


 まっすぐ徳兵衛の眼を見ていう。


「せやったら、なんでここへきたんや?! 敵情視察やないんか!」


 ちらりと辰蔵を見やって虎之介が吠え立てた。

 辰蔵は辰蔵で虎之介の剣幕に身をすくめている。


「一馬がいるかと思ってきただ。一馬でなぐていい。その姉弟でも構わねえ。おら、一馬の居場所の手がかりがほしいっぺよ。

 武蔵屋さあ、教えてくんろ」


 虎之介に応えるのではなく、あくまで武蔵屋徳兵衛に向かって大地は静かに問いかけた。




   第十八話につづく


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