社会人オタク

正直良い大人になってアイドルというカテゴリーにハマるとは思わなかった。

よりくわしく訂正するとアイドルが好きなわけではなくそこにカテゴライズされる流星風流ってグループにどはまりしてる。


アイドル好きなの?気持ちわりぃ!あんなの音楽じゃない!オタク独自の娯楽だろ。


と見下していた自分がこんなにも流星風流にハマるとは夢にも思っていなかった。


後から知った話しなのだが、このグループ事態が今大人数アイドルグループのピークの中で興味を持っていない人間をアイドルにハマらせる、オタク側に引き込む事を狙いとしたグループだったらしいので、その策に見事にひっかかった。


きっかけは四枚目シングルのヒットだった。

好きなロック調の曲、大人へ反抗するような歌詞。良い大人がそこに同調するのは少し問題があるような気もするが、その歌詞、メロディが耳に残り、自然と口ずさむようになっていた中、歌番組で初めて目にした彼女たちの姿だった。


定番の学生服に身を包みながらも歌詞通り大人を敵と認識しているかのようにするどく光る眼光。

アイドルってもっとキラキラと笑顔振りまいているそんなイメージをぶっ壊した。


それからだった。彼女たちが出る番組はかかさずチェックするようになり、シングルデビュー前から冠番組を深夜にやっている事を知り全編見返したのは。


自分はいわゆる世間一般で経験するような青春を送ってこなかった。ただだらだらと進学し、その多くの日々はアルバイトをしながら過ごした。

自分の青春はタイムカードに刻まれている。


集団行動が不得意でその貴重な時間を代償にもらったお金はなにに使うでもなく消えていった。


あの頃なにも考えなかった自分を彼女たちに重ねてしまう。

かっこよく見えた彼女たちの多くは学生だ。一番若い子で中学生のメンバーすらいる。

当時の自分と比べてしまうとあまりにも自分が惨めだった。


しかし、彼女たちを追い続けている冠番組はやはりまだまだ若い、子供なんだなと、実感させられる。うまく話が出来ずに泣き出してしまったり、とにかく無邪気にはしゃいでいたり、アイドルじゃなかったらこんなもの番組にならないだろと思ってしまう程に、素の姿を見せる。

たかが、ゲームで悔しかったら泣き、嬉しかったら笑い、仲間の為に泣き笑いみんなではしゃぐそんな姿ばかり目にしてるうちに母性本能にも似た、父性本能のような感情が芽生えはじめた。


シングル参加メンバーも番組内で発表される。

なんとも酷な内容だ。共に歩んできた仲間と唯一席を競わねば行けぬ場。

名前を呼ばれ歓喜するもの、呼ばれず泣き出してしまうもの、名前を呼ばれていないにもかかわらず呼ばれた仲間を泣きながら祝福するもの。


どのリアクションにも嘘がないのだ。


少なくともアイドルをバカにしていた人間ですらそうゆう風に思える映像を彼女達は発信していた。

そして彼女達は少し影がある。

アイドルになりたい人間、アイドルをやっている人間なんて自己顕示欲の塊のようなキラキラ女子なのだろうと思っていたが彼女たちは違った。


学校に行かないで済む理由を探していた


早く親の手元を離れたかった


ずっと自分の事が大嫌いで自分を変えるきっかけが欲しかった


引きこもってアイドルのDVDばかりみていたら親に勝手に応募されてしまった


お金が欲しかった


いじめてきた人たちを見返してやりたい


オーディションに参加した理由を聞かれこんな風に答えるメンバーがちらほらいる。リアルで躓きアイドルに逃げ場を求めていた。リアルの生活で集団行動ができずにいた彼女たちはこの没個性の時代にまわりにそまらないマイノリティな集団であった。


どこまで本当なのかわからないが、彼女たちの言葉を疑う気持ちはなかった。

多くの子たちが今までの自分が嫌いでこのグループに入る事をきっかけに変わりたいと努力している姿が電波に乗り発信されていたからだ。


学生時代マイノリティですごして来た自分は彼女らの気持ちに共感を覚えるのもはまった理由の1つだろう。


もし自分もそんなきっかけがあったならと、選ばなかった未来を想像してしまう日もあるが、そちらのレールに乗った人生は彼女たちに任せることにした。


こんな自分だが全く芸能に興味がなかった、わけではない。むしろミーハーだ。

義務教育時代は学校には行かず録画したドラマや借りて来た映画を見て日中を過ごす。

夜は塾に通い学校に行かなかったハンデを取り返していた。あの頃の昼間は天国だった。


今が地獄ってわけではないが、あんなにも自分が好きなように過ごせる時間なんて大人になったらなかなかない。


朝起きて仕事をし、ご飯を食べカラスの行水のようにシャワーを済ませ眠る日々の繰り返し。


そこの隙間の時間をうまく使える人間は良いが自分はただだらだらとテレビやインターネットで埋めていた。休みの日も趣味と呼べるものはなく日々の疲れを取る為にひたすら寝て起きてを繰り返していた。

が、流星風流にはまってからは違った日々の隙間の多くを彼女たちで埋めた。むしろ隙間からはみ出す程だ。

オタク活動をする為に仕事を早く終わらせたり休みの日は握手会やライブに出歩くようになった。


大人になってからアイドルにはまるのはなかなかにたちが悪い。会社も実家から通えるところにあるので、実家暮らし未婚の男なんでアイドルに使えるお金はそれなりにある。


一時期はお嫁さんを見たがっていた母親も今では何も言わなくなった。


さらにこの時代便利なものだ。

インターネットの普及に伴い、日々の大半が出社せずとも仕事をこなすことができる。


流星風流は握手会前にミニライブを行なうのだが、このミニライブCDに付いてくる券を提示すれば無料で観覧できるのだ。実質無料のこのライブは入場するために長蛇の列ができる。


今だってその列に朝から並んでいる最中に仕事をこなしている。

ミーハーな自分は芸能人に会えるかも知れないと言う不純な動機で今の出版社に入社した。


テレビ番組や話題のエンタメを掲載してる雑誌が有名でそこに携われると思ったのだが、存外手広くやっているもので、今はネット小説部に所属している。


取り扱うものがネットコンテンツなのだから、仕事のほとんどがネットが繋がる場所ならどこでもできるのである。


一通り仕事を終えると列が動きだす。入場が始まったようだ。少しでもいい席で見れますようにと願いながら人の波にただひたすらに身をゆだねる。

会場の入り口付近で学生が入場者に声をかけている。


「ライブを秋田憂ちゃんのカラーで染めましょう!!」


SNSでも見かけた呼びかけだった。

自分も秋田憂推しなのでその提案に乗っかることにした。


学生の呼びかけは大成功で憂ちゃんはパフォーマンス中から目に涙を浮かべ喜んでいた。


ミニライブが終わると今度は一度会場を出て握手会の列の最後尾に加わる。ミニライブを蹴って握手会の列に並んでいる人もいるので、すでに長蛇の列だ。

そして再び仕事にとりかかる。

仕事を終え、少し時間を持て余すほどの時間列に並んでいた。ふと前の方に目をやると折り畳みの椅子を持参して座っている人がちらほら見えた。

毎度その光景を見るたびに今度は椅子を持ってこようと思うのだが、いつも忘れてしまう。

会場に入り憂ちゃんの握手列に並ぶ。会場に入ってからはメンバーごとの列に分散するのだ。

そこでも長い列を作るメンバーもいれば、並ぶことなく握手できるメンバーもいる。

個人での人気が目に見えてわかる。メンバーにとっては辛い景色かもしれない。

憂ちゃんの列で後ろに並んだ時、後ろに憂ちゃんへのサプライズを企画した学生がいることに気づいた。

大人ならではの余裕をみせてやろう。って気持ちとステキな企画のお礼をしたかったので憂ちゃんと握手をするさい


「今日のペンライトの企画つぎの学生さんが呼びかけたんだよ」


と、伝えると


「教えてくれてありがとう!私、お礼をしたいと思ってたの!」


いつもより強く握手してくれた。


なんにもしてないのになんだかいい事した気分になった。


アイドルとはなんと素晴らしいのだろう。


そして再びグッズ販売列に並びながら趣味も兼ねて、自身の担当するネット小説サイトで面白そうな小説がないかと探してみる。誰でも小説を投稿可能なサイトなので様々な小説が日々更新されている。


その中で1つ気になる小説を見つけた。


真珠星


いまひとり、死を決意したアイドル。

オタクの行動がアイドルの人生を変える。

そのきっかけをくれたのもアイドルだった。


とりあえずお気に入り登録をし、どのグッズを買うかに考えを集中させる事にする。

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